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深い懐と底知れぬ包容力を持った1台──新型GRヤリス MORIZO RR試乗記

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深い懐と底知れぬ包容力を持った1台──新型GRヤリス MORIZO RR試乗記

200台限定の超希少な新型「GRヤリス MORIZO RR」に、ひと足早く乗った! 『GQ JAPAN』ライフスタイルエディターのイナガキがリポートする。

新型GRヤリス MORIZO RRの特徴

進化の歴史の最先端──新型GRヤリス MORIZO RR試乗記

1.クルマ作りへの確固たる哲学2.真のドライバーズカー3.歴史的な1台1.クルマ作りへの確固たる哲学

(前のページから続く)規格外の特別仕様車であるMORIZO RRは、一体どのような思想と哲学の下に生み出されたのか?

筆者は開発担当者に直接インタビューを試み、深層へと迫った。

担当者の口からまず語られたのは、本モデルの希少性であった。MORIZO RRは、日本国内向けにわずか100台、そしてホットハッチ市場が成熟し、GRブランドへの高い評価が根付いている欧州の一部地域に向けても100台、全世界で合計わずか200台しか生産されないといった、幻のようなモデルとのこと。

国内の100台については、GRアプリを通じた厳正なる抽選販売となり、2026年の春以降に申し込みの受付が開始される予定という。

欧州でも一般のGRヤリスは販売されているが、これほどまでに尖った、ある意味でマニアックな仕様のモデルに対する評価は未知数な部分もあるそうだ。

しかし、競合ひしめく欧州のホットハッチ市場においても、四輪駆動で300ps超を発揮し、特別なエアロパッケージを纏ったMORIZO RRは、唯一無二の存在感を放ち、熱狂的な支持を集めるはずだと開発陣は確信を持っているようであった。

開発の起点となったのは、モリゾウ氏自身がステアリングを握り、チームとともに戦い抜いた2025年のニュルブルクリンク24時間耐久レースである。過酷な耐久レースを通じて培われた、クルマとドライバーとの一体感の高さ、そして限界状況下における信頼性と安心感を、いかにして市販車に直接的に反映させるか。それがプロジェクトの最大のテーマであったという。

担当者は熱っぽく語った。

「あの巨大なカーボン製リヤウィングは、2025年のニュル24時間を走ったニュルブルクリンク用のウィングを、ほぼそのまま量産の形に落とし込んだものです。ニュルの超高速域や激しいアップダウンの中で、車体を路面に押さえつけるためには、これほどの強大なダウンフォースが必要だったのです」

強力なダウンフォースを得るために重量が増加しては本末転倒であるが、高価なカーボン素材を使用し、通常のウィングよりも軽量に仕上がっているそうだ。

このウィングが生み出すダウンフォースは、従来のエアロパッケージ装着車と比較してもさらに強力であり、高速走行時の安定性に絶大な寄与をもたらす。

しかし、ただ巨大な空力パーツを装着しただけではない。

「カーボン製専用リヤウィングによって得られる強大なダウンフォースを前提として、路面への追従性を極限まで高めるための専用のショックアブソーバーの減衰力設定を施しています」と担当者は力説した。

ニュルブルクリンク特有の、車体が宙に浮くほどの激しい起伏においても、四輪のタイヤが確実に路面を捉え続けることができるよう、徹底的にチューニングが繰り返された。結果、スポーツ走行における究極の限界性能と、日常使いにおけるしなやかで快適な乗りやすさを高次元で両立させることに成功した。

また、電動パワーステアリング(EPS)の制御についても、このモデルのためだけの専用チューニングが実施されている。これにより、ドライバーはステアリングを通じて路面の状況やタイヤのグリップ状態を正確に把握し、まるでクルマと直接対話しているかのようなハイパフォーマンスモデルとしての仕上がりを見せているとのことだ。

さらに話題は、本モデルの中核をなす独自の四輪駆動制御へと移っていった。

MORIZO RRには、ベース車両に設定されている「GRAVEL」モードを置き換える形で、全く新しい専用の4WDモードである「MORIZO」モードが搭載されている。本モードは、どのような路面状況でも、特にあの“魔の森”と呼ばれるニュルブルクリンクを、ドライバーが安心して走り切るのを目的として開発された。

具体的なセッティングとしては、最適なイニシャルトルクと駆動力配分が極限まで追求され、最終的に前輪50、後輪50という、完全に均等な駆動力配分に設定。その理由について担当者は、「プロのレーシングドライバーであれば、リアが滑り出すようなピーキーな挙動でも適切にコントロールし、速さに繋げることができます。しかし、我々が目指したのは、一般のドライバーが、少し路面が濡れていたり、荒れていたりするような状況でも、一切の不安を感じることなく、安全に、そして絶対的な自信を持ってアクセルを踏み込んでいける車です。様々な配分をテストした結果、誰にとっても最も安定感があり、接地感を強く感じられるのが、この50:50というバランスだったのです」と明かしてくれた。この言葉からは、ただカタログ上のスペックや、限られたプロフェッショナルだけが引き出せる絶対的な速さを追求するのではなく、クルマを愛するすべての人が、安全にスポーツドライビングの歓びを享受できるようにするといった、モリゾウとGRチームの深い愛情とクルマ作りへの確固たる哲学がひしひしと伝わってきた。

2.真のドライバーズカー

開発陣の熱い想いを胸に、いよいよ試乗の機会を得た。今回筆者がステアリングを握るのは、左ハンドル仕様の欧州向けモデルだ。

深いスエードのシートに身を沈め、ブレーキペダルを踏み込みながらエンジンのスタートボタンを押す。その瞬間、強化された1.6リッター直列3気筒ターボエンジンが低い咆哮とともに目覚め、迫力のある重低音がキャビン内に響き渡った。アイドリングの振動は抑えられているものの、これから始まる非日常的な体験を予感させるには十分な凄みを帯びていた。

ステアリングを握り直す。新設計のGRステアリングは、手のひらに吸い付くように馴染み、スエードの感触が運転への集中力を研ぎ澄ませていく。

シフトレバーをDレンジに入れ、まずはドライブモードを「Normal」に設定してピットレーンを静かに滑り出す。走り出して数m、最初のコーナーを曲がっただけで、激しい衝撃と感動を受けた。これほどまでに強固に補強されたボディと専用の足回りを備え、巨大なウィングを背負っているにもかかわらず、乗り心地は信じられないほどにマイルドだった。路面の細かな凹凸を専用サスペンションが軽やかにいなし、不快な突き上げがキャビンに伝わってこない。

いよいよドライブモードのスイッチを操作し、注目の専用「MORIZO」モードへと切り替える。メーターパネルの表示が切り替わり、クルマ全体の空気が一変したのを肌で感じた。

アクセルペダルに力を込めると、強力なターボエンジンが爆発的な加速力を発揮し、車体を強烈に前へと押し出す。その際、エキゾーストノートはさらに野性味を帯び、官能的で素晴らしいサウンドを奏ではじめた。

コーナーが迫ってくる。ブレーキングで速度を落とし、ステアリングを切り込む。ここでの挙動が、これまでのどんなスポーツカーとも決定的に異なっていた。ステアリングの剛性感は岩のように高く、切った分だけ寸分の狂いもなくノーズがインを向く。「MORIZO」モードの50:50という四輪駆動制御が完璧に機能しており、フロントが外に逃げるアンダーステアの兆候も、リアが唐突にブレイクするオーバーステアの不安も感じさせない。まるで4つのタイヤがそれぞれ自らの意思を持って路面を強烈に掴んでいるかのような、絶対的な安定感がそこにあった。

深いコーナーの途中で、限界を探るべくあえて荒っぽくアクセルを踏み込んでみても、車体は一瞬の乱れも見せない。この接地感、安心感こそが、ニュルブルクリンクで鍛え抜かれた証なのだ。

さらに速度域が上がっていくと、背後にそびえ立つカーボン製専用リヤウィングがその真価を発揮し始める。

強烈な空力の力、すなわちダウンフォースがリアを路面に強固に押し付け、高速になればなるほど、車体はまるでレールの上を走っているかのような強烈な路面追従性を見せつける。車体の浮き上がりは抑え込まれ、ドライバーは恐怖心を感じることなく、ひたすらにスピードの向こう側を目指せる。

ステアリングを通じて伝わってくる路面のインフォメーションは豊かで、タイヤが今、どのような状態にあるのかが、手に取るように理解できる。まさに、専用チューニングされたEPSがもたらす“クルマとの対話”といえよう。

筆者は夢中でステアリングを切り、アクセルを踏み続けた。そこには、ただ純粋な操る歓びだけが存在した。MORIZO RRは、ドライバーの腕前を底上げしてくれるかのような、深い懐と底知れぬ包容力を持った、真のドライバーズカーであった。

3.歴史的な1台

今回のメディア向けイベントは「GR-FOURメディア試乗会」と銘打たれており、富士スピードウェイを舞台に、GRヤリス MORIZO RRの披露だけでなく、「GRカローラ」など他のGRモデルに関する説明も行われ、トヨタがガズーレーシングのブランドを通じて、スポーツカー文化を醸成しようとしている意志を感じ取ることができた。

特に興味深かったのは、クルマを作って売って終わりではなく、購入した後の顧客に対して、新しいドライビングエクスペリエンスを提供し続けるための「アップグレードプログラム」についての言及であった。

これは、モータースポーツの現場で日々進化し続ける最新のソフトウェア制御などを既存のユーザーの車両にも適用できるようにするという取り組みであり、クルマが常に最新の状態へと進化していく未来を示唆されている。

トヨタは、真の意味での“もっといいクルマづくり”をモータースポーツといった極限の実験室を通じて実践し、そこで得られた果実を市販車へと還元し続けている。その象徴的かつ究極の存在が、今回試乗したGRヤリス MORIZO RRに他ならない。2025年のニュルブルクリンク24時間レースでモリゾウ自らが感じ取った「もっと安心感を」といった切実な願いを具現化するために、莫大なコストをかけて開発されたカーボン製リヤウィングと専用の足回り、そして誰もが安全に限界を楽しめるように50:50に固定された「MORIZO」モード。これらすべての要素が完璧に噛み合い、あの速さと対話感を生み出しているのである。

限定200台はあまりにも少ないが、このクルマが自動車産業の歴史に名を残すだろう。

今回、この歴史的な1台の神髄に触れられた幸運を深く噛み締めながら、暮れゆく富士スピードウェイを後にした。

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文:GQ JAPAN 稲垣邦康(GQ)
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