今ではほとんど見かけなくなってしまったが、90年代のスポーツカーの多くには、巨大なリアウイングがついていた。「リアにダウンフォースを発生させて速く走るため」につけられていたものだが、公道を走るクルマのリアウイングに、どれほどの意味があるのか、と、疑問を感じていた方も少なくないだろう。
はたして、あの巨大なリアウイングには、どれほどの効果があったのだろうか。
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文:吉川賢一
写真: NISSAN、TOYOTA、MITSUBISHI、ベストカー編集部
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クルマは高速走行するとリフトフォースが働く
一般的に、クルマは高速走行をすると、ボディ上面を流れる空気とボディ下面を流れる空気の流れの速度差によって、車体にはリフトフォース(揚力)が働く。
その力は、速度が高まるほどに2次関数的に増え、高速走行中にハンドルが軽くなったり、些細な横風でも左右にクルマが流されやすくなったりと、車両挙動へ悪影響を及ぼす。特に、背の高いSUVやミニバンでは、床下に多くの空気が入り込みやすく、フロントにリフトフォースが大きく働きやすい。
1995年にデビューしたR33スカイラインGT-Rの特徴の一つが、角度調整機能が付いたこのリアスポイラーだ。角度は4段階あり、高速で走るサーキットのコーナーでは、この効果が絶大に表れた
こうしたリフトフォースは、高速走行になる程に、クルマの挙動が不安定になりやすい。そのため、F1やスーパーGTといったレースに出るレーシングカーでは、巨大なリアウイングを装備することでダウンフォースを働かせ、タイヤをより接地させてグリップを稼ぎ、コーナリングスピードを上げている。
平均車速200km/hオーバーで走るレーシングカーだと、リアウイングの効果は絶大で、これらレーシングカーにとって空力セッティングは、タイヤの次に重要なファクターなのだ。
1998年1月発売の三菱ランサーエボリューションV。可変迎え角のリアウイングを搭載
1990年に登場した三菱GTO。前後のスポイラーが可変するアクティブエアロシステムを装備。1998年に登場したマイナーチェンジ版が最終型となり、最も大きなリアウイングとなった
日常使用領域でも効果はあるのか
実際に、日常でのダウンフォースはどの程度働くのだろうか。ということで、実車のデータを使って概算してみようと思う。昔のクルマだと、CL値(揚力係数)を公表しているクルマがあった。ホンダ初代NSXのカタログによると、「CLf(フロントの揚力係数)=-0.04」「CLr(リアの揚力係数)=-0.06」と書かれている。ちなみにマイナスは、「リフトフォースの逆=ダウンフォース」だ。
この数字を参考に、ダウンフォース量を理論式(ダウンフォース量=1/2×A(前面投影面積)×ρ(気体密度)×CL(揚力係数)×V(速度)^2)で計算すると、以下の結果となる。
・車速 60km/hのとき、フロント-1.8kg、リア-2.7kg
・車速 90km/hのとき、フロント-4.1kg、リア-6.1kg
・車速 120km/hのとき、フロント-7.3kg、リア-10.9kg
・車速 160km/hのとき、フロント-16.4kg、リア-24.7kg
初代NSXの車重は1350kg、フロント42:リア58の重量配分なので、前輪荷重は567kg、後輪荷重は783kg。
この輪荷重に、車速に応じた空力分が、付加されることになる。車速が60km/hだと影響度は0.3パーセント(1.8kg/567kg=0.003=0.3%)と小さく、この程度だと一般の方が公道での走行で感じるのは難しい。車速120km/hになると約1パーセント、160km/hだと約3パーセントと、徐々に大きくなることがわかる。
初代NSX。フェラーリ越えを目指して開発された、唯一無二の国産スーパーカーだ
この1パーセント、3パーセントの差が、トレーニングを受けていない一般のユーザーに分かるのか? というと、「分からない」かもしれない。だが、高速走行しているときには、間違いなくクルマを安定させる方向に空力は設計されている。我々は、知らず知らずのうちに恩恵を得ているのだ。
ちなみに、60km/h程度であっても、優秀なセンシング機能を備えたテストドライバーには差が分かる。筆者はエンジニア時代に、トランクリッドスポイラーの高さ違いの実験をしたことがあるが、実験テストドライバーは、5ミリの高さの違いならば60km/h程度でも分かっていた。
ただし、これは熟練のテストドライバーが、テストコース内で行った場合だ。前述したように、一般人がリアルワールドで空力の違いを感じ取ることは、おそらくできないだろう。
なお、念のため付言すると、発生するダウンフォースが小さくて、公道走行において一般ドライバーが体感できようができまいが、「リアウイングに意味がない」などということはまったくない。リアウイングには「カッコいい」という最大にして最強の意味と価値と効果がある。
空を飛びたいなら背中に翼を生やす必要はなく飛行機に乗ればいいのだし、目的地に1秒早く着きたければ10分早く家を出発すればいい。リアウイングはリアウイングであるだけで価値と効果がある。当たり前の話ですね。
1993年に登場したA80スープラ。流麗なカーブをもったグラマラスなボディスライルに合うよう、大きな弧を描いた大型スポイラーがオプションで用意されていた
現代は目立たないかたちで織り込まれている
巨大なリアウイングが流行した90年代当時は、まだ今ほど詳細なエアロダイナミクスのシミュレーションができていなかった。レーシングドライバーやテストドライバーの声を聞き、開発エンジニアが経験と勘で形をつくり込み、実走テストで決めていたようだ。
近年、あの大きなリアウイングを見かけなくなったのは、シミュレーション技術の進化によって、床下やボディの形状を工夫することで、リフトフォースを低減できることがわかったためだ。
リアウイングは、ダウンフォースと共に、大量のドラッグ(空気抵抗)を発生する。現代の空力シミュレーションでは、ダウンフォースの増大と、ドラッグの低減を、いかにバランスよく改善させられるかに注力している。
ボディ表面を流れてきた気流が、ボディのどのあたりから剥離して渦となって飛んでいくのか。流体シミュレーションと実験検証を行い、フロントバンパーに空けたエアインテークや、サイドシルのライン、テールランプ形状、そして床面のフラット化など、目立たないかたちで織り込んでいる。90年代はできなかった技術が、現代は織り込まれているのだ。
メガーヌR.S.は、ライバルのシビックタイプRとは対照的に、ボディ上屋の空力不可物が見当たらない。ダウンフォースのほとんどは床面で稼いでいるということだ
後方視界を妨げるような巨大なリアウイングを使わずとも、同等以上の効果を発生できるのであれば、あえてリアウイングにする必要はなくなる。時速300km/hを超える速度を出すR35型GT-Rが、あれほど小さなリアウイングで済んでいるのは、そのためだ。
R35 GT-R NISMOのリアウィング。ベースとなるGT-Rよりも巨大なリアウイングを装着し、GTマシンさながらの雰囲気を醸しだしている
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みんなのコメント
付いてるだけでカッコ良くなった気がするし、安定感が増した気がするし、速くなった気がする。
何なら馬力まで上がった気がするし、映画の様に空も飛べる気がする(笑)
痛い勘違いと思われようが本人が満足ならオッケー。
俺はハネ付きの車が大好きだ!
洗車後のタオルを掛けるのに重宝した!