14歳少女が映す制度の盲点
2025年7月1日、兵庫県姫路市で14歳の女子中学生が、他人宅の玄関先に置かれていた「韓国のり」を盗んだとして逮捕された。商品はネットで注文され、配達業者が玄関先に届けた「置き配」品だった。
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置き配とは、配達員が荷物を玄関前や指定場所に置いていく配送方式を指す。対面受け取りの必要がなく、不在時でも荷物を受け取れることから、ここ数年で急速に普及した。
少女は警察の調べに対し、
「中身が何なのか気になったので持って行ってしまいました」
「(中身が)韓国のりだったのでハズレだと思いました」
「(自分は韓国のりが好きではないので)友達にあげました」
と話しているという(ABCテレビ)。行為の軽さは、まるでスナック菓子をコンビニで万引きする感覚に近い。
この事件を子どものいたずらとして済ませるのはたやすい。あるいは、防犯意識が足りないとして受取人や配達業者に責任を転嫁することもできる。だが、そうした見方では問題の本質に届かない。
いま本当に問うべきは、「なぜ、こうしたトラブルが繰り返されるのか」ということだ。そしてその背景には、置き配という仕組みが抱える脆弱性と、社会全体の認識ギャップが潜んでいる可能性がある。
相談件数4.5倍の置き配盗難
国土交通省は2025年6月、宅配便の基本ルールに置き配を標準化する方針を発表した。背景にあるのは、
・慢性的なドライバー不足
・再配達のコスト高
である。宅配大手3社は既に対応を進めており、再配達の有料化も視野に入る。国も業界も、置き配を次の当たり前として推し進める。
だが、置き配を巡るトラブルは増加の一途をたどる。東京都では、破損・紛失などの相談件数がこの5年で
「4.5倍」
に。特に顕著なのが「盗難」だ。宅配ボックスが満杯で使えず、仕方なく玄関前に置いた荷物が消える──そんな事例が、都市部を中心に報告されている。
ここで重要なのは、置き配という制度が、本来は配送効率化のために導入されているという点である。つまり、それは「配る側」の論理によってつくられた仕組みであり、
「受け取る側」
の暮らしや不安は、制度設計の周辺に追いやられがちだ。置き配は便利だが、安全性は担保されていない。配達完了の証拠は「玄関前の写真」で済まされ、盗難リスクは、原則として受取人が負う。
制度が人々に何かを強いるとき、そこに生じる生活のずれは往々にして見逃される。そして、盗難という事件は、そのずれが露わになった瞬間である。
置き配盗難増加の構造的背景
今回の姫路の事件で象徴的だったのは、犯行動機がきわめて希薄だった点だ。前述のとおり、少女は荷物の中身を確認せずに持ち去り、韓国のりだと分かると「ハズレだった」と落胆し、友人に譲ったという。
この行動の背後には、ふたつの欠落がある。ひとつは、「他人の空間や所有物に対する敬意の欠落」。もうひとつは、置き配が本来「誰かが他人の空間に意図を持ってモノを届ける」という、
「社会的な信頼関係を前提にしているという認識の欠如」
である。この二重の欠落は、言い換えれば「見えない関係性の喪失」だ。いまや多くの人にとって、荷物の送り主も届け主も顔が見えない。玄関先に置かれた荷物は、所有物というより、
「誰かが落としていった私物」
のように映る。そう見えるからこそ、人は拾うようにそれを盗む。犯罪意識が薄れる背景には、こうした関係の不在がある。
だが、問題は少女ひとりの倫理観ではない。テクノロジーが加速させた非対面社会において、人と人との関係がどこまで分断されているのか。それを認識できなくなっている社会全体の課題である。
現在の物流は経路の最適化に重心を置きすぎている。AIによる配車計画、再配達の削減、配送ルートの短縮。こうした取り組みは確かに効率的だが、その一方で、
「配達とは何を誰に届ける行為なのか」
という根本的な問いが置き去りにされている。玄関前に無造作に置かれた紙袋。それを拾った子ども。それに気づかず、配達完了として記録される写真。そこには、かつて「届ける」という行為に宿っていた緊張感や手触り、あるいは期待感さえも、もはや存在していない。
置き配の普及は避けがたい未来だ。だからこそ逆説的に、配達の質が改めて問われるべき時代に入った。効率化の果てに無感情な移動しか残らない社会では、盗難は例外ではなく、日常に埋め込まれたバグとなる。
「届ける」行為の再定義
対策が必要であることはいうまでもない。宅配ボックスの普及、置き配保険や補償制度の整備、さらには各社によるガイドラインの明文化といった、物理的・制度的な対応は不可欠だ。しかし、それ以上に求められるのは、届けるとは何かを社会として再定義することではないか。
置き配が当たり前になる社会で、盗難を防ぐには鍵や監視カメラの強化だけでは不十分だ。重要なのは、人々が玄関先の荷物を「誰かの大切なもの」として見るまなざしを共有できるかどうか。その文化的土壌がなければ、いずれあらゆる施錠も無力化する。
強調すべきは、いま我々が直面しているのは「信頼社会の試練」であるという点だ。ネットで何でも買える時代、私たちはモノを手に入れる自由を獲得したが、その一方で、人と人との信頼の糸を少しずつ緩めてきたのかもしれない。
置き配をめぐるトラブルは、単なる盗難事件ではない。それは、現在の物流が抱える“非対面社会”という矛盾をあらわにする出来事である。配送が人の営みと切り離され、無感情な流通手段へと変質していくとき、そこに入り込むのは盗難やトラブルだけではない。むしろ、最も深刻なのは「空虚さ」が忍び込むことだ。
盗まれたのは韓国のりではない。失われたのは、「人と人との関係」である。この国の物流が、効率だけでなく信頼の織物として再び編み直されるためには、トラブルを一過性の「事件」として消費するだけでは足りない。必要なのは、その背後にある「社会のかたち」に目を向ける視点である。(猫柳蓮(フリーライター))
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みんなのコメント
持ち主が目の前にいたって置き引きやひったくりが横行する国ではそもそも置き配なんてものはありえないわけで。
移民が増えていくのが避けられない中で置き配をスタンダード化しようという発想が理解できない。