モータースポーツだけでなく、クルマの最新技術から環境問題までワールドワイドに取材を重ねる自動車ジャーナリスト、大谷達也氏。本コラムでは、さまざまな現場をその目で見てきたからこそ語れる大谷氏の本音トークで、日本のモータースポーツ界の課題を浮き彫りにしていきます。
第3回は『さまざまなスポーツと対比させてみえてくる、モータースポーツの魅力と弱点(前編)』がテーマです。
「レースはメーカーのため? それともファンのため?」日欧の違いが見えたスーパーGT×DTM特別交流戦【大谷達也のモータースポーツ時評】
2019年に日本中で類を見ない旋風を巻き起こした『ラグビー』を例に出しながら、掘り下げて行きます。
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今回は少し趣向を変えて、さまざまなスポーツと対比しながらモータースポーツの魅力と弱点について語ってみたいと思います。
2020年を迎えて、スポーツファンの関心は東京オリンピック・パラリンピックへと向かっていますが、忘れていませんか? つい3カ月ほど前まで日本中でラグビーが熱く盛り上がっていたことを……。
私は運よくラグビー・ワールドカップの一戦を生で観戦しましたが、迫力があってスピーディで感動的で、人気の秘密が少しだけわかったような気がしました。でも、ラグビーがこんなに日本でブームになると私には予想できなかったのも事実。なぜなら、ラグビーは私が考える“理想のスポーツ”とは、ほど遠い存在だからです。
私が考える理想のスポーツとはなにか? それはより多くの人々がファンになるポテンシャルを秘めた競技のことです。その条件を私なりに考えてみたところ、実に明快な答えに辿り着いたのでここで紹介しましょう。
まず、ルールがシンプルで、誰でもひと目見ただけで試合の状況が掴めることがもっとも大切。サッカーやバスケットボールはその代表です。なぜなら、いずれも競技の目的が『ゴールにボールを入れること』と極めてシンプル。
したがって各選手がどんな目的で動いているのかがわかりやすい。反則の種類が少ないことも試合の流れを理解するうえでは有利です。
この点、野球やラグビーは不利。長年親しんでいる私たちには、なんの問題もない野球ですが、あの攻守を入れ替えるシステムは世界中のスポーツを見渡しても極めて少数派。ラグビーもルールが難解で、とりわけ反則の種類が多い点は不利です。
私が考える理想のスポーツで、もうひとつ重要なのは、全般的には「強い者が勝つ」という原則が貫かれていながらも、適度な偶然性が織り込まれていてときに大きな番狂わせが起きる可能性を秘めている点にあります。
この点でもサッカーは有利。なにしろ、手に比べれば正確に動かすのがはるかに難しい足を使ってボールを蹴るのですから、不確定要素が入りやすく、したがって試合の結果は予想しにくい。やや強引な理屈かもしれませんが、ラグビーはこの点でも不利です。
なにしろボールを手に持って前に向かって走れるのですから、選手の行動にさまざまな制限のあるサッカーやバスケットボールに比べれば、偶然性の入り込む余地は本質的に少ないといえます。
それでも、私を含めた多くの日本人がラグビー・ワールドカップを戦う日本代表の姿を見て熱くなり、そして涙を流したはずです。なぜでしょうか?
判官贔屓、つまり弱い者に同情して応援する気持ちは日本人に特に強いように思います。ラグビーの日本代表が弱かったなんていったらこのサイトが炎上しそうですが、日本代表がワールドカップで上位に食い込んだことがないのは歴史的な事実。
その歴史を覆して決勝リーグにまで駒を進めたのですから、私たちが感動したのはある意味で当然といえます。なにせ、あんなに身体が大きくてどう猛そうな外国チーム(失礼!)を相手に正々堂々と肉弾戦を繰り広げて勝利したのです。彼らの勇気と努力はどれほど賞賛しても賞賛しすぎることはならないでしょう。
それでもラグビーのルールが難しいことには変わりありません。ただし、私を含めた“にわかラグビー・ファン”の多くは、ラグビーというスポーツのおおよその仕組みを理解しただけで、ルールの詳細までは把握していなかったはずです。
それでも多くの日本人が感動できたのは、力尽くで前に突進するというラグビーのシンプルな原理が認められ、その魅力がテレビなどを通じて広く伝えられたからでしょう。
ラグビーのあの複雑なルールも、『ボールを持って前に突進する』というシンプルなラグビーの本質をスポーツとして成立させるためになくてはならない要素だと私は捉えています。また、パスワークの進化によりゲームがよりスピーディになったことも人気を博した秘密だと長年のラグビーファンは私に教えてくれました。
もっとも、私がこのコラムを書いているのは、いまさら皆さんにラグビーの魅力を語るのが目的ではありません。
私たちが大好きなモータースポーツは、ここに挙げたさまざまな観点から見つめたときにどんな長所があり、そしてどんな弱点があるのか。これらを意識することで、モータースポーツへの理解がより深まり、ひいては未来のモータースポーツについて議論するひとつのきっかけになると信じているからです。
今回は、いわばその前置き。次回は、こうした視点から見渡したときにモータースポーツにはどんな魅力があってどんな弱点があるのかについてお話ししましょう。
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