フィアット「500」
ポップなスタイリングのフィアット500だが、オリジナルは1957年に発表されたリアエンジンのコンパクトカー。戦後のモータリゼーションを支えるべく、安価で小さく、ベスパなどスクーターからのステップアップ層をターゲットに設計されたクルマだった。
オリジナルモデルは479ccの2気筒エンジンを搭載し、最高出力は13ps。500の車名は、排気量を四捨五入した数字から来ている。当時のフィアットでは一般的な手法であり、633ccの4気筒エンジンを搭載したクルマは、650ではなく、600と名前がつけられている。
後期モデルではフィアット126譲りの594cc2気筒エンジンに変わっているが、モデル名は500のまま。末尾につく「R」は、そのクルマの進化版を表している。イタリア語で刷新を意味する、「Rinnovata」の略だ。
ランボルギーニの「闘牛たち」
ランボルギーニといえば暴れ牛のエンブレムをイメージすると思うが、フェラーリとは異なり、単語を用いた名称をクルマに与えるという歴史を持っている。アヴェンタドールは1993年にスペインの闘牛場で活躍した雄牛の名前からとったもの。
ウラカンも、スペイン語でのハリケーンの発音にも似ているが、こちらも1897年の闘牛に出場していた雄牛から来ている。ちなみにウルスは、闘牛場で戦った経歴はないはず。17世紀に絶滅した巨大な体格を持つ牛の名前だったのだ。ちなみにフォードにも、トーラスというモデルがあるが、こちらも雄牛に由来する名前だ。
マツダ「MX-5ミアータ」(ロードスター)
マツダ・ロードスターの世界的に用いられている名称が、MX-5。これはマツダ実験的(Mazda Experimental)プロジェクトの5番目を意味している。ミアータは、北米市場向けに付けられたもので、ドイツ語で称賛やご褒美を意味する単語。
MX-5ミアータが、ドライバーとの濃密なドライバビリティを持つことへの称賛を集めたクルマなのか、一生懸命働いたお金で手に入れたドライバーへのご褒美としてのクルマなのかは、それぞれの受け止め方によって異なるだろう。
メルセデス・ベンツ「Eクラス」
メルセデス・ベンツがEクラスを正式に発表する以前にも、車名に「E」を冠したクルマは存在していた。かつてのメルセデス・ベンツの車名は、排気量の数字が初めにきて、続いてクルマの特徴を示すアルファベットの頭文字がついていた。Eの場合は、フュエルインジェクション・システムのドイツ語「Einspritzung 」の頭文字となる。例えば280Eの場合、2.8ℓのエンジンにフュエルインジェクションが搭載されていることを示していた。
初めてメルセデス・ベンツのEクラスが登場したのは1994年。名車として名高いW124と呼ばれるクルマの時代で、排気量ではなくボディサイズや形状から名前を整理したことによる。フュエルインジェクションはもちろん搭載していたが、エントリーモデルのCクラスとフラッグシップモデルのSクラスの中間に位置するクルマとして、Eというアルファベットが選択された。
メルセデス・ベンツ「Gクラス」
1979年に登場したSUVに付けられている名前はGクラス。語源はドイツ語でクロスカントリー・ビークルに相当するゲレンデヴァーゲン「Gel・・ndewagen」の頭文字となる。欧州ではGワゴンとしても呼ばれることが多い。1994年に入り、メルセデス・ベンツはモデルラインナップの名称ルールの変更に伴い、ゲレンデヴァーゲンではなくGクラスに改めている。
日産「キャシュカイ」(日本名:デュアリス)
AUTOCARの読者なら、キャシュカイが日産の売れ筋SUVだということはご存知だろう。一方で人類学の書物によれば、キャシュカイ(Qashqai)とは移住者や遊牧民を指すという。特に、イラン西部のザクロス山脈周辺に住むトルコ語を話すひとびとのことのようだ。なぜ日産のSUVに遊牧民の名前が用いられたのかは定かではないが、恐らくカッコよく聞こえる、ということも理由のひとつにはあるだろう。
一方でアメリカでは、発音しにくい名前を好まない傾向があり、日産もキャシュカイではなく「ローグ・スポーツ」という名前をあてている。ちなみに英語のローグ(Rogue)には、放浪者やわんぱくな子供、といった意味がある。日本でも初代は売られており、その名前はデュアリスだった。
プジョー「3桁の数字」
プジョーが中央に0が入った3桁の数字をクルマの名称に用いるようになったのは、1929年に発表された201が始まり。その後すぐに、プジョーのショールームには301と401、601というモデルも加わった。その中には、フロントグリルの下部にモデル名のエンブレムがレイアウトされ、中央の0をエンジン始動用のクランクを刺す穴として用いられているクルマもあった。このデザイナーによる賢いアイデアは、プジョーも気に入っていたようで、しばらく採用されていた。
しかし時間の経過とともにクランクは消滅。3桁の数字の増加も2012年にストップしている。コンパクト・ハッチバックの208の次期モデルは、209ではなく、208になる予定だ。またプジョーは稀にその3桁の例外も用いている。軍用車両のプジョーP4や、シティコミューターの1007、スポーツクーペのRCZなどは読破もご存知だろう。そして2019年の今では、SUVモデルに限って3008など、0を2つ並べた4桁の数字を用いている。
ポルシェ「911」
1963年のフランクフルト自動車ショーでポルシェが新しいスポーツクーペ、901を発表すると、一躍注目を集める存在となった。ポルシェ356の後継モデルとして長らく待ちわびられていた、スリークなデザインにパワフルなエンジンを持つクーペは、世界中で話題となった。そして、フランスのプジョーも、まったく別の意味で901に注目することになる。
プジョーはポルシェに対し、3桁の数字で中央に0を用いる自動車名の権利は、すべてプジョーが保有していることを通告する。当時のプジョーには901という名前のクルマをリリースする予定もなく、もちろんリアエンジンのスポーツカーを生み出す予定もなかった。しかし、ポルシェによる商標権侵害を、プジョーは認めることはなかった。
結果として0のかわりに1を用いることで、ポルシェを象徴する911が誕生する。この商標権問題が明るみになる前に製造された82台のクーペには、901のエンブレムが貼られている。
ルノー「トゥインゴ」
1990年にルノーはクリオを発表するが、その頃からルノーのモデル名は数字を用いたものから変わりつつあった。新しく設定された命名システムは、ルノー自体の新しい時代の始まりを物語るものでもあった。
そんな中でマーケティング部門は、1993年に発表されるエントリーモデルにトゥインゴ(Twingo)という名前を与える。これは、3種類のダンススタイル、ツイスト(Twist)、スイング(Swing)、タンゴ(Tango)を組合せた造語だ。
テスラ「隠されたクロスワード」
テスラ社が初めてリリースしたクルマは、シンプルにロードスターと呼ばれていた。2012年のモデルS発売に合わせて、カリフォルニアを拠点とする同社は命名システムを新たに設定した。それ以降モデル3、モデルXなどが発表されており、さらに2019年にはモデルYと呼ばれる小さなSUVも発表されている。ここまでのモデル名を並べると、「S3XY」となる。
実は、テスラはエントリーモデルをモデル3ではなく、モデルEとして当初発表する予定だった。しかし、フォードがモデルEの使用権を保有しており、提訴の可能性もあるとテスラへ変更を求めた。そこでモデル3となったわけだが、先程の4文字の3をEに変えると、「SEXY」となる。テスラ社のクルマがどんな姿を表現しようとしているのかが見えてくる。
トヨタ「ヤリス」(日本名:ヴィッツ)
ヤリス(Yaris)は、ドイツ語とギリシア語をかけ合わせた、トヨタの造語。ギリシア神話に登場する、美と優雅さを司る女神たちのことをカリス(Charis)と呼ぶ。さらにトヨタのマーケティング部門は、最初のChaを、ドイツ語でYESを意味するYaに置き換えたという。初代ヤリスのスタイリングに、欧州各国のユーザーからのYesという好意的な反応を期待して用いられたようだ。
トヨタ「カローラ」
トヨタを代表するカローラだが、英語の辞書を引いても、「corolla」が質素で経済的なクルマだとは載っていない。そのかわり、花冠、花びらが渦を巻くように並んだ花自体のことだと載っている。トヨタを代表するクルマの名前ではあるが、植物学者の間では、こちらのほうが一般的のようだ。
今回は23例を紹介してみた。読者の愛車の名前がつけられた理由を調べてみるのも、面白いかもしれない。
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