新車でも、中古車でもOK!好きなクルマに福祉装備を装着できる。
福祉車両を買うとなると、メーカーから福祉車両として販売されているラインアップから選択して購入することが一般的。ですが、まずは車種ありきで、自分が好きなクルマに福祉装備をつける方法もあります。これは新車時であっても、現在使っているクルマであっても可能です。自動車メーカーが設定している福祉車両からしか選べないわけではないんですね。ここでは自分のクルマに福祉装備を装着(架装)し、”マイ福祉車両”を作っていく際のイロイロを紹介していきます。
若きオーナーが1972年式キャリイを鮮やかなパステルピンクを纏わせ復活させる
オーナーが作った福祉車両の例こんなクルマをアレンジしたユーザーも
まずはサンプルがあったほうがイメージしやすいでしょうから、すでに架装された先達たちのクルマをサンプルとして挙げてみたいと思います。今回のサンプル事例は架装業者である「オフィス清水」及び認定取扱店で、実際に作業されたものを中心に紹介します。
手動運転装置をインテリアとカラーコーディネイト
ベース車両がトヨタの限定車である「オリジン」であることからこだわりをカンジますが、こちらの車両では導入したアクセル・ブレーキ操作用手動運転装置をインテリアカラーとコーディネイトした例。
スポーツカーの助手席バケットシートを回転シート化
レカロのリクライニングタイプのバケットシートに助手席を換装しているルノー・メガーヌ。じつは回転シートになっています。実車は元々純正でフルバケットタイプのレカロシートを採用しているグレードですが、助手席を回転シートにするにあたり、デザインの似ている市販のレカロSR7をセレクトして回転シート仕様へとアレンジ。車両のスポーティな雰囲気を損なわずに福祉装置を架装しています。
運転席の後ろのドアをスライドドア化して車いすを収納
この事例では、ドライバーの車いすをリアシート位置に収納するため、本来前ヒンジドアのクルマのリアドアをスライドドアに変更しています。これによって車いすを身近な位置で収納できるようになり、元々スライドドアがついているクルマ以外に車両の選択肢を広げています。
右側セカンドシートを位置で昇降リフト設置
リアゲートではなく、スライドドアに昇降リフトを装備。奥行きのない現場でも車いすの昇降が可能となるレイアウトです。実際は車両左側に大きなスペースが必要なため、公道での使用にはマッチしにくいですが、シチュエーションによっては使い勝手に優れるものになります。これも万人向けの仕様ではないけれど、作ってもらえると有り難いという仕様ですね。
右側セカンドシートをリフトアップシート化
写真はありませんが、駐車場の都合で運転席の後ろ側(右側)のドアでしか乗降ができない場合に合わせて、運転席側(右側)セカンドシートのリフトアップシート化というのも相談があるそうです。これは左右幅のない場所に駐車場があり、運転席側を空けて助手席側を壁ギリギリに停めるというシチュエーションなどがそれにあたります。
また運転席ドアと近くなることから、介助する方の移動距離が少なくなること、そしてそれによる疲労軽減というメリットがあることも、置かれている状況によっては見逃せない部分かもしれません。写真はないのですが、2列目右側へのリフトアップシート架装はオフィス清水でもここ1年で3件の施工事例があるそうです。
乗りたいクルマでカスタマイズする
もちろん福祉車両導入にあたり、大きな不便さや不満を、小さな不便や我慢の積み重ねでクリアするという方法もあるかもしれません。しかしこれは根治に近づけない治療のようなもどかしさがあります。せっかくならば、欲しいものをリクエストして作れるのかを相談してみるというのがオススメです。
メーカーでは作りにくい仕様もある
ところで現在は、以前に比べるとメーカーの福祉車両でも車種も装備選択肢なども増えてきているのですが、通常のグレードに比べて自由度が高くない部分はまだ残っています。そして、自動車メーカーのレギュレーションでは作りにくい仕様があるのも事実。自動車メーカーがラインアップする福祉車両はある程度仕様を絞ることによって、部品の共通化などを図り価格を抑えている側面もあります。また社内のレギュレーションによっても作りにくい仕様もあります。
上に挙げた仕様でも、たとえば右側アクセスのリフトアップシートについては、標準仕様では作りにくい。なぜならば、多くのメーカーが独自基準として、福祉装備による2列目以降の搭乗者の乗降については左側ドアからのアクセスを前提としているからです。これは駐車場以外での乗降時に車道側へ張り出すことの危険を考慮したもので理にかなっています。
ですから、メーカーのカタログに載る福祉車両の場合、基本的に回転シートや、リフトアップシートなどは助手席側(左側)にのみ取り付けられています。そういった仕様も、全く作れないわけではなく、必要とあれば請け負いの相談にのってくれる場所があることも覚えておきたいところです。
どうすれば福祉装備を装着できる?その窓口はどこ?
福祉車両をつくる相談。どこにいけばいいのでしょう
もし作りたいクルマが新車ベースなら、おおよそラインアップとして福祉車両を持っているメーカーであれば、ラインアップ外の車両への装着や、取り付け方法であっても相談に乗ってくれる場合がほとんど。これはラインアップにある福祉車両を選んだ場合でも、障害によって既成品では対応できない場合のアレンジがあるため、そもそも業務として請け負うケースがあるからです。
また、そのディーラーで購入済みのクルマはもちろん、中古車購入時でもディーラーが福祉車両への架装の窓口になってくれる場合もあります。ディーラーとの関係がすでにあるのであれば、まずは担当してくれている営業スタッフに対応できるかどうか問い合わせみるのが早いでしょう。福祉車両取扱士のように、福祉車両について知識をもっているスタッフがいる場合もありますよ。
今乗っているクルマ、乗りたいクルマをベースに自由に架装したいなら
先述のように、架装業者に直接お願いするほうが自由度が高いことも。ディーラーとの縁があまりない場合や、扱いの難しい車種でもまず相談してみるならば、架装業者に訊いてみることです。実はディーラーで相談しても、取り付けや大きな調整などは、架装専門業者が担当する場合があります。ですから、もしディーラーと関係がないのであれば、直接架装業者に訊いてみるのもオススメですね。
相談するときにまとめておきたいもの
いずれにせよ、相談する際には、すでに所有しているクルマへのアレンジなのか、車種選びからスタートなのか、また必要な装備はどんなものか、駐車場や出先の駐車場の状況など、ざっくりでいいので考えておくと先方も提案がしやすくなるかと思います。とはいえ、相手は専門業者。選定に当たり必要な項目をチェックシートとしてまとめてくれていることがほとんどなので、まずは問い合わせしてみるのがイチバンです。
より良い選択をするためにしっかり相談
ちなみに「オフィス清水」では、クルマへの架装の可否だけでなく、その架装によりユーザーの問題点が解消されるのかを重視しているそう。まずはユーザーの感じている不便なシチュエーションなどをヒアリングし、架装内容を一緒に考えるスタイル。WEBなどで多種多様な架装事例を公開しているので、ユーザーからの問い合わせは機種を指定して相談が多いようですが、相談後に架装メニューが変わったりもするそうです。
たとえば夫婦で使うクルマだとして、夫が妻を介助するのと、妻が夫を介助するのでは、体力差があったりすることもあり同じ問題の解決でも装備やアプローチが変わってくるケースがあります。こういった理由で当初希望していたものとは違う選択になることもあるとのこと。この会話による相談を重要視しているため、ディーラー経由での依頼の場合でも、ユーザーとディーラーの担当者、そして自社の3者が一同に介しての打ち合わせをできる限り実施しているそうです。
福祉車両として助成金や税の減免をうけるには?
必要な装備の組み合わせもある
マイ福祉車両をつくるにあたり、やはり助成金や税の減免があると経済的にも助かります。住居のある自治体から改造費の一部を助成金として出してもらえます。また、購入時の消費税が非課税になることも。さらに、毎年の自動車税などが減免になる場合もあります。
詳しくは本サイト内で別にまとめられている(福祉車両にまつわるおカネの話。「税金」と「助成金」まとめ)のでそちらに譲りますが、税の減免や助成金はクルマ自体が対象のものと、障害者自身へのものがあります。クルマ自体への助成の注意点としては、福祉装備をつけたからと言って、すべてのクルマが減免の対象になるとは限らないということです。
助成対象とみなされるためには要件があり、装置の組み合わせての装着などが必要となる場合もあります。このあたりも架装を請け負ってくれるディーラーなり業者なりにアドバイスしてもらうべきです。
正解はひとつじゃないけれど
本人や同乗者の生活環境が変わったとしても、やはり気に入った、使い慣れたクルマに乗ってカーライフをエンジョイしたいという気持ちも大事。
今回は福祉車両を買ってくるというより、福祉装置をセレクトして装着するというカスタマイズができる……という例を紹介しました。
もちろん、メーカーが用意してくれる福祉車両を選ぶというのもアリです。が、こういった選択肢があるということも知識として持っていると、考え方の自由度が上がると思います。ライフスタイルをサポートしてくれるクルマに出会えるとイイですね。カチくる古川教夫クルマとバリアフリー研究家。基本は自動車雑誌編集&ライター&DTP/WEBレイアウター。かつてはいわゆる徹夜続きの毎日だったが、現在は家族の介護をしながらの在宅ワーク中心に。自動車系WEBサイトのアンカーや新製品情報のまとめ、ライフワークであるロータリーエンジン車関連の執筆活動等を行いながら、介護経験から見る福祉制度と福祉車両の世界をつづる(2017年2月に福祉車輌取扱士の資格を取得)。
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