黎明期のクルマは馬車の技術を応用しウッドを採用
クルマに木が使われているのはご存知だろう。モーガンのようにフレームにも使っている例はあるが、多くはインテリアの各パネルで、ウッドパネルという言葉があるほど。そもそも、クルマになぜ木が使われるようになったかというと、当然のことながら欧米の影響である。クルマのボディは馬車の技術を使っていることが多く、そこに木やレザーが使われていたため、高級素材のイメージが今にも続いているわけだ。
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日本車でウッドパネルが採用されるのは60年代から
とくにイギリスでは高級車の証とされ、ただ木を使うのではなく、鳥の目のように丸い柄があるバーズアイは珍重される。素材自体もメープル、ローズ、ウォールナットなど、高級とされるものは多い。また、ウッドパネルはただ装着するのではなく、全体を見た場合、インパネの真ん中を中心にして車内全体が左右対称の同じ柄になっているのが基本とされる。つまり、板を縦に割って、左右を作り分ける必要があり、素材が高級なだけでなく、生産時も非常に手間がかかる装備と言っていい。
このように欧米では戦前から存在したが、日本についてはモータリゼーションが広がった1960年代に、純正採用例がいくつか出てきた。ウッド調も含めてだが、日産スカイライン(ハコスカ)やトヨタ初代センチュリーのインパネには一部に限られたが使われていたし、いすゞ117クーペにはけっこう面積が広く使われていた。ウッドとスポーツカーの組み合わせが気になるが、実車をあらためて見てみると、今のクルマにはない上品な感じが漂ってくる。確かにアメリカンマッスルではない、ブリティッシュスポーツ的な雰囲気が表現できているのは確かだろう。
その真骨頂的な存在がトヨタ2000GTだ。内装をヤマハが担当したこともあり、楽器作りのノウハウを活かしてウッドパネルを採用している。実際に現物を見ても、表面の仕上げなどかなり高いレベルであることがわかる。
パネル以外にもウッドを採用する例が増えていく
そのほか、当時流行ったのはステアリングやシフトノブだけでもウッドにするというもの。上記の車種と同時期でいうと、マツダ・コスモスポーツが大径&フラットのウッドステアリングを採用している。こちらも海外の影響があるように思え、イギリス製ではモトリタのウッドステアリングはブランド品だったため、このイメージを取り入れる目的もあったのではないだろうか。
当時の純正ステアリングやシフトは樹脂製でツルツルした表面のものが多かった。そこに対して細身でニスが表面に塗ってあるものの、握り心地は比べものにならないほどで、憧れの装備だったのも納得だ。
その後1990年前後になると、好景気を背景にしてデザインが複雑化する。樹脂の加工技術が向上したこともあって、本物と見紛えるようなウッド調パネルも登場。ミニバンやワゴンなどの実用車にも、ウッドパネルの使用例は増えている。クルマの内装は耐火性能を確保する必要もあることから、樹脂のほうが取り入れやすいというのも後押しした。
木目調の樹脂パネルが増えていくなかで、逆にウッドにこだわって注目を浴びたのが、1985年にバブルの追い風もあって登場したホンダ初の高級車レジェンドだ。当時、ホンダはイギリスのローバー(正確には複数企業体のブリティッシュ・レイランド)と提携していたこともあって、さまざまなノウハウを得ている。そのうちのひとつがウッドの使い方だ。これを受けてホンダは、柳宗理のバタフライスツールなどを手がけた、日本を代表する木工メーカーである天童木工にパネル製作を依頼して、歴代レジェンドに採用。その後もインスパイアなどにも拡大して使っていたほどだ。
過去には外装にウッドを採用した例も
ウッドつながりで紹介したいのが、1980年代に流行ったウッド柄のボディ。日産サニーカルフォルニアやシビックカントリー、日産スカイラインや日産セドリック・グロリアバンなど、いくつかのモデルに採用されていた。木目調のシートをサイドに貼ったもので、当時のサーフィンブームを狙った装備だったと言える。ルーツとしてはこちらも海外で、馬車づくりから派生したのも同じ。アメリカではジープのグランドワゴニアなどが採用していて、無骨な開拓イメージをアピールしていたし、イギリスではミニのカントリーマンなど、牧歌的な雰囲気を持っていた。
現在、外装については消滅してしまった。内装についても、未来的なデザインが好まれる時代に。昔のようにウッドパネルが諸手を挙げて採用される時代ではないが、本物のウッドパネルももちろんまだある。たとえばレクサスのLSはウォールナットなどの定番だけでなく、寄木細工の技術を取り入れたものやレーザーで金属を埋め込んだものなど、木製のパネルを複数用意している。また、今後ますます進むであろう、プレミアム化や高級化の波において、レザーとともに重要な素材になっていくのは確実だろう。
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