『ベストカー』が1978年に創刊してから2000年代前半まで大変お世話になった、「竹ちゃんマン」こと竹平素信氏を、現役から気持ちよく卒業していただこうと始まったプロジェクト。多くの賛同者を得てこのたび実現しました。クルマは竹ちゃんマンの脂が乗り切っていた頃にドライブした4代目カローラセダンだ。
文/ベストカー取材班、写真/PHIRAKHUP PHETKRUEA、ベストカー
74歳竹ちゃんマンが往年の名車70カローラで豪快ドリフト!!~竹平素信引退ラリーレポート
ラリーにのめり込ませたTA22セリカとオベ・アンダーソン
竹平さんとラリーの出会いは、トヨタのメカニックとして働いていた時にオベ・アンダーソンの横に乗り、そのドライビングに圧倒されたところから始まる。
当時トヨタはTA22型セリカでRACラリーに出場すべく開発を重ねていたが、浅間サーキット(グラベル)でアンダーソンの横に乗った時の驚きが忘れられない、という。
「とにかくよ、オベは片手でステアリングを操作し(当時パワステはない)、信じられんくらい手前からフェイントかけて、どでかいドリフトにもっていくんじゃ。こっちはびっくらこいてよう、ビーチフル!いうたら『デイスイズノーマリー』と涼しい顔なわけ。その時ワシもラリーでメシを食えんかなとなんとなく思ったかもしれんのう」
砂埃を上げて豪快に走る竹平カローラはKE70(1300ccセダンのGL)に3S-GEを搭載。タイヤはADVANのA053で150/625R15と日本にはないサイズ
1972年のRACラリーを走るオベ・アンダーソンとTA22セリカ。この時メカニックに竹平さんがいた。余談だがオメガのスピードマスターを買って帰ったそう(写真:トヨタ)
『ベストカー』のアドバイザーになった頃の竹平さんは、全日本のトップドライバーで、その華麗なドリフトを見ながら国沢光宏先輩や大井貴之先輩がコソ練したというのは事実で、二人が運転が上手くなったのは竹平さんのドライビングスタイルに根っこがある。
前置きが長くなった。
今回参戦するタイラリー選手権のレッキ(本番前の試走)を終えた竹平さんは渋い顔だ。
「ひでえ道じゃ。滑るし、上下の入力もきついのう。あとブッシュもやっかいじゃ」
全面赤土で轍もできやすいグラベルの路面は、ハイスピードのクロスカントリーのよう。
タイでレンタルした40年前のカローラセダン(KE70、1300ccのGL)にアルテッツアの3SGEと6MTを搭載した「KE70エボリューション」とでもいうべきモデルでどう戦うのか、ライバルたちは地元ドライバー、不利は否めない。竹平さんのテクニックでどこまでカバーできるか興味深いところだった。
実は竹平さんは弊社から1983年に『俺だけのラリーテクニック』という本を書いていて(ラリードライバーには必読書だった)、「もし完走できなかったら『間違いだらけのラリーテクニック』に訂正せんにゃならん」とチームのみんなを笑わせてくれた。
「昔話をしていたら、なんだかワシも、その気になってきたぞ! お~いかん、いかん。欲を出した途端、クルマはコースアウトするのがラリーの常。冷静沈着、平常心でいこうぞよ。目標は完走じゃ!」
「気合が乗ってきた!目標は完走じゃ」竹平素信74歳×鎌野賢志48歳。ニッポンの爺さんとオッサン、二人の侍が大暴れを誓った
立て続けのトラブルが体力を奪っていく
そして迎えたSS1。実車に乗るのは初めてというまさにぶっつけ本番だったが、なんと途中でパワステがトラブルを起こし、クーラーも故障。35度を超える気温に土煙で窓も開けられないなか14.6kmをどうにか走り切った。
「正直きつかったぞ。ゴールが遠くて最後はふらふらじゃった」
アルテッツァの3S-GEエンジン、 210馬力だから竹平さんがかつて全日本ラリーで乗っていた、オリジナルのTE71と比べると95馬力アップ
コドラで、弟子でもある鎌野賢志さんに聞くと、「一度ミスコースがありましたが、けっこうヤバい場面も乗り切っていくところは、やっぱりさすがですね」と話す。オンボードのビデオを見ると、細かなステアリング操作をして、ブレーキングで荷重移動させながらロスなく曲がっていくのがわかる。
もうすぐ75歳、参戦ドライバーでは最長老どころか、周囲から見るとこの爺さん運転できるんかい?なはずだが、そのテクニックと現場合わせの運動神経にはチームスタッフも驚くばかりだ。
そしてクルマはぼろいが、4代目のカローラセダンのスタイリッシュなデザインと豪快な加速、そして気持ちいいサウンドには見るほうももうっとりさせられる。
アルテッツアと同じ6MTを採用し、サイドブレーキは引きっぱなしにはできないタイプ
竹平さんが全日本ラリーを戦ったTE71は1979年4代目のカローラセダンのGTバージョン。2T-G型、115馬力エンジンを搭載し、955kgの軽量、そしてFRと、楽しいに決まっているスポーツセダンだ。
モリゾウさんが初めて愛車として手に入れたクルマということからも、人気だったことがうかがえる。こんなクルマが現代によみがえるはずもないが、タイでは、そんな夢を見させてくれる。
SS2の19.6km、SS3の9.5kmをリアデフからの振動やジャダー(ステアリングからの振動)に悩まされながらもなんとか乗り切りサービスに帰ってきた。
「クルマが攻めるようにできとらんからね。道も悪いし、今回はしょんない。完走だけ、どうにかせにやならんよ」
ここまでくればあと2本、我々も祈るような気持ちで送り出した。
エンジンストールで無念のリタイア
ところが…………SS4の残り2kmほどのところでオーバーヒートし、エンジンストップ。SS4に入って3回くらいエンジンが止まり、ついに再始動できなくなってしまった。悪路にクルマが音を上げたのだ。
7割ほどの加減で走ってきたが、ついにエンジンがストップ。それでもなんとか再始動できないかとさぐる竹平さん。道が酷すぎたうえにクルマも作り込みが足りなかったことがリタイアにつながってしまった
「ごまかし、ごまかし、走ってきたが、最後はどうにもならんかった。みんなゴメンね」
誰を責めるでもなく、さっぱりとそう話す竹平さんはなんともかっこよかった。
海外ラリーに挑戦した頃のワクワク感が蘇りました。サポートしていただいた皆さん、応援してくださった皆さんありがとうございました。エンジンさえよー(涙)
実はタイ遠征の資金は60人の方々からのサポートで成り立っているのだが、リタイアした竹平さんを責める人もまた誰もいないはずだ。
「応援してくださった皆さん、ありがとうございました。ラリーのすべてが詰まったような濃厚な体験で、若い頃にがむしゃらに走った海外ラリーを思い出させていただきました」
今回の大会はタイ中部のカーンチャナブリーで開催された。のんびりした田舎町で近くに『戦場にかける橋』で有名なクウェー川鉄橋がある
失礼ながらジジイになっても皆に愛される竹平素信の秘密はその清貧さにあるのだろう。5日間ほど一緒に行動し改めてそう思った。
『竹平素信、最後の闘い』、これで終わりにするには残念すぎる。映画ランボーで『最後の戦場』の続編に『ラスト・ブラッド』があったように、続きがあってもいい。いや見てみたい。
みんなありがとう!!
竹平素信プロフィール/1947年8月19日愛知県新城市生まれ。トヨタ自動車でメカニックとして活躍。1972年オベ・アンダーソンがTA22セリカでクラス優勝を飾ったRACラリーに帯同し、ラリーの凄みを肌で感じる。その後、トヨタが石油ショックを受け、チーム・トヨタ・アンダーソンにWRC活動を委託することになり、トヨタを退社。マジョルカに入社しラリードライバーの道を歩む。1977年TE27で走ったRAC を皮切りにパルサーでモンテカルロ、サンレモをマーチスーパーターボ(日本人初のクラス優勝)など海外ラリーに果敢にチャレンジした
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みんなのコメント
結果は金は集まらず頓挫。
だって当時の編集長とキャバクラで楽しそうに飲んでいる写真も掲載してるんだもん。