高齢者ドライバーの事故が相次いているのを受けて、2019年12月19日、75歳以上の高齢ドライバーの免許制度改正案について、警察庁による有識者会議が開かれた。
その結果、2022年度をめどにサポカーに限定した運転免許の創設することなどが発表された。
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これを受けて警察庁は、2020年1月20日から始まる通常国会で、高齢ドライバーの免許制度改正案を提出し、可決される見込みとなっている。
さて、どんな免許制度になるのか? その免許制度によって高齢者ドライバーによる事故は減るのか?
そして、地方でなかなか進まない高齢者の免許返納について打開策はあるのか? モータージャーナリストの高根英幸氏が解説する。
文/高根英幸
写真/ベストカー編集部 高根英幸 Adobe Stock
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高齢者ドライバーによる重大事故が相次ぐ
高齢者ドライバーの事故対策は急務。法制度が急がれているこうした間でも高齢者による事故は起きている
交通死亡事故は全国で3449件(2018年)と件数としては過去最少となる一方、高齢者ドライバーによる重大な事故が相次いでいる。
年代別にみると、20~74歳で免許保有人口10万人あたり3~4件であるのに対し、75~79歳で6.2件、80~84歳で9.2件、85歳以上で16.3件と、75歳以上の高年齢で多くなっている。
75歳以上の死亡事故にはいくつかの特徴がみられる。75歳未満では「安全不確認」要因が最大であるのに対し、75歳以上はハンドル操作やブレーキの踏み間違いなどといった「操作不適」が多いとされている。
また、死亡事故を起こした75歳以上は、認知機能の低下(認知症のおそれがある、または認知機能が低下しているおそれがある)が指摘される割合は半数程度と、75歳以上全体の3分の1程度と比べて高くなっている。
こういったことから、加齢による身体機能や認知機能、判断の速さの衰えによる事故の発生が指摘されている。
2016年10月には横浜市で87歳のドライバーが運転する軽トラックが集団登校中の小学生の列に突っ込み、6歳の男の子が亡くなり、8人が死傷。2018年5月には、神奈川県茅ヶ崎市の国道で90歳のドライバーのクルマが赤信号を無視して歩行者などを次々とはね、4人を死傷させる事故が起きた。
2019年4月には東京・池袋で、87歳のドライバーが運転するクルマが暴走して通行人を次々とはね3歳の女の子と母親が死亡するという傷ましい事故が発生した。
直近のデータでは、75歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故は2019年11月末までに全国で354件に上っている。
2020年1月20日から始まる通常国会で高齢者ドライバーの免許制度改正案が可決される見込み
政府が新設を予定している、高齢者限定免許は、義務化ではなく、任意で選択する制度であれば、あまり意味がないのではないか
75歳以上の高齢者ドライバーの免許制度改正案について、警察庁による有識者会議が2019年12月19日に開かれた。その結果、2022年度をめどにサポカーに限定した運転免許の創設することなどが発表された。
現在の免許制度でも医師により認知症であると診断されると、運転免許の更新ができなくなる。
つまり免許を取り上げられることになるのだが、実際には医師に明確に認知症と診断されて免許の更新を停止されるケースは、よほどの重度な認知症なければ難しいようだ。
なぜなら医師に認知症と診断されても通常の生活を送れるような高齢者は、自分は運転ができると思っているし、免許を取り上げられることに抵抗があるからだ。
しかし運転が危ういほど認知能力が低下していなくても、運転には支障を来すような状況に陥ることは十分に考えられる。
診断後に認知機能や身体能力が低下していく恐れもあるし、走行中に急病で意識を失うなど体調の急変もあり得るのが高齢者ドライバーであるからだ。
昨今の電子制御が運転をアシストしていることが、ドライバーの運転能力を判別しにくくしているクルマの運転は、それだけ高度な状況判断や繊細な操作が求められるものなのだ。
そうでなければ、とっくに自動運転も実現できているハズなのである。未だよちよち歩きでたびたび事故を起こすようなレベルなのは、公道での運転は無限ともいえるような様々な状況の組み合せが起こり、それを瞬時に判断して運転操作する必要があるからで、ビッグデータという経験値が頼りの自動運転は、完成度を高めてモノになるまでにはまだまだ時間が必要だ。
新制度ではサポカーに限定した免許を新設するだけでなく、更新時までに一定の違反歴がある高齢ドライバーには、免許更新の際に講習だけでなく、免許更新の際に実技検査を義務づける方針だ。
また受験期間や回数などには制限はなく、何度でも挑戦して免許更新を目指すことができるようにするようだ。
サポカーに限定した「限定免許」は、すでに普通免許などを持っている高齢者ドライバーなどが切り替えられるほか、運転に不安がある人が免許を取る場合にも選択できることになる見通し。
検査は自動車教習所などで行い、実際にクルマを運転して一時停止やハンドル操作がスムーズにできるかをチェックし、免許の更新を認めない場合もある。
対象とするドライバーの年齢については、75歳以上もしくは80歳以上にすることで検討が進められている。
警察庁は、こうした内容を盛り込んだ道路交通法の改正案を2020年1月20日召集される通常国会に提出する見通し。
今回の免許制度改正では、すでにサポカーでも重大事故を起こしている高齢者ドライバーにとって、十分な対策ではない、と考える人もいることだろう。
また、高齢者の運転技能検査については、池袋の事故では飯塚元院長に事故歴はなかったため、高齢者全員に運転技能検査を導入しなければ効果が期待できないという意見もある。
しかし、一足飛びに免許を定年制にしたり、更新するための条件の難易度を一気に引き上げることは制度全体の環境を整えるための時間が必要となるし、生活に困る人も出てくる。高齢者からの反発を招くことも考えられる。
やはりクルマの安全技術の熟成や道路環境の整備と合わせて段階的に見直していく必要があるものだろう。
地方の免許返納はやはり進まない?
全体の免許返納率は2年連続で40万人を超えたが大きな伸びではない(出典:警察庁「2018年、運転免許統計」)
免許の自主返納は浸透してきており、2008年に2.9万人だったのが、2018年には全国で42.1万人と2年連続で40万人を超えた。
年齢別の返納率をみると、とくに75歳以上で上昇している。2017年の認知機能検査の厳格化の効果もあったと思われる。しかし、75歳以上で返納率が上昇しているとはいっても5.18%にとどまっている。
また、都道府県別の75歳以上返納率には2.16倍もの差があり、最高が東京都の7.97%、最低が茨城県の3.69%となっている。
※75歳以上の免許返納率は、各都道府県の75歳以上の免許保有者(第一種、第二種含む)に対する、75歳以上の免許返納者(申請免許取り消し者)の割合。
都道府県別の1人当たり乗用車台数が多い都道府県(東京都は0.23台で最低、茨城県は0.68台で2番目に多い)ほど、返納率が低い傾向があることを考慮に入れると、日々の生活におけるクルマの利用状況が地域によって異なることが、返納率の地域差の一因となっていることが伺える。
高齢者ドライバーの免許返納が進まない根本的原因
自主返納制度は平成10年4月から施行
高齢者ドライバーによる免許の返納がなぜ進まないのか。これにはいくつかの原因が考えられる。
やはり、電車や地下鉄、バス、タクシーなど公共交通機関が充実している首都圏と比べると、地方ではクルマが手放せない。
自分のクルマがなくなると、一気に生活のアシを失うことになるからだ。家族のクルマやクルマを所有している隣近所の友人、知人に頼んで、出かけるにしても気がひける。
そして、「クルマを運転できる」という権利を失う恐れ、これまでの人生で培ってきた運転に対する自信を喪失することへの抵抗感が大きいだろう。
自主返納を行ってしまうと身分証明を失ってしまうという懸念もあるが、この問題に関しては運転経歴証明書があるため、問題はない。
運転免許を返納し、運転経歴証明書を受け取るには、本人申請の場合、運転免許証、手数料1100円、申請用写真が必要。代理人申請の場合、委任状、代理人の住所、氏名、生年月日が確認できるもの、手数料1100円、申請用写真。 運転経歴証明書の受け取りは申請した場所において交付(受取)まで2週間程度もかかる。(島部警察署では4週間程度)
運転免許に限らず、人は一度手に入れた権利は、手放したくないものだ。しかもクルマの運転ができなくなるということは、公共機関を含め、誰かの手に頼らないと移動することが困難になってしまう。
これは移動の自由を奪われてしまうことになるから、生活にも困るケースが出てくる可能性もある。
そして自分の衰えを認めたくない気持ちや、その先の人生に対する不安があれば、なおさら返納したくはないだろう。
もちろん高齢者ならではの判断能力の衰えから、自分の能力を過信してしまうこともある。
前述の運転に対する自信もそうしたもので、長年無事故無違反を続けていれば、自分の運転に自信を持つが、身体能力や判断力が鈍っていることは自分では気付きにくいし、認めたくない。
そのため家族が免許を返納させるための説得に苦労している、という話は方々で聞くほど珍しくないものだ。
もし家族に免許を返納させようとして苦労しているのであれば、免許返納を迫るのではなく、しばらくクルマの運転を止めてみるのを提案してみるのはどうだろう。
現在のクルマがサポカーではないクルマならば、先にクルマを処分してしまうということも考えるべきだろう。クルマが本当に必要ならまた手に入れればいいのだから、サポカーに乗り換えるための準備として先に手放してみるのだ。
免許は返納してしまうと再び取得するのはかなり難しいから当人は抵抗するだろうが、免許を保持したままクルマを買い替えるために一度手放す、というのであれば同意してくれるのではないだろうか。
そしてクルマがない生活に慣れたところで免許を返納する説得を開始すればいいのだ。もっともクルマがなければ運転できないのだから、そのまま免許を保持していても交通事故などを起こす危険はほとんど解消できる。
しかし、こうして免許を返納させたり、クルマを手放させるためには、運転経歴証明書以外に、代替え手段を用意する必要がある。
公共の交通機関だけで十分な場合もあるだろうが、都市部でもバス停さえも遠い高齢者は足が弱ったら家族がサポートするなど費用や手間などの負担が必要になるケースもある。そうした努力なくして高齢者から運転免許を取り上げることはできないのだ。
免許を取り上げられても移動する必要性から、これまでの習慣によりつい運転してしまうケースも考えられる(現在も実際に起こっている)。
免許を返納、あるいは取り消された高齢者ドライバーが、クルマを運転できる環境ではないことを家族や免許返納を受け付けた免許センターなどが確認する仕組みも必要だろう。
クルマ、道路環境、免許制度の三位一体で考えるべき
2019年11月に発売したデータシステムによる後付けペダル踏み間違い装置「アクセル見守り隊」。本体価格は2万8000円(税抜)、別途、アクセルハーネス4000円(税抜)とブレーキハーネス3000円(税抜)が必要 。東京都をはじめとする地方自治体で補助金対象となっている。ちなみに東京都は9割まで補助
では高齢者ドライバーが免許を保持したまま、クルマも失わない生活を実現するにはどうしたらいいのだろうか。
ペダル踏み間違いに対する対策も、これまで以上に実用的な仕組みが必要だ。東京都をはじめ地方自治体で後付けできるペダル踏み間違い装置の補助金制度導入が始まっている。
現在搭載されている、あるいは後付けペダル踏み間違い装置は、進行方向に障害物を検知すると発進を抑制するというものだが、警告音や表示によってドライバーがペダルの踏み間違い、あるいは前後進操作間違いに気付いて、操作し直すことを想定している。
高齢者ドライバーでは自身の操作ミスに気付かず、警告音や表示に慌ててしまいパニック状態になってしまうことも考えられる。したがって誤操作した時にも慌てずに正しい操作をやり直せるよう誘導できる仕組みが必要なのだ。
熊本県のナルセ機材が発明した、ブレーキペダルの側面にアクセルレバーを一体化させたナルセペダルは、ユニークな仕組みの安全運転装置であるが、高齢者にとって足先を横方向に捻る動きは、角度の大きさと細かい調整が難しい。
つまり微妙なアクセル操作をしにくいことから、運転のハードルを上げてしまうという側面もありそうだ。
熊本県のナルセ機材が開発したナルセペダル。ペダルの操作方法(シングルタイプ、右足用)は通常のAT車はアクセルとブレーキの2つのペダルを踏みかえて操作するが、ナルセペダルのワンペダルは1つのペダルに足を置いたまま操作。足を右に傾けるとアクセル、踏めばブレーキ。アクセルをかけたままでペダルを踏んでもクラッチが外れてアクセルは効かなくなり車の暴走を防ぐ仕組み
一方、EVベンチャー企業のFOMMが開発したパドル式アクセルは、ペダル踏み間違いという点はナルセペダルより有効だが、高齢者ドライバーの運転操作を見ていると手指の動きもおぼつかないケースもあり、繊細な動きを要求するのは厳しい場合も出てきそうだ。
この方法はFOMMのような小型軽量でモーターの出力も限られるマイクロEVだから特に有効なのであって、発進加速も強力で車重も重い普通車では、指先でアクセルをコントロールしたとしても繊細な操作が要求されるから、操作ミスを起こすリスクが高まる。
FOMMが製作したマイクロEVは、ステアリング奥のアクセルパドルとフットブレーキの組み合わせで行う
マイクロEVの普及が鍵を握る
2020年冬の発売を予定しているトヨタのマイクロEV。全長2490×全幅1290×全高1550mmと軽自動車よりもかなり小さい。充電口は普通充電のみに対応したもので、充電時間は200Vで約5時間とのこと。最高速度は時速60kmで、1充電あたり約100kmを走行可能
やはり高齢者のラストワンマイルモビリティとして、マイクロEVの普及させるのが現実的には最もいい方法ではないだろうか。
2020年に国土交通省は、いよいよセニアカー(免許不要・歩道走行)と軽自動車の間を埋めるマイクロEVを規格化させるといわれている。
マイクロEVであれば、操作系を簡潔にしたり、ドライバーによってアクセルに対する加速の大きさなどの調整も比較的容易だ。自宅で充電できて、軽自動車よりも駐車場に止めやすいコンパクトなボディなど、高齢者にも扱いやすいことも魅力だろう。
経産省は2020年度にもマイクロEVの購入時に10万円の補助金を支給することを検討していると伝えられている。それが直接、購入の動機にはならなくても、購入を後押しする程度の効果は望めそうだ。
理想は補助金込みで、高齢者が購入しやすいように50万円程度で購入できること。エコカー減税やEV、燃料電池車の普及促進よりも、真っ先にやるべきではないだろうか。
2030年には高齢者ドライバーが当たり前になる
2030年には、日本国民の3人に1人は65歳以上の高齢者となってしまう予測もある。そうなったら未成年や免許非取得者を除くと、ドライバーの2人に1人は高齢者ドライバーとなるだろう。
しかも日中は就業中である若年及び中年ドライバーに対し、高齢者ドライバーはリタイア後で時間に余裕があるため、平日の日中に走行している乗用車の半分以上は確実に高齢者ドライバーということになる。
すでに平日のスーパーマーケット駐車場では自営業や平日休みのサービス業に勤めている人、専業主婦よりも高齢者夫婦がクルマで来店している割合が圧倒的に多い地域も珍しくなくなっている。
自動運転により安全性を飛躍的に高めることは理想的ではあるが、最終的にオペレーターが遠隔操作で自動運転車を監視していなければ成立できないような仕組みでは、庶民の足としては成立しにくい。
レベル4以上の自動運転が実用化されても、プライベートなクルマで利用できるのは当分の間は富裕層のみに限られるだろう。
高齢者はクルマを運転できない、ということになれば移動難民が続出することになってしまう。
それでは日本経済も冷え込み、若年層の暮らしにも悪影響を与えることになる。一気に定年で免許取り消しにするのではなく、運転できる環境に制限を加えることでリスクを減らすことが、生活への影響も抑えることができる安全対策というものだ。
そういった意味ではサポカー限定免許の新設以降も、段階的に高齢者ドライバーに対して適切な免許制度へと整えていく必要がある。
そしてサポカー限定免許とともに、マイクロEV限定免許の設定が不可欠ではないだろうか。マイクロEV限定免許を新設することで、クルマの免許を持っていなかった人も免許を取得する気になって、クルマ離れにも歯止めがかかる可能性もある。
今後、自動運転が進んでいくことが予想されるが、これが地方に普及するのは相当の時間がかかるのは明白。もはや悠長なことは言ってられないのだ。
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みんなのコメント
こうした事実も田舎で返納が進まない原因の一つなんである。
都度タクシーにしても待つ時間、往復の料金等ネックが多い。
自分がその高齢者になった時、
今のようにただただ返納しろと言われても正直納得は出来ないと感じる。
地方住みの不便さを一度経験してみるべきだろうけれど、
どうせ代替手段等取り決めずなぁなぁにしてこのままずっと返納しろ、
と言うのが目に見え、まぁ結局は堂々巡りが続いて行くのでしょう。
そうこうしている内に、返納しろ、と今声高に言っている人たちは高齢者となり、
不便だから何とかしろ、と言い出すわけで……。