“礼をつくす会社、礼をつくすクルマ”の観音開き──サターンが日本にあった時代を振り返る
2021/02/12 20:31 GQ JAPAN 7
2021/02/12 20:31 GQ JAPAN 7
マツダの新型コンパクトSUV「MX-30」をテスト・ドライブした小川フミオが、かつて日本にも導入されたサターンを思い出した! そのワケは?
サターンも採用した観音開き
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マツダ「MX-30」の特徴といえば「フリースタイルドア」だ。後席へのドアは観音開きである。かつてマツダ「RX-8」で採用されたこのデザインを見ていて、日本でも販売されたユニークなスタイルの米・サターン「SC2クーペ」を思い出した。
MX-30は、マイルドハイブリッドに続き、2月にEVモデルを発表し、完成度の高さを印象づけた。EVエディションでは、ルーフの前後長をあえて短めにしてクーペ的なキャビンのデザインをつくり、パーソナル感を強く打ち出しているのも特徴だ。
デザインを担当したマツダの伊藤祐貴氏は「乗降性も確保しつつ、塊感のあるモダンなデザインを実現する方法」として、フリースタイルドアの採用を思いついた、と述べている。
このドアで思い出したのが1999年に日本で発売された米サターンのSC2クーペだ。全長4.6mのボディに1.9リッター・エンジンを搭載した2ドアのクーペに見えるのだけれど、ボディの左サイドにだけ、フロントドアの後ろに、小さなドアが設けられていた。それが後ろヒンジで、前から開くセンター・オープン式だった。いま見てもユニークな設計で、なかなかよい。
先進的だったサターン
サターンとはそもそも、親会社ゼネラルモーターズで当時CEOだったロジャー・スミス氏が、日本車に流れている若い購買者層の眼を向けさせるべく、1982年に新規プロジェクトとしてスタートさせたブランドだ。クルマの販売は1990年にスタートする。
米国車に興味をもたない層の関心を呼び起こすため、GM/サターンが採用した斬新な施策は、当時、おおいに話題になったものだ。従来の“デトロイト流固定観念”からの解放が大事、と、あえてテネシー州に工場を設立した。用地に生えていた木は伐採することなく、よそへ移植。環境に配慮する企業、というイメージづくりをした。
従業員がメディアに登場するときの服装は、スーツでなく、スマートカジュアル、というか、ボタンダウンシャツにコットンパンツと単にカジュアル。そこも老舗自動車メーカーがつくったブランドとしては斬新だった。
SC2クーペは、設計もそれなりに凝っていた。トヨタやホンダの競合として企画されたクルマなので、クオリティに気を遣うとともに、シャシーはスペースフレーム構造を採用し、ボディパネルは合成樹脂。多少のへこみなら復元すると喧伝された。
当時のGM車としては、室内の合成樹脂パーツの組み方とか、異なる素材の色の合わせ方とか、クオリティにもこだわっていた。少なくとも、当時日本で販売されていたオペル車ほどにはよかった。
ドアがもう1枚追加された理由
SC2クーペの当時のカタログを、かつてサターンの広報を担当していた人が、「記事の参考に……」と、送ってくれた。なつかしい思いで見ていると、3枚目のドアの企画は8歳の少年の発言から始まったとなっている(そのエピソードは忘れていました)。
米・ニュージャージーにあったサターン販売店オーナーの8歳の男の子が、クーペの後席に乗りこむのがややツライので「ドアをもう1枚つけてよ!」と、言ったのが開発のきっかけになったとか。
企画がすぐに立ち上がって、最初に”こんなドアがあれば”という会議の席上での発言から20カ月後に、マイナーチェンジがあって3ドア車が発売されたというストーリーが紹介されている。このスピード感と、子どもの意見にも耳を傾ける姿勢が、重厚長大なデトロイトにはない、あたらしい自動車ブランドのよさ、と、されたのだ。
ただし、当時、サターンの広報担当者は「通勤に使うビジネスマンがブリーフケースなどをさっと後席に入れられるので3ドアを企画した」としていた。じっさい、SC2クーペのカタログでは、「トランクにしまっておきたくない、大切な荷物を運ぶのに3枚目のドアがある」と、利便性が高さを訴えている。
日本仕様のSC2クーペは右ハンドルだったけれど、ドアはそのまま左がわにあった。後席に子どもを乗せるファミリーなどにとっては、それでいい、という意見も少なくなかったように私は記憶している。
たしか、SC2クーペでは後席にいても、内側から3枚目のドアを開けるためのオープナーがなく、外から開けてもらうのを待つ必要があった。やっぱり、実際のところは“ひとより荷物”かもしれない。そこはMX-30とちがう。なにはともあれ、ドアは乗員のためだけのものではない。という、SC2クーペのデザインコンセプトは、おもしろかった。
短命だったサターン
ただし性能は凡庸というか、特筆すべき点はあまりなかった。エンジン・トルクはそれなりにあるけれど、エンジンを上までまわして楽しむものではないし、足まわりのストローク感もやや不足ぎみ。このあたりの割り切りのよさは、米国車的だなあと思ったものだ。
それでも、いいところはちゃんとある。ACデルコ・ブランドのオーディオは中音の鳴りがよく、ブルースやフォークなど、アクースティックギターのサウンドを大きくフィーチャーした、いわゆるアメリカーナというジャンルの音楽によく合ったのをおぼえている。
サターンの工場があったテネシーといえば、音楽の都・ナッシュビルがある州。もちろん、だからギターサウンドがよく聞こえるというわけではないとはいえ、ふつうのオーディオでも音がいい点に、モダンミュージックのゆりかごだった米国うまれのイメージが重なったものだ。
いずれにしても、SC2クーペが先鞭をつけたような、小さな観音開きのドアを後席のために設けるというコンセプトは、そののち、フォロワーを産んだ。
マツダが「RX-8」(2003年)を開発中、広島・三次(みよし)の工場にはSC2クーペが置かれていたとか。リア・ドアは軽くて操作しやすかった。1年前に発表されたホンダ「エレメント」(2002年)だって、のちのトヨタ「FJクルーザー」(2006年)や、ミニ「クラブマン」(2008年)も、同様の観音開きドアを採用していた。
サターンは、しかし、競合が多い日本市場では、苦戦つづきだったようだ。Sシリーズという小型サイズだけで、デザインも日本車的だったプロダクトで苦戦した、と当時の関係者が語ってくれた。販売網も限られていた(でも、いまのルノーやフィアットより、当時のサターンの販売網のほうが多かったと思う)。
サターンは、日本において「値引きしない」とか「店舗内でセールスから来訪者に声をかけない」とか、あたらしい試みを持ちこんだ。自動車業界的では、”黒船”的なおどろきだったようである。トヨタ系ディーラーがおおいに参考にしたという話もあるほどだ。
サターンが日本から撤退したのは2001年。ずいぶん早いタイミングでの決断だ。本国では2000年にやや大型ボディのLシリーズや、2002年にSUVの「Vue」などが出て、適宜売り上げに貢献したものの、赤字は累積していき、結局2009年にブランドじたいが廃止されてしまった。
でも、MX-30をみてSC2クーペを連想するひとが少なくないようで(担当編集も思い出したという)、いまもそれが撒いた種はしっかり残っているようだ。
文・小川フミオ
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