フジエクスプレスで臨時運転士として乗務する記者のバス運転士日誌は、乗務終了後にちょっと変わった「お仕事」を頼まれたのでやってみたお話。めったにない機会なのでこういうバス事業者の裏側もお見せする。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
【画像ギャラリー】【バス運転士日誌】運行中の休憩時間に運行管理者から電話が!何かやらかしたのか?(8枚)
(詳細写真は記事末尾の画像ギャラリーからご覧いただくか、写真付き記事はバスマガジンWEBまたはベストカーWEBでご覧ください)
■休憩時間中に有線入電!
その日は芝ルートを担当していた。休憩時間中にフジエクスプレスが借りている休憩所に行き、一服しながら休憩していると突然有線が入った。有線とは無線に対する用語で、要は電話のことを指す無線業界用語である。昔は電話といえばメタルケーブルがつながった電話機でしか送受話できなかったことから、無線以外の電話を有線と呼んだ名残だ。
発信者表示を見ると「フジエクスプレス東京営業所運転」と出ていた。もちろんスマホに記者が登録した名称ではあるが、要するに運行管理者からの電話だ。管理者は記者が休憩中なのは知っていて、バスに乗っていないので無線で呼んでも応答のしようがないから有線を掛けたのだろう。
運行時間中の電話というのはろくな内容ではないことが多い印象だ。気が付かない間に事故でも起こしたか、重大なクレームでも入ったので内容の確認なのか。仮に全体のダイヤが大幅に乱れている場合には行路の変更ということもあり得る。遅延はしていないし、いずれにせよ記者には思い当たるふしがない。
■車両交換……ですと!?
恐る恐る電話に出た。「どうもどうも」と向こうで言っている。この瞬間、事故やクレームではないことを確信した。事故をやらかしたのであれば「どうもどうも」どころではないはずだからだ。「ちょっと電気バスの充電が足りなさそうで、次に古川さんが受け取る車両ですけど、始発地で車両変更になります。到着時刻前にはディーゼル車が行っているはずですから、そちらに乗ってください。EV車はそのまま運行管理者に渡してください。営業所に回送しますので」という内容だ。
行路変更ではなくて車両変更のお知らせだ。この日は7月にもかかわらず猛暑日に近い気温で、どうしても冷房の使用が多くなっているから充電が足らなくなっていたのかもしれない。電気バスは夏の冷房よりも冬の暖房の方がバッテリーを食うといわれている。
ディーゼル車の場合はヒーターはエンジンを冷却する水を熱源にして暖房する。よってディーゼルエンジンが熱源なので、バッテリーを使うのはファンくらいだ。ところが、電気バスはそもそもエンジンがないので熱源が存在せず電気暖房にするしかない。電気コンロや電気ストーブと同様に電気暖房はとにかく電気を食う。よって冬は要注意なのは知っていたが、まさか冷房でも早々にピンチになるとは予想外だった。
■本題は休止バス停?
車両変更の件は了解して、要件は以上かと思って安心しきっていたら「ところで、今日の乗務終了後に何か予定ありますか?」ときた。「別にないですけど」「申し訳ありませんが、急きょ予定していた人員が足らなくなりましたので手伝っていただきたいのですが」と、のたまう。これは本当の運転士不足でダイヤが回らなくなってしまったか?
このまま芝ルートか、あるいは芝浦港南ルートか。もしかしたらシャトルバスか。と戦々恐々としていると「バス停を休止するのを手伝っていただきたいのですけど」とのこと。休止バス停とは、何らかの事情で停留所の供用を休止にすることで、当該停留所には以降はバスが停車しないことを意味する。
バス停が休止になることはそんなにあることではないので、記者としては面白そうと考えて快諾した。果たしてバスの乗務を終了して回送で営業所に戻り給油と終業点検、アルコールチェックをしてから所定の乗務における到着点呼を終えた。
1時間後くらいに社用車で休止するバス停に向かうらしく、それまでは休憩していて構いませんよということだったので、一服しながら続々と入庫するバス群を眺めていた。通常はこのような作業は運行管理者が行い、運転士が携わることはまずない。しかし記者は臨時運転士なので、もし時間さえ許せばという条件でのお願いだったのだ。
■作業は終バス通過後!
休止バス停の作業は当該バス停を使用する路線の終バスが通過した後に行う。翌日から休止するので終バスまでは当然ながら使用するからだ。多くのバスが走るがコミュニティバスなので、一般の路線バスよりは始発が遅いし終バスは早い。
20時過ぎには終バスは通過してしまうので、それを確認してまずはひとつ前のバス停に運行管理者と向かう。ひとつ前のバス停には次のバス停の案内が書かれているからだ。その上からシールを貼って休止バス停の次の停車停留所が1停先となるようにする。それが終了すると、いよいよ休止バス停での作業だ。
休止とは廃止ではないので、あくまでも一時的な措置である。期間を定めるかどうかは関係なく、休止なので復活するかもしれないし、しないかもしれない。とにかく休止である以上はバス停のポールを引っこ抜いて持って帰るわけにはいかない。
引っこ抜くのであれば専門の業者に依頼しなければ無理なので、そもそも廃止であれば事業者の人間が作業をすることはないだろう。休止バス停にブルーシートを掛けてバス停の機能を完全にふさぎ、その上に休止バス停である旨と前後のバス停を利用する旨の案内表示を貼る。
コミュニティバスなので、前のバス停からはわずか150mで、次のバス停も170mしか離れていない。当該バス停には3ルートが停車し、バス停は2つある。今回休止されるのは田町ルートと芝ルートが停車する1つのバス停で、高輪ルートのもう1つのバス停は引き続き供用される。
■残業なんだ!
作業を終了して営業所に戻り、運行管理者は明日からのバス車内での案内やダイヤを表示するラムコーダのデータ更新のためにバスに行ってしまったが、記者はこれでお手伝いは終了なので点呼場に戻った。「意外と早かったですね。では2時間残業ですね。お手伝いありがとうございました。次の勤務を確認してあがってください」これは勤務の一環として残業扱いなんだと思いながら帰宅した。
すでにバス運転の仕業で所定の勤務時間を超えているので割増賃金の対象になるのだが、営業所に戻ってきて1時間休憩したのを含めてお手伝いした分はすべて勤務時間にカウントされ割増賃金が支払われる。ハンドル時間制ではなく拘束時間制である乗合運転士ならではの、賃金が支払われる「普請」であった。
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みんなのコメント
車両の管理もあるからけっこうキツいぞ。
中にはイヤで運転手に戻った人もいるし。
どちらかと言ったら、運転手は一匹狼が多く、
逆に派閥を組んでいるのは宗教団体がほとんど。
車両はリコールが入ると今度はメーカーに
作業を依頼する訳だが、作業と運行が被らない
ようにしないといけないし出庫するバスの
並び方も考えないといけない。
他にも定期点検や車検、タイヤ交換もあるから
バスは決まったコースを走って終わりではない。
あるが、休憩中の電話が運転士にとって
嬉しくない内容が多いのは確か。