2018年の国内新車販売は、ホンダのN-BOXが2年連続で年間1位を獲得。登録車では日産のノートが年間1位を獲得(軽含む総合でも5位)した。
N-BOXは2年前の2016年からすでに軽の販売No.1モデルだったものの、当時全体の新車販売台数No.1だったのはプリウス。そこから躍進し、今では他モデルを寄せ付けないブッチギリの販売台数(後述)で登録車を含むNo.1モデルに成長している。
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一方、ノートの登録車No.1獲得も、日産車として史上初の快挙。これまで歴代の「サニー」や「マーチ」などをもってしても成し得なかった金字塔で、過去に複数回No.1となっているプリウスやアクアを抑えての1位獲得だけに、そのインパクトは大きい。
なぜ、この2台がいまバカ売れしているのか? 人気の秘密に迫る。
文:御堀直嗣/写真:編集部
年間販売トップ10の動向は?
10位までの動向を詳細に見ると、軽自動車は10位のダイハツ ミラを除いてハイトワゴンであり、実用的な背の高い軽が人気を維持していることがわかる。
登録車では、ノートの他はトヨタのアクアとプリウスで、ハイブリッド車に人気が集中している。というのも、ノートの販売台数の約7割がe-POWERであるからだ。もし、e-POWERがなければ、日本自動車販売協会連合会(自販連)の登録車乗用車ブランド通称名別ランキングにおいて、ノートは25位ほどに順位を下げることになる。
■2018年 国産車年間販売台数 ベスト10(軽自動車含む)
1位:ホンダ N-BOX/24万1870台
2位:スズキ スペーシア/15万2104台
3位:日産 デイズ/14万1495台
4位:ダイハツ タント/13万6558台
5位:日産 ノート/13万6324台(=登録車1位)
6位:ダイハツ ムーヴ/13万5896台
7位:トヨタ アクア/12万6561台(=登録車2位)
8位:トヨタ プリウス/11万5462台(=登録車3位)
9位:スズキ ワゴンR/10万8013台
10位:ダイハツ ミラ/10万7283台
※「日本自動車販売協会連合会」、「全国軽自動車協会連合会」データより作成
2年連続1位! なぜN-BOXの人気は衰えない?
さて、まずはN-BOXの人気が衰えないのはなぜか。
N-BOXの本質的価値は、2011年に誕生した初代に遡る。開発責任者を務めた浅木泰昭LPL主任研究員(当時)は、ホンダの第2期F1に関わった経験を持ち、それまで軽自動車開発の経験はない。ホンダの軽自動車になかったハイトワゴンを出すため練った策は、他社にないホンダの技術を使い、独自性のあるハイトワゴンをつくることだった。
フィットで導入され、その後小型車に広く展開された「センタータンクレイアウト」のプラットフォームを活かし、低床とステップワゴンを超える広さ(高さ)を求めた。
そして、自転車と一緒に車に乗り込める使い勝手や、チップアップできる後席(フィット同様)、フリードを超える開口部のスライドドアなどを実現した。
また、ハイトワゴンであるだけに確認し難くなる車の周囲に対し、「ピタ駐ミラー」と名付けた死角を減らすミラー配置を導入した。それはカメラや電子機器を用いずに周囲の安全を確認でき、グレードを問わず採用できる安全・安心技術だ。
試乗をすると、ほかのメーカーのハイトワゴンと異なる視界で、軽自動車に乗っているというより、やや小ぶりのミニバンを運転している感覚で、そこが新鮮だった。操縦安定性も確かで、つい速度を出し過ぎてしまいそうにもなった。
他の軽自動車メーカーと違い、まったく新しい発想で生み出されたのがN-BOXであり、見かけは他のハイトワゴンと似ていても、使い勝手や運転感覚は別ものだった。そこが、N-BOXを一気にブランド化した。
死角はある? ジワリ迫るライバルの足音
一方、2代目は2017年にフルモデルチェンジしたが、初代の気になる点が改良されているものの、背がより高くなり、また乗り心地を改良するためサスペンション設定を柔らかくするなどして、操縦安定性に難が出た。
街角を曲がる際などにふらつくのである。完成度という点で進化したとは感じにくかった。それでも、2年連続で販売台数1位を獲った。
そこで対前年比の伸び率を見ると、N-BOXが10.7%であったのに対し、2位のスズキ スペーシアは45.2%と約1.5倍の伸びを見せている。
実際、現行のスペーシアはハイトワゴンとしての完成度が高く、乗り心地や操縦安定性が飛躍的に向上している。さらに、マイルドハイブリッドを全車に搭載することにより、環境性能と走りの上質さが他を上回っている。
ことに軽自動車の場合、アイドリングストップからの発進で、モーターで動き出せることは、まずエンジンを始動しなければ走り出せない他メーカーと比べ、別次元の乗り味をもたらす。
初代の価値を継承するN-BOXの人気は、必ずしも安泰ではないように見える。
日産車初の年間1位! ノートの転機は2年前
日産 ノートも現行車は2代目で、その発売は2012年からである。グローバルコンパクトカーとして世界に発表された。
しかし、当時の仕上がりは必ずしも満足のいく状態ではなかった。走行中に細かい振動が発生し、それが容易に収まらないのである。快適性が不十分で、販売も伸びなかったといえる。それが転換したのは、2016年の「e-POWER」の車種追加であった。
日産の電気自動車(EV)、リーフの駆動系を応用したシリーズハイブリッドのe-POWERは、それまでセレナに採用されたマイルドハイブリッドや、フーガやスカイラインなどに採用されたツインクラッチ式1モーターのハイブリッド以外で、小型車向け本格的システムとしては久しぶりのハイブリッドとなった。
トヨタやホンダにはハイブリッドがあるのに、長年量販車種にハイブリッドがなかった日産に、ようやく春が来たようなものだ。
そのうえEVと同様にモーターのみで駆動するため、EVと同じような運転感覚ももたらした。それが、「eペダル」だ。
アクセルペダルの操作だけで加減速はもちろん、停車まで操作できる機能である。当初は、停止直前にブレーキペダルを踏む必要があったが、セレナに採用されたときから停止まで可能となり、それが現行のノートにも適用された。
高齢者のペダル踏み替え事故が後を絶たない状況において、政府の後押しもありセーフティサポートカー(通称サポカー)の導入が進められ、カメラやセンサーを用いて衝突を防止する自動ブレーキの採用が進むが、eペダルであれば、ブレーキペダルへ踏み替える前に、回生による強い減速が得られる。それは、ペダル踏み替えの間の空走時間を減らすことにもつながる。これはモーター駆動でしか得られない機能だ。
「燃費」だけじゃない価値を示したe-POWER
つまり、ハイブリッド化することで燃費を抑えることは、トヨタやホンダの方式でも可能だが、ハイブリッド化することで安全にも寄与できるのは、日産のe-POWERのようなモーター駆動のみのシリーズ方式でしか実現できない。もちろん、EVであれば言うまでもない。
日産が宣伝で使った「電気自動車の新しいかたち」という言い方は嘘であるけれど、EVと同じ駆動のできるe-POWERは、環境と安全をより進化させられるハイブリッドなのである。そこに、消費者も気づきはじめ、アクアやプリウスより人気を集めているのだと思う。
車の電動化は、環境問題のみで語られることが多く、マツダのSKYACTIVのように、火力発電に依存するなら効率の良いエンジンとEVのCO2排出量はそれほど違わないという論旨につながる。
だが、実は、モーター駆動であればより安全で、ペダル踏み替えなどの心配を気にせず安心して気軽に出かけられる車になっていくという側面もある。
次世代技術を、単一な機能や性能で比較するのではなく、複合的、総合的な性能向上や快適性で語ることにより、車の価値はもっと広がる。それを、ノートe-POWERは象徴している。それが、販売台数につながったといえるのではないか。
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