過去最もパワフルな後輪駆動のアウディ
自動車メーカーの多くは、自社モデルのエモーショナルな部分について触れたがる。特にスポーツカーの場合は。クルマ好きが愛する、ドイツブランドでも変わらない。われわれメディアは鵜呑みにせず、それらを冷静に捉える必要性がある。
【画像】最終仕様は620ps アウディR8 V10 GT RWD 競合の高性能スポーツと写真で比較 全119枚
しかし、今回試乗したアウディR8 GT RWDに対しては、そのすべてに夢中になってしまった。インゴルシュタットのラインナップの頂点を飾る、内燃エンジン・スーパーカーの最後を締めくくる存在として、見事に仕上げられている。
R8は、アウディにとって極めて重要なスポーツモデルだった。エモーショナルにならずにはいられない。
2003年にコンセプトカーが発表された時、アウディはRSを関する冠するモデルを2台しか擁していなかった。だが現在では車種を増やし、10台を取り揃えるに至った。
ミドシップのR8は、ブランドに強い輝きを与えた。連勝したル・マンから手を引いても、それを補完する以上のイメージの醸成に貢献した。BMWがM社で築き上げてきたものと同様な訴求力を、短期間に構築することを可能とした。
このR8 GT RWDは、過去最もパワフルな後輪駆動のアウディとなる。最後を飾るにふさわしい、多くの技術的なアップデートが施されている。トルク・リアと呼ばれる、ドリフトを楽しめる最新のドライブモードもその1つだ。
四輪駆動と同等の620psと57.5kg-m
エンジンは、これまでのR8と同じく自然吸気の5.2L V型10気筒。制御ソフトウエアに変更を受け、四輪駆動のR8 V10プラスと同等になる620psの最高出力と、57.5kg-mの最大トルクが与えられている。
その結果得られる動力性能は注目に値する。0-100km/h加速は3.4秒を達成し、R8 V10パフォーマンスRWDより0.3秒短縮。猛烈な加速のポルシェ911 ターボSより0.5秒ほど遅れを取るとはいえ、遅く感じることはないはず。
しかも自然吸気のV10だから、サウンドは個性的で開放的。ターボがノイズを吸収してしまうポルシェ911を、聴き応えでは圧倒する。
一層クイックでアグレッシブなシフトダウンを実現させるため、7速デュアルクラッチ・オートマティックのソフトウエアも改変。より高い回転域から、低いギアを選べるようになった。
3速から7速の間では、ギア比が僅かにショート側に振り直された。連続するコーナーでの鋭い操縦性を引き出しつつ、V10エンジンの美声を響かせやすい。
ボディに与えられたエアロキットも新デザイン。GT3レーシングカーさながらの、スワンネックで支えられるカーボンファイバー製リアウイングやディフューザー、フロントサイドのカナードなどが装備されている。
見た目だけでなく、風洞実験でしっかり機能も確認済み。320km/hの最高速度で300kgのダウンフォースを生成するという。これは、通常のR8 V10パフォーマンスRWDより155kgも大きいそうだ。
重要視された専用サスペンションの開発
インテリアでは、2脚の軽量なカーボンシェル・バケットシートが身体をガッチリ保持。赤いステッチが随所に施され、シリアルナンバーが刻印された専用プレートが特別感を高めている。
車重は、R8 V10パフォーマンスRWD比で20kg軽い1570kg。主に軽量なシートと鍛造アルミホイールで達成したという。
車高が落ちる、調整式のコイルオーバー・サスペンションはR8に初採用。スプリングとダンパーのレートが引き上げられただけでなく、自宅でも減衰力を伸長側と収縮側で18段階から選べる。重心を下げることにも貢献する。
アウディは、このサスペンションにかなりの費用と手間を投じたようだ。シャシー開発に関わる技術者、ローランド・ワシュカウ氏は、車高調の足まわりを提供することが重要な要素だったと説明する。
「最終バージョンを、ベスト・ドライバーズR8にしたいと考えました。お別れを告げるモデルとして、価値あるものだと思います」
果たして、その仕上がりは鮮鋭。今回はサーキットのみの試乗となったが、ニュートラルで好バランスのシャシーが生むシャープなコーナリングはそのままに、従来のR8以上にエネルギッシュに感じられた。
試乗車のサスペンションは最も引き締まった状態にあり、身のこなしは目に見えてタイト。とても敏捷な反応を実現している。
筆者が従来から顕著な変化を感じたのはトランスミッション。フル加速時でも容赦なくズバズバとシフトアップを繰り返す。極めてドラマチックだ。
グランドフィナーレに相応しい最終仕様
本域で周回を始めると、7段階に調整されるトルク・リア・ドライブモードが効果を発揮する。新技術とはいえないものの、若干路面が濡れた状態では2段階目で自然な振る舞いを楽しめた。
ドライバーが操縦していると実感できる、テールスライドを許してくれる。それでいて、安全マージンもしっかり残されている。
一方で、積極的にドリフトへ持ち込もうとすると、若干の違和感もなくはない。2段階目は安定志向にあり、筆者が自らテールスライドを誘おうとしているのと同時に、コンピューターの制御も重なり干渉しているような印象だった。
ステアリングフィールは、マクラーレンやポルシェ911が叶えている繊細さには届いていない。手のひらへのフィードバックは少なく、シャシーやシートに伝わる情報から、挙動を確かめがちになる。しかし、反応の正確さは素晴らしい。
アウディR8は、これまでポルシェ911ほど究極的に磨き込まれた走りの質感は備えていなかった。それでも、日常生活で頼れるミドシップ・スーパーカーであり続けた。
今回の試乗はサーキット限定だったため、R8 GT RWDの公道での性格がどのように進化したのか理解できてはいない。とはいえ、しなやかな親しみやすさを残しつつ繊細さを研ぎ澄ませたようだから、過去最高のR8に仕上げられた可能性は高い。
まさに、グランドフィナーレに相応しい最終バージョンといえそうだ。ちなみに、333台の限定生産となる。
アウディR8 クーペV10 GT RWD(欧州仕様)のスペック
英国価格:約20万ポンド(約3320万円/予想)
全長:4429mm(R8 V10パフォーマンスRWD)
全幅:1940mm(R8 V10パフォーマンスRWD)
全高:1236mm(R8 V10パフォーマンスRWD)
最高速度:320km/h
0-100km/h加速:3.4秒
燃費:6.7km/L
CO2排出量:340g/km
車両重量:1570kg
パワートレイン:V型10気筒5204cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:620ps
最大トルク:57.5kg-m/6400-7000rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック
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