歴代「フェアレディZ」の中で象徴的な存在といえば、初代S30型や最新のRZ34型を想起する者が多いかもしれない。しかし、日産のスポーツ性能を世界水準へ一気に押し上げた真の立役者は、4代目となる「Z32型」に他ならない。本稿では、日本車の歴史に強烈な爪痕を残したこの名車の軌跡を紐解いていく。
【写真9枚】→→「今も色褪せないデザインが美しい!」Z32型の日産フェアレディZ
●文:月刊自家用車編集部
国産車出力の天井を定めた「ハイパワー主義」の金字塔
1989年の市場投入を果たした4代目フェアレディZ(Z32型)は、当時の日産自動車が全社を挙げて推進していた「901運動」の思想を如実に体現した1台である。1990年代までに技術世界一を目指すというこの壮大な構想において、フラッグシップたるスポーツカーの開発目標にはドイツの名門ポルシェが設定された。
1970年代の過酷な排ガス規制によってスポーツモデルが牙を抜かれ、著しいパワーダウンを余儀なくされた暗黒期を経て、自動車業界は技術的ブレイクスルーを迎えていた。環境対応技術の熟成とターボチャージャーの高度な制御手法を確立した各社は、再びパワー競争の渦中へと飛び込んでいく。
なかでも日産の攻勢は圧倒的であった。Z32に与えられる3.0L V6ツインターボをはじめ、R32型スカイラインGT-Rの2.6L 直6ツインターボ、そしてインフィニティQ45の4.5L V8という3大パワーユニットを引っ提げ、従来の200馬力前後というスペックを大幅に凌駕する最高出力300psの同時投入を画策していた。
―― プロジェクターライトの採用によりノーズ高を限界まで削ぎ落とし、圧巻の「ワイド&ロー」スタイルを確立。その造形美と機能性はランボルギーニ・ディアブロ後期型へ移植された逸話でも名高い。一文字を描くリアランプ構成も、車幅のワイド感を一層際立たせる。
しかし、技術的に到達していた300psという大台は、当時社会問題化していた交通事故増加に伴う行政の介入によって阻止される。運輸省(現・国土交通省)の指導を受けた結果、市販モデルの最高出力は280psへ抑制せざるを得なくなった。この出来事が引き金となり、後に続く他メーカーも含めた国内自動車業界全体に「280ps自主規制」という独自の枠組みが定着していくこととなった。
ポルシェに肩を並べたメカニズムと新世代サスペンションの全貌
Z32型へのモデルチェンジにおける最大の機構的転換点は、初代以来続いていた伝統の直列6気筒エンジンに別れを告げ、パワーユニットをV型6気筒へ一本化した点にある。
主力となる最高峰グレードには、3.0L DOHCツインターボの「VG30DETT型」を新開発。既存のVG型ブロックをベースにしながらも、ほぼ全パーツに再設計を施すことで、過酷な連続走行にも耐えうる圧倒的な堅牢性を獲得した。結果として国内最高値となる280ps(海外仕様では念願の300psを達成)と、ポルシェ964ターボに肉薄する39.6kgmという驚異的な最大トルクを叩き出した。なお、自然吸気仕様の「VG30DE型」も用意され、こちらはNAながら230psという充分すぎるスペックを備えていた。
―― Z32型フェアレディZのトップグレードには、3.0L DOHCツインターボの「VG30DETT型」新開発エンジンが搭載された。
シャシー性能の躍進も目覚ましい。最上級モデルに投入された「スーパーHICAS」は、モータースポーツで培われた4輪操舵技術をロードカー向けに最適化したシステムである。低速域における旋回性と、超高速域における盤石の直進性を高い次元で両立させ、その後の日産スポーツモデルの基幹技術へと成長した。さらに、この高度な足回りを支えるべく、前後サスペンションには新開発のマルチリンク方式を採用。路面追従性を劇的に向上させ、欧州ライバル勢に劣らない運動性能を手に入れた。
伝統の破棄と革新デザイン——スーパーカーをも魅了した美学
ボディラインナップは、歴代のアイデンティティである2シーターと2by2の2タイプを踏襲。2by2はホイールベースが120mm引き伸ばされているものの、巧みな造形処理によって2シーターと見分けがつかないほどの美しいシルエットを維持している。
―― 立体的な形状が特徴的なZ32型フェアレディZのシート。2by2のリアシートはかなり狭い設計。
スタイリングの面でもZ32は革命を起こした。先代まで継承されてきた「ロングノーズ・ショートデッキ」という古典的なスポーツカーの方程式をあっさりと捨て去り、地を這うような「ワイド&ロー」のプロポーションへ舵を切った。四輪で力強く路面を捉えるその佇まいは、獲物を狙う野生動物のような躍動感と威厳を醸し出している。
この超低重心フォルムを実現するために不可欠だったのが、極限まで寝かされたノーズに埋め込まれたヘッドライト構造である。狭小な開口部から十分な光量を確保するため、プロジェクターユニットや2重ガラス構造を採用するなど、技術の粋を集めた画期的なライトユニットが開発された。
―― Z32型フェアレディZを象徴する、特徴的なデザインのヘッドライト。ロービームはプロジェクタータイプのHIDを採用。ハイビーム転倒時は、プロジェクターのHIDを消灯する。
この先進的かつ精悍なヘッドライトユニットは、後にイタリアのランボルギーニ社が「ディアブロ」の後期型に流用したという逸話でも知られる。機能面においてもCD値(空気抵抗係数)0.31というトップレベルのエロダイナミクスを達成し、日米をはじめとする世界各国で爆発的なヒットを記録した。
その後のバブル崩壊や北米市場における保険料の急騰といった逆風に晒されながらも、Z32型は11年間という長きにわたり生産が継続された。経営危機に直面した日産を支え続けたこの名車の存在なくして、今日のフェアレディZの系譜が途絶えずに引き継がれることはなかったと言える。
―― フェアレディZを象徴するTバールーフを、Z32型も採用した。
―― 前期モデルは、ドアにシートベルトが組み込まれているタイプを採用。北米市場を強く意識していたことがうかがえる。
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