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【ヒットの法則185】フェラーリ612スカリエッティは途方もない性能を備えた大人のクルマ

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【ヒットの法則185】フェラーリ612スカリエッティは途方もない性能を備えた大人のクルマ

2004年に456Mの後継として登場したフェラーリ612スカリエッティ。大排気量のV12エンジンをフロントに搭載した4シータークーペは、技術や性能というより、クルマ作りの世界観のようなもので乗る者を圧倒した。612スカリエッティはどんなモデルだったのか、Motor Magazine誌のテストを振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年5月号より)

センスも男も磨いてこないと乗りこなせない
俳優の石田純一は誤解されている。代表作と呼べる出演作品も最近は少なく、テレビのバラエティショーやクイズ番組でお茶を濁しているばかりの軽薄な中年男。妻子を捨て、モデル上がりの女性のもとに走った浮気男。「不倫は文化」と言い訳する往生際の悪い男。テレビのワイドショーで伝えられるイメージは、悪意に満ちたものばかりだ。

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その「不倫は文化」騒ぎの渦中で、ワイドショーのリポーターたちに取り囲まれる彼の受け答えを、傍らで見聞きしたことがある。リポーターたちが繰り返す稚拙な誘導尋問にも、丁寧に、そして言いたいことを明確に伝えようとする真摯な姿が、失礼ながら意外だった。全然、軽薄じゃない。立派な男。僕も、世間のイメージに捕われていた。

テレビでは文脈を無視した編集が行われるから、「不倫は文化」というところだけが切り取られて、ひとり歩きしてしまった。彼が言いたかったのは、「不倫が文化」なのではなく、世界と日本の歴史をひもといてみれば、現代の日本ならば不倫と呼ばれるような行為を題材や契機として、さまざまな芸術作品が生まれているし、それが文化を彩ることにもなった、ということだろう。

もうひとつ、好感を得ることになったのは、彼がその場から立ち去る時にライトブルーメタリックのフェラーリ456GTに乗っていたからだ。とてもよく似合っていた。

456GTのカッコよさ、エレガンス、粋な様子をどう伝えたらいいだろう。ミッドにエンジンを搭載した、やる気マンマンのスポーツカーではなく、フロントエンジンのフェラーリ。普段はエンジンをギンギンに回す必要のない、大排気量12気筒のフェラーリ。

加えて、彼の456GTのボディカラーがよかった。フェラーリというと、条件反射的に赤を連想してしまうが、実はフェラーリは青も似合うのだ。アズーロという「青」を表すイタリア語は、モータースポーツ以外のイタリアのスポーツのイメージカラーだ。その青を淡くしてメタリックを加えた456GTを選ぶのには、相当のクルマ道楽を経た上で、センスも男も磨いてこないとできることではない。

世間のイメージ通りの男だったら、わかりやすい真っ赤な360モデナにでも乗っているのが関の山だったろう。

現在のF430、その前身F360モデナ、さらに以前のF355、もっと遡れば348や328など、V8エンジンを搭載するフェラーリは順当にモデルチェンジを繰り返して来ている。混乱はない。

しかし、12気筒を積む大型フェラーリの系譜は、わかりやすいとはいえない。456GTの後継、456MGTは2+2の4シーター。一方、それに代わったはずの550マラネロ~575Mマラネロは2シーター。同じようにフロントにV12を置いても、ガラリと路線を変えた。

456GTの前のテスタロッサ~512TR、もっと前の512BBは水平対向12気筒をミッドに置いた2シータークーペだ。

2シーターと4シーターは併存していたが、その棲み分け方は明確ではなかった。なんとなく、フェラーリが時代の様子を見ながら、大型12気筒モデルの内容を変えているのではないか。時代がフェラーリに求めるものをサーチしながら進めているように見える。

上質であることの意義を知る
で、現在の612スカリエッティである。456MGTの衣鉢を継ぐ、大型2+2フェラーリ。5.7LのV12をフロントにマウントする。456MGTよりも、ホイールベースを350mm伸ばし、エンジンをフロントアクスル後方に搭載することなどによって、全長は4900mmにも達している。

ボディは大型化されたが、フェラーリの12気筒モデルでは初めてアルミニウム製スペースフレームを採用することによって、車両重量を1840kg(ヨーロッパ仕様)に収めた。日本仕様の456GTが1860kgだったから、たしかに軽量化の効果が現れている。内装や装備品などを除いた、ホワイトボディの状は約10%ほど軽いという。軽いだけではなく、ボディ剛性は62%もアップしたというのがフェラーリのデータだ。

612スカリエッティでは軽量化とともに高出力化も行われている。5.7LのV12エンジンは、540ps/7250rpmものハイパワーを発生していて、これは456Mに較べて100psも高い。

フロントミッドシップレイアウトや、ギアボックスとディファレンシャルを一体化させてリアに配置するトランスアクスル方式を採用することによって、46%:54%という前後重量配分も実現されている。

トランスミッションは6速マニュアルと、ステアリングホイール裏のパドルで操作できるセミオートマチックの「F1 Aタイプ」ギアボックス。従来の「F1」タイプから進化した。

サスペンションは、4輪ともに電子制御アクティブダンパーを備えたダブルウイッシュボーン式。また、フェラーリとしては初めてとなる「CST」というトラクション&スタビリティコントロールがこのモデルから採用された。

運転席に座った第一印象は、革張りの内装の見事さだ。特に試乗車は、オプションの「デイトナ」タイプのシートが装着されていたので、ゴージャスでありながらスポーティという雰囲気をうまく形作っている。

メーターパネルの左側には、グランプリで世界チャンピオンに輝いたシーズンの年度が誇らし気に記されている。「F1 World Champion 1999 2000 2001 2002 2003」

1983年以前に獲得したチャンピオンシップが書かれていないのは、なぜだろう。ドライバー正面のレブカウンターの数字が、太ゴシック系の新しい書体で描かれている。その隣にフルカラーのマルチファンクションディスプレイが配されている。メーター類やディスプレイのデザインが特別に新しいことを行っているわけでもないのに、とても斬新に感じるのは、造形に力が備わっているからだろう。

左右のパドルを同時に手前に引いて、ギアをニュートラルに入れ、エンジンを掛ける。アイドリングでは、とても540psもあるとは思えないほど、5.7LのV12は静かだ。

空吹かしをしてみても、騒々しい音が撒き散らされるわけではない。滑らかで、乾いた、フェラーリの12気筒らしい官能的なサウンドは健在だが、とても穏やかだ。

575Mマラネロや456MGTは、見た目のしとやかさとは裏腹に、エンジンの排気音は意外と猛々しかったのを思い出す。

走り始めてみても、ジェントルな印象は強まっていくばかりだ。アクティブダンパーやロングホイールベース化などが効いているのだろうが、乗り心地が快適だ。段差や舗装のつなぎ目などでも、当たりが柔らかく、ショックが少ない。それでいて無駄な動きが少ないので、低く、フラットな姿勢を保ち続ける。

刺激が少ないといえば少ないが、街中を流している時ぐらいは静かに行こうよとクルマにたしなめられている気がする。やさしく、静かに走るところに大人の心得が問われる。高速道路に乗り入れても、速く、心地よく走る印象は変わらない。ある種の重厚感さえ備わっている。

F1 Aタイプのトランスミッションは、格段に使いやすくなった。一般的なDモードに相当するAUTOモードで走行中に、パドルによるマニュアル変速を行うと、以前はずっとギアがホールドされたままだった。それが、10秒ほど変速操作を行わないと自動的にAUTOモードに戻るよう改善された。アウディやポルシェなどが採用している「ティプトロニックS」を始めとする多くのセミATやロボタイズドMT(=AMT)と同様の働きを持つようになったのである。

この方が断然と理にかなっていて、使いやすい。リバースギアも、短いノブからプッシュボタン式に改められた。

足ることを知ることも大人の世界観
アップダウンのある空いた道路を何往復かしてみる。加速やコーナリングは圧倒的だが、それをあまり伝えてこない。メーターを見て、初めてスピードを認識する。スピード感が薄い。

つまり、速く走り、正確にコーナリングをしているのだが、そのことをドライバーに抑え気味にフィードバックしてくる。

たとえば、V12の排気音が運転者には控えめに聞こえるのに対して、車外では結構勇ましく聞こえていたりする。この辺りに、612スカリエッティの真骨頂が顔を覗かせているような気がする。

走りのパフォーマンスを、パフォーマンスなりに伝えるのか。あるいは、ある種の技術的な演出なり加工を施して、パフォーマンスをわかりやすく伝えようとするのか。

後者の代表が、V8エンジンを搭載したF430だ。素晴らしいエンジン音とフィーリングを、ドライバーにいついかなる場合でも、漏らすことなく、時には誇張するかのように伝えようとする。

実際の走行も、速く、鋭いことは間違いないのだが、それを音やフィーリングなどでドライバーの官能を刺激して、実際以上のものを感じさせようとしている。

F430が、持てるパフォーマンスをより過剰な演出をもって表現しているのに対して、612スカリエッティはそれとは対照的に、パフォーマンスを抑制気味に伝えてくる。

それは技術や性能レベルの話ではなく、そのクルマで何をユーザーに提供したいのかという、クルマ作りの世界観のようなものが提示されている。

つまり、612スカリエッティは、途方もない性能を備えていても、それをひけらかすことなく、足ることを知る大人のクルマなのではないだろうか。それは今に始まったことではなくて、456GTや550マラネロにも等しく備わっていた。

V8フェラーリに求めるのと同じものをV12フェラーリに求めてはならない。両者は、異なった価値を追求していて、好対照だ。だから、好漢・石田純一には、612スカリエッティもよく似合うと思う。(文:金子浩久/Motor Magazine 2006年5月号より)



フェラーリ 612 スカリエッティ(2006年) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4900×1960×1370mm
●ホイールベース:2950mm
●車両重量:1910kg
●エンジン:V12DOHC
●排気量: 5748cc
●最高出力:540ps/7250rpm
●最大トルク: 589Nm/5250pm
●トランスミッション:6速AMT(F1Aタイプギアボックス)
●駆動方式:FR
●車両価格:2990万円(2006年)

[ アルバム : フェラーリ 612 スカリエッティ はオリジナルサイトでご覧ください ]

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みんなのコメント

4件
  • 昨日、白髪の方がスーツ姿で、グリジオイングリッドの612に静かに乗っているのを見た。
    解ってるなー、と感銘を受けた。
  • 4シーターのフェラーリは最高の贅沢。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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