あらゆる分野で時代を切り拓く先駆者たちを称える「GQ Creativity Awards(クリエイティビティ・アワード)」。2025年の受賞者のひとり、Mrs. GREEN APPLEのフロントパーソンである大森元貴のクリエイティビティの源とは?
今号のカバーにもMrs. GREEN APPLEのフロントパーソンとして登場している大森元貴。だが彼の表現活動を「バンドマン」あるいは「ミュージシャン」という言葉でくくってしまうことにはどうしても抵抗がある。作詞作曲や演奏はもちろん、ライブの演出やビジュアル・コンセプトのプロデュースなど、バンド内外で活躍を続けるマルチなクリエイターだからだ。さらにこの春は、映画『#真相をお話しします』での初主演やNHK連続テレビ小説『あんぱん』への出演など、俳優としても本格的に始動。その活動範囲はますます広がっている。
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ではなぜ彼はこんなにも多彩な表現に取り組み続けるのか。そしてその多岐にわたる表現がすべて1本の線で繋がっているように見えるのはなぜなのか。領域をクロスオーバーしながら彼の目に映る世界を形にし続ける大森に、率直な疑問をぶつけてみた。「どうしてこんなにいろいろなことができるんですか?」と。
「でも、必死ですよ(笑)。『なんでもできてすごいね』みたいな感じっていうよりは、自分が探求しているものを表現しようと思うと、こういうことになっちゃうんです」
Mrs. GREEN APPLEとしてメジャーデビューを果たしたのは今から10年前。その2年前のバンド結成当初から、彼の中には今のような未来像があったという。
「いろいろな表現をしていくというビジョンは初めからあったんです。もしかしたら僕以上にメンバーのほうがそういうイメージを持っていたかもしれません。映画の話をいただいたときも、若井(滉斗)は『やると思ってたよ』って言ってましたから。そうやって2人に背中を押されたことによって踏ん切りがついたところもありましたね」
創造の起源は空想だった『#真相をお話しします』への出演という挑戦は、彼にとってどういう経験だったのだろう。
「『歌を歌っているんだから言葉でも表現できるでしょ』って言われるんです。歌もお芝居だという話を演劇畑の方々からされるわけですよ。でもやってみたら全然違いました。僕は歌詞を書いてるから、自分の言葉を自分として歌えるんですけど、それと脚本家の方が書かれた言葉を、自分の体っていう器を通して発するというのはまるで違う表現でした」
しかしそんな勝手の違う表現は、彼にとって「すごく気持ちがよかった」という。
「ミセスでは全部自分でやっていたけど、撮影現場では僕らも照明さんとか小道具の方とかと同じ、ひとつのピースじゃないですか。脳みそじゃなくてピースであって、でも欠けちゃいけない歯車であるっていう感覚は初めてで、僕はそういうあり方が好きなんだなと思った。僕、本当は導かれたい人なんですよ。だから整体とか美容院とか大好きなんです(笑)」
芝居を整体や美容院で施術を受けることにたとえるという感覚はかなり独特だが、それだけ彼はゼロから何かを生み出すということをやり続けてきたということだろう。ここで話題は俳優としての経験から離れて、彼のクリエイターとしての原風景へと移り変わる。
「子どもの頃から、外で遊ぶよりも空想したり妄想したりするのが好きでした。友達と外でドッジボールしたり駆けっこしたりっていうのと僕の中では同じ。人前で自分がステージに立っていて純粋に応援してもらえるとか、ワーって声が上がっているとか、きらびやかで楽しげな光景を漠然と思い浮かべていたんです。その、『みんなで楽しいことしようよ』みたいなすごく童心に近い何かが、クリエイターとしての起源な気がします。それで小学6年生で初めてバンドをやったときに『もしかしたら音楽だったら僕の頭の中が再現できるのかもしれない』って感じたんですよね。『この満たされ方って近いかも』みたいな」
幼い大森が思い描いていた光景は、やがて現実のものになっていく。デビューから10年間のMrs. GREEN APPLEの道程は、空想や理想を具現化していくプロセスだったのかもしれない。
「一昨年、ベルーナドームで『Atlantis』のステージに上がったときにメンバー2人が遠くにいて、絵のように見えたんですね。その瞬間に『一致したかも』みたいな感覚を覚えました。逆にライブハウス時代のほうが難しかったです。思い描いたことがなかったから、頭の中の風景に合わない。すごく悶々とした時代を過ごしていました」
つまり、彼にとっては曲を書いて自身の思いを表明するよりも、ビッグスケールのステージでそれを鳴らし大観衆と共有する光景のほうが先にあったのだ。しかし、彼の生み出す楽曲、とくに歌詞には、そんな開放的な自我とはまったく異なる内面性が浮き彫りになっているようにも思う。
「曲を作ることと妄想することとステージに立つことって一本化して見られるけど、決してそうではなくて。曲を書く自分はまた全然別のところにいるんです。楽しいことをするために曲を書かなきゃいけないんだけど、『曲を書くなんて恥ずかしいことを、なんで私は生業にしたのだろう』って毎日思うんです。なんて情けないことを日々してるんだろうって、いまだに思いながらやっています」
内省的な作家としての自分と、エンターテイナーとしての華やかさを求める自分。その分裂もまた、彼を長く苦しめてきた。
「18、19歳のときはそれが苦しくてしょうがなかった。でも華やかなものには影がつきものであって、たとえばグリム童話にしてもものすごくおぞましい描写が裏にはあったりする。でもみんなはすごく輝かしいところを印象深く覚えているんです。そういう仕組みをずっと勉強してきた結果、リアリティーとファンタジー、焦燥と憧れのバランスが見えてきて、『これやれるかも』って思えたのが22歳の頃。でもこのままじゃそれは叶えられないと思って、だからバンドを休止したんです」
2020年、Mrs. GREEN APPLEは「フェーズ1」の完結を宣言、いったん活動をストップした。そして1年8カ月の休止期間を経て再び表舞台に戻ってきた彼らは、「フェーズ1」とはまったく違うイメージを纏っていた。大森の書く楽曲が中心にあるという点は変わらないが、バンドという枠組みにとらわれず、より自由でフレキシブルな表現をする集団へと変貌していたのだ。
「自分という人間がどういう人間なのかを学んだし、やりたいこととやれることは違うというのを経験して……僕は華やかなものが好きだし、輝かしいことをしたいけども、自分はものすごくインナーな人間だってことに気づいた。じゃあそれをどっちも生かす方法って何かといったら、やっぱりもう振り切ることしかなかったんです。大衆音楽を作るっていう決意が、同時にリアルを深めるっていうことで説明がつくなって」
大衆音楽を作るという決意がリアルを深める─それはどういうことだろうか。大森は言葉を続けた。
「自分が反骨精神を持ったバンドマンなのか商業作家なのか、どっちなんだろうみたいな時期がずっとありました。でも『どっちもだな』って割り切れた。商業作家としてものすごくクレバーに楽曲作りを考えることに抵抗がなくなったんです。だからメンバーとは『バンドと名乗ることで鎖に縛られるんだったら、名乗らなくてよくないか』っていう会話までしました」
つまり、Mrs. GREEN APPLEは紛れもなくバンドだが、「バンドであること」自体が自身のクリエイティビティにリミットをかけていたかもしれない、という矛盾に彼はたどり着いたのだ。「フェーズ1」での活動を、大森は正直に「不自由だった」と明かす。
「でもそこで自由であろうとする勇ましさみたいなものがギターに乗ったときに響く作用も分かってるんですよ。何を天秤にかけたかは、ものすごく理解してるつもりです。どっちもよさがあるからこそ名前をつけようって言って、『フェーズ2』って名前をつけたんです」
自身の表現の本質に向き合うことで、「フェーズ2」以降の大森の表現は明らかに変わった。それは「Soranji」や「ケセラセラ」、「ライラック」や「familie」など、彼の書く楽曲を聴けば分かるだろう。サウンドはより振り幅が広がり、一方で歌詞は生と死や自身の内側にある孤独など、よりディープなテーマに躊躇なく踏み込んでいるように見える。
「より自分の核の部分みたいな、アビスを覗き込んで手を伸ばすみたいな感覚は非常に強まりましたよね。でも僕の表現したいことを最大限生かそうと思ったときにそのバランスが必要だっていう感じだから、そこに対しては何も思わない」
世界は、まだ未完成のままエンターテインメントとしてのあり方も、作家として内面に潜っていく深度も。相反する両面を、今の大森は追求し続けている。
「空想家・大森元貴が言うならば、生み出すものはとにかく楽しいものでありたいんです。でも作家・大森元貴としては、孤独感を感じる自分を自分で認めてあげるための装置みたいなものだと思っています。どうやったら自分を認めてあげられるんだろう、どうやったら自分が好きな自分でいられるんだろうみたいなのを、常に自問自答するための装置が僕にとって表現するということなんだと思う」
広がり続ける大森の表現を見ていると、彼は孤独や苦しみを抱えた自分が生きていける世界を、自らの手で作り出そうとしているように映ることがある。そう伝えると大森は「『世界を作る』ってあまりにも強烈ですね(笑)。そうなのかな」と笑ったが、だからこそ、その表現は終わることがない。世界が完成することなど決してないからだ。
「手応えはあるし、ものすごく褒めてあげたいし、それだけのことをやってる自負もあるんですけど、達成感はありません。結局、満ち足りることとすり抜けていくことの繰り返しじゃないですか。だからその焦燥感は埋まらない。チャートの1位を獲っても、いっぱい褒めてもらえても、賞をもらっても埋まらない何かがある。その空いた穴っていうのを日頃紛らわして生きていくしかないじゃないですか。僕は僕として生きていくために曲を作っていくしかない。今日も僕は歌を作って自分を慰めてるんです。自分が好きな自分であろうとし続けるということは、ずっと変わらずに続いていくんだと思います」
決して埋まることのない空白を見つめながら、それでも何かを作り続けずにはいられない─そんな言葉に「業」のようなものを感じながらも、それを楽しげに語る大森の目に救われるような気分になる。おそらく彼は、クリエイトし続けることで息をする、生まれ持ってのクリエイターなのだ。そんな彼に、最後に未来のことを聞いてみた。
「クリエイターとして目指す姿ですか? そういうのが叶うのって、僕が死んでからだと思うんですけど、100年後、200年後とかに『ここで大森さんは曲を作られてました』とか、本当か嘘か分からないようなところで誰か分からない人が説明して『すっげー』って言われてるのが夢ですね(笑)。だから……『世界を作ろうとしてる』と言われて衝撃だったけど、確かにかなり近いところにあるのかもしれないです」
自分の生み出す「世界」が、現実を変える未来を夢見て、大森元貴の空想と創造は続いていく。
ジャンルを超え、自己を媒介に世界をかたちづくる表現者
ソロアーティストMrs. GREEN APPLEが活動休止していた2021年、バンドの再始動に先んじてソロ・プロジェクトがスタート。その「デビュー作」となったEP『French』は、当然のことながらバンドとはまったく違う形で大森元貴というアーティストの核の部分をあらわにするような、パーソナルで内省的な作品となった。パワフルなバンドサウンドやスケールの大きなショーの裏側に息づいていた、ひとりの人間の孤独で優しい心情。そのニュアンスは半年後にリリースされたセカンドEP『Midnight』にも受け継がれている。「フェーズ2」開始を前に自分自身をさらけ出すことによって、復活したミセスのありかたや意味合いも大きく変化していった。
言葉を紡ぐ絵本作家ソロデビュー作『French』収録の楽曲をもとに、ミュージックビデオでもコラボレーションしたイラストレーターの大谷たらふとともに作り上げた大森にとって初の絵本作品『メメント・モリ』(2021)。彼の音楽に貫かれている「死」への眼差しを優しく描き出した本作には、歌詞だけでは描ききれない、彼の創作の根源が顔を覗かせている。昨年12月には上白石萌音による朗読会も開催された。
ライブや舞台のコンセプトを考える演出家数々の楽曲を物語のもとに組み上げて表現した音楽劇的ライブ「The White Lounge」(2024~2025)。管弦楽やパーカッションを加えた特別編成でリアレンジされた楽曲を、同一会場で計10日間にわたり披露した「Mrs. GREEN APPLE on “Harmony”」。そうしたコンセプチュアルなライブではもちろん、アリーナやスタジアムでのビッグスケールのワンマンライブでも、ミセスのステージには伝えたいテーマとストーリーがはっきりと存在している。そのすべてを生み出すのも大森その人だ。
映画やTVドラマで演技する俳優結城真一郎のヒット作を実写化した映画『#真相をお話しします』では菊池風磨とともに映画初主演、物語の鍵を握る謎多きキャラクター「鈴木」を演じている俳優・大森元貴。さらに現在放送中のNHK連続テレビ小説『あんぱん』では実在の作曲家・いずみたくをモデルにした「いせたくや」という役で出演することが発表されている。ライブやミュージックビデオでもさまざまな表情やアクションで楽曲のメッセージを届けているアーティストであるだけに、演技の場においてもその存在感は光っており、今後も彼をスクリーンやTVで見る機会は増えていくだろう。優れたミュージシャンが優れた俳優になるケースは少なくないが、彼もまたそのひとりかもしれない。
他のアーティストに楽曲提供するソングライター/プロデューサーこれまでKis-My-Ft2、TOMORROW X TOGETHERなど多数のアーティストに楽曲を提供してきたソングライター/プロデューサーとしての顔も見逃せない。近年では映画『ONE PIECE FILM RED』でのウタ(Ado)の歌唱曲として提供した「私は最強」が社会現象と呼べるようなヒットとなったほか、今年2月にNiziUに書き下ろした「AlwayS」では「THE FIRST TAKE」での共演も話題となった。
大森元貴/Motoki Ohmori1996年生まれ、東京都出身。Mrs. GREEN APPLEのボーカル兼ギタリストとして、作詞/作曲/編曲、さらにジャケットのアートワークおよびミュージックビデオのアイデアまで、楽曲に関するすべての要素を担当している。2021年からソロ活動を開始。俳優としても活躍し、現在映画『#真相をお話しします』が公開中。またNHK連続テレビ小説『あんぱん』にも「いせたくや」役で出演中。
コート ¥396,000 by LEA BOBERG、シャツ ¥111,100、パンツ ¥125,400 by WALES BONNER(ともにスーパー エー マーケット 青山)中に着たタンクトップ ¥7,480 by WAX LONDON(グリニッジ ショールーム)その他 スタイリスト私物
写真・荒井俊哉
スタイリング・中兼英朗
ヘア・ 福田雅彦
メイク・朴 ミキ
文・小川智宏
編集・高田景太(GQ)
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