2012年、991型に進化したポルシェの基幹車種「911」が日本でも走り始めて大きな注目を集めていたが、本国ドイツではその991型の911カブリオレがデビューを飾り、国際試乗会が開催された。今回はスペイン・カナリア諸島で行われたその国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2012年5月号より)
大航海時代に重要な役割を持っていたカナリア諸島
大航海時代に覇を競い合っていたスペインとポルトガルが最初に目指していたのは、船でインドに辿り着くことだった。最も大きな目的は、インドや東南アジアで産出される香辛料や金銀、絹などを直接購入することだ。
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ヨーロッパにいても、イタリアのベネチア経由でそれらを購入することは可能だったが、原価の20倍から50倍とひどく高くついていた。なぜならば、それらの品々の流通はすべてイスラム圏の商人たちが一手に握っていたからだった。中世では、ヨーロッパのキリスト教徒は軍事的にも経済的にもイスラム教徒の力に圧倒されていた。
インドやアジアからの品々を、いつまでもイスラム教徒たちの言い値で吹っ掛けられていてはたまらない。イスラム教徒とは違うルートでそれらを直接に仕入れることはできないものか? 大袈裟ではなく、当時のスペイン人やポルトガル人の切実でチャレンジングな願望が、21世紀の今日にまでつながる世界秩序を作り出したのだ。今にして想ってみれば。
それまで、地中海を出て大西洋をアフリカ大陸沿いに南下しようとしたヨーロッパ人の船乗りは数多くいた。しかし、北西岸のボハドル岬にまで来ると、突如として風が強まり、当時の船では先に進むことができなかった。
大西洋上を東から西へ吹く強力な貿易風が行く手を阻んだのだ。運悪く巻き込まれてしまった船は木端微塵に粉砕されたり、流されて二度と戻ってこられなくなった。船乗りたちは、その先は断崖絶壁の滝になっていて二度と戻れない「不帰の岬」と怖れていた。ここを初めて越えてアフリカ大陸沿いに南下し、最南端の喜望峰を発見したのがポルトガルのバーソロミュー・ディアスだった。ディアスに続き、アフリカ大陸東海岸のモザンビークに達し、既存のアラビア人の航路を利用してインド洋を横断してインドに到達したのがバスコ・ダ・ガマだ。1498年のことである。
ポルトガルに対抗していたスペインがレコンキスタによってイスラム教徒をスペインから一掃したあと、イザベラ女王が起用し、インドと誤認しつつも大西洋を横断し中米バハマに到着したのがクリストファー・コロンブスだ。
ポルトガル勢は東へ、スペイン勢は西へとお互いに正反対の航路を進んでインドとその先のマラッカ(マレー半島)を目指した。スペイン船団もポルトガル船団も、大西洋に出たあと最初に立ち寄って食料と飲料水を補給したのが、ボハドル岬沖のカナリア諸島だった。カナリア諸島を出て、南下して喜望峰を回ったのがポルトガル勢。大西洋を西へ進んでいったのがスペイン勢だ。両国にとって、この島々はとても重要な役割を担っていた。
カナリア諸島は14の島々から形成されるスペインの自治州だが、そのうちのひとつグランカナリア島でポルシェ 911カレラ カブリオレの国際試乗会が行われた。
完璧な操舵感に驚き、高い走行安定性に喜ぶ
911 カレラ カブリオレとは、昨年2011年10月のフランクフルトショーでフルモデルチェンジが発表された911(タイプ991)に早くも設定されたカブリオレのことである。
タイプ991版への改良点を端から挙げていく重複は避けたいところだが、ポルシェ初の電動パワーステアリングの仕上がり具合の素晴らしさに、まず強く印象付けられた。
休火山を抱くグランカナリア島の山岳地帯を縫うアップダウンとコーナーが連続した道で、休むことなく右に左にハンドルを回し続けている時に、操作とアシスト量変化の滑らかさ、伝達される情報量の豊富さに驚かされた。
直進状態ではアシストがほとんどなくなり、適度な手応えが走行の安定性に寄与しているが、そこから切り始め、再び直進状態に戻る時の一連の動作に電動パワーステアリングにありがちな人工的な反応が皆無で、とても頼もしい。従来の油圧式と較べて遜色がないほか、それ以上に滑らかだ。ここまで上質なパワーステアリングを他に知らない。同時に大幅な軽量化も図られるのだから、まったく言うことはない。
タイプ991のクーペがデビューした時の国際試乗会ではこの電動パワーステアリングに賛否両論の評価が下されていたようだが、筆者がグランカナリア島で乗ったカレラS カブリオレに関しては、完璧なものだった。
タイプ991へのフルモデルチェンジによるもうひとつの大きな変化は寸法の拡大だ。ホイールベースが100mm延長され、オーバーハングが短くなった。フロントトレッドも52mm(カレラS、カレラ カブリオレは46mm)拡大され、理論的には走行安定性が高まったはずである。
まったくその通りで、直線でもコーナーでも極めて安定感に溢れ、それは激しいコーナリングやブレーキングの際にも変わらない。ひと昔前までは、「911はリアエンジンだから加減速に伴う前後の姿勢変化が大きく、そうした特性は操縦性にシリアスな影響をもたらす」と危惧する声が必ず聞かれたものだが、このカレラSカブリオレではまったくの杞憂に過ぎなかった。
ノーズダイブとテールスクオットという前後の動きだけでなく、左右へのロールもほとんど感じさせない(ゼロということはあり得ないのだが)フラットな姿勢を維持しながら、ハイペースで荒涼とした峠道をクリアしていった。と同時に、路面からのショックやノイズ、細かな振動などをも遮断し切っていて、乗り心地は重厚ですらある。スポーツカーであると同時に、とても上質なサルーンのような快適性も備えている点に感服させられた。
非の打ち所がない完成度だが操作には慣れも必要
さて、肝腎のカブリオレボディはどうだったのか? こちらも大進化を成し遂げていた。先代モデルと決定的に違うのは、幌の開閉速度だ。2+2キャビンを覆う大きな幌を電動で開け閉めするのに要するのは、たったの13秒! センターコンソールのスイッチを引き続ければ屋根が開く。50km/hまでならば、走り始めてでも開閉が可能だ。
速い! 先代の911カレラ カブリオレが20秒弱だったから7秒も短くなった。この7秒は大きい。念のため、スイッチを押し込んで閉めてみると、それも13秒。最後のロックまで自動で行う。弟分のボクスター(旧型)も幌の開閉自体は電動で行われるが、最後のロックは手動で行わなければならない。
この7秒の短縮をもたらしたルーフトップシステムが、新しい911カレラ カブリオレの進化で最も大きなもののひとつだ。「カブリオレというクルマの美しさを左右するのは、幌を閉めた時の形にあります。今回のフルモデルチェンジでカレラ カブリオレのシルエットは、初めてクーペと一致しました」そう語ったのは、プロジェクトリーダーのミハエル・シェッツレだ。
オープンカーが幌を閉めると、幌の骨の部分だけが盛り上がって凸凹になりがちだが、今度のカレラ カブリオレはたしかに、幌を閉めて真横から眺めてみると、クーペの911カレラと同じように屋根からリアバンパーにいたるラインがサラッとなだらかになっている。
幌はアウター/防音材/パネルボウ(乗員の上の部分に来るマグネシウム合金製構造材)/インナーが組み合わさった4層構造になっている。見た目はキャンバスの布だけでできているようだが、防音材とサンドイッチされた軽量かつ強固なパネルボウが収められている。シンプルなようだが、中身はなかなか複雑だ。
閉まり方も複雑になった。パネルボウとリアウインドウがZ字型に折り畳まれると同時にサイドウインドウがハネ上げられ、コンパクトに畳まれていく。畳まれたルーフはエンジンの上部にコンパクトに収まるから、シルエットを乱すことがない。
幌を開けて高速道路に乗り出すと、風の巻き込みや風切り音がほとんど発生していないことに驚かされる。今回のモデルチェンジで初めて採用された電動式ウインドディフレクターが効果を発揮しているのだろう。
コーナーやアップダウンが連続した空いた高速道路を100km/h以上で駆け抜けても、頭の上には見えない屋根が存在しているかのように車内は平安そのものだ。
高速道路を降り、急峻なワインディングロードへ繰り出す。右に左に激しいコーナリングを延々と繰り返していっても、カブリオレボディはミシリとも言わない。剛性感の高さは格別だ。剛性感ばかりがクルマの完成度を決定付けるとは思わないが、カレラS カブリオレには舌を巻いた。
ほとんど非の打ちどころがないカレラS カブリオレだったが、インテリアが気になった。パナメーラのような太く、大きなセンターコンソールが空間を占拠し、ボタンやスイッチも多く、煩雑なのだ。
機能の増加に伴ってボタンやスイッチが増えてしまうのは現代の高性能車の宿命だが、そこをポルシェらしい精巧な解決方法でさばいて欲しかった。BMWのiDriveシステムほど過激でなくともかまわないから、せめて空調やエンターテインメント、電話などの走行に直接関係ない機能だけでも、パソコンや携帯電話のような階層構造を採用し、ボタンやスイッチを整理整頓できるようにするべきではなかったか。
スポーツカーだったら、なおさらだ。その点をポルシェのエンジニアに質すと、次の答えが返ってきた。「スポーツやスポーツプラス、PASMのモード切り替えスイッチなどは、走行中に瞬時に手探りで切り替えられなければならないので、指の移動量が最も少ない位置にボタンを配している。だから、ユーザーは少し使っていくうちに慣れて、手探りで操作できるようになるはずだ」
タイプ991への変化と画期的な幌の採用。今度の911 カレラS カブリオレは、ふたつの大きな進化を内包している。グランカナリア島の荒涼な岩山の間を駆け巡って、そのどちらの進化も大きなものであることを体感できた。(文:金子浩久)
991型ポルシェ 911 カレラS カブリオレ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4491×1808×1292mm
●ホイールベース:2450mm
●車両重量:1560kg
●エンジン:水平対向6DOHC
●排気量:3800cc
●最高出力:294kW(400ps)/7400rpm
●最大トルク:440Nm(44.9kgm)/5600rpm
●トランスミッション:7速DCT(PDK)
●駆動方式:RR
●最高速:299km/h
●0→100km/h加速:4.5秒
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