世界中のクルマ好きが一度は乗りたいと願うスポーツカーの筆頭格であるポルシェ911。その新型タイプ992の4WDを京都への道行で試す。RRレイアウトを進化させ続けることで、真にユニークなスポーツカーへと上り詰めた。同時に、4WD化やシャシー制御の進化などにより技術的にはRRテイストもまた薄まりつつある。
Rei.Hashimoto現在のポジションは“RR”で勝ち得たもの
今さらながらあえて書くのだけれど、世界を見渡してもポルシェ911ほどユニークなスポーツカーは他にない。その人気は世界的で、モデルチェンジするたびに様々な議論を提供し、たいていはプラスのイメージへと収束させる地力をもつ。たとえマイナス評価の目立つ世代(たとえば996、筆者の好物だが)であったとしても、時間を経て次第に再評価されていく。世代ごとに熱心なファンがいる、からだろう。
911は世界中のクルマ好きが一度は乗りたいと願うスポーツカーの筆頭格でもある。ではなぜ911だけがそんな美味しいポジションを勝ち得ることができたのだろうか。もちろん理由をひとつに絞り込むことは難しい。カリスマ、コンセプト、デザイン、モータースポーツ、ヒストリー、etc.。実に様々な物語が重なり合った結果、現在の地位を築くに至った。
それでも何かひとつ重要な理由を挙げてみろ、と問われたなら、迷うことなく“RR(エンジンリア置きリア駆動)であったこと”と筆者なら答える。
Rei.Hashimotoポルシェ博士の理想はミドシップのスポーツカーであったという。事実、ポルシェ社初の生産車両、356“No.1”ロードスターは、VW用空冷4気筒エンジンをドライバーの背後に置いたリアミドシップレイアウトを採用していた。もしポルシェ親子がそのままミドシップのスポーツカーに拘泥していたなら、その後の輝かしい911史はなかっただろう。否、ポルシェの名そのものも、テクノロジーカンパニーとして残せた可能性こそあれ、今日あるようなスポーツカーブランドとしては無理だったに違いない(今では両分野においてエクセレントカンパニーになっている)。
ある程度の実用性の確保とアフォーダブルな価格設定を考慮して、スポーツカー性能には不利のあることを承知で、VWと同じRR化に踏み切った。そして、そんな不利を有利へと変える工夫を重ねてクルマを進化させ、その正当性を例えばモータースポーツにおいて証明し続けることができたからこそ、356~911というスポーツカー史上唯一無二のメジャー血統が生まれたのだと思う。さすがに誰も真似しなかったし、真似できなかったのだ。
そう、RRレイアウトを決して諦めず進化させ続けてきたことも、それを採用した以上に重要なポイントである。RRレイアウトそのものには今なお多くのメーカーが挑戦している。
ポルシェには実は経営の危機が幾度となくあった。たまらずミドシップやFRのスポーツカー生産に色気を見せたこともあった(914と924、928)。けれども、911だけは生き残った。エンジンリア置きという稀な基本コンセプトを変えることなく、その誕生から現在に至るまで実に70年以上にもわたって続いたスポーツカーなど他に見当たらない。
Rei.Hashimotoリラックスしながらずっと運転を楽しんでいられる
過去半世紀の911は、仮に目をつぶって運転できたとしても、それが911だと感覚的に分かるほどユニークな乗り味も有している。だからこそ911は独特な存在であり続け、各世代に熱烈なファンを抱える名車になったのだと思う。
RRの利点=後輪のトラクション性能と室内パッケージの実用性、を守りつつ、弱点のひとつひとつを克服してきたのが911版“進化の軌跡”だ。そのプロセスが半世紀以上にわたり、唯一無二の存在になった今、もはや他のどのスポーツカーブランドも911のRRレイアウトを真似してまでポルシェに対抗しようとは思わなくなっている。よりコンベンショナルなレイアウト、FRやミドシップで911のマーケットに対抗しようとする。それゆえ、そこそこ勝負はできるけれど、勝つまでに至らない。
Rei.Hashimotoつまり、911は真にユニークな地位にまで登り詰めた。と同時に、4WD化やシャシー制御の進化、エンジンの小型軽量化、ボディサイズの大型化、などによってRRのダイナミックパフォーマンスにおけるデメリットは今やほとんど消えうせた。つまり、技術的にはRRテイストもまた薄まりつつあると言うこともできる。
確信をもってそう思えたのが、新型992シリーズの4WDモデルを初めて試したときだった。内外装のデザインはモダンになったとはいえ、どこからどうみても911にしか見えない。たとえサイズが大きくなっても911は911。それは間違いない。街中を転がしたときに感じる、頑丈な分厚い板の上に載せられてドライブしているようなフラット&ソリッドなライドフィールもまた911に特有のものだ。
けれども速度を上げていくにつれて911らしさが徐々に、そしてごく自然と薄れていったのだ。巌の上に席をくりぬいて収まっているかのような安堵に充ちたライドフィールは、もはやスポーツカーのそれではない。すさまじい安定感である。
Rei.Hashimotoそれゆえ、京都までの高速道路では極上のグランツーリズモとなった。カブリオレでさえだ。景色に応じて変化する道筋を、ほとんど速度をゆるめることなくドライバーの思い通りに駆け抜ける。
乗り手に伝わってくる4輪の接地感は確実だけれどもさりげない。エンジンの存在感は打てば響くがつつましい。乗り心地はといえば芯こそあっても堅苦しさはない。音楽さえ要らない。リラックスしながらずっと運転を楽しんでいられる類の、よくできたGTカーである。
ここでイッパツ攻め込んでやろうか、などという気にも全くならなかった。それが証拠にドライブモードの表示はずっとノーマルのまま。ついぞ京都までスポーツ+はおろかスポーツにさえ切り替えることはなかった。真のグラントゥーリズモとは、そういうものかもしれない。最近の高性能モデルはたいていGT性能に秀でているため、フェラーリやベントレーでも同じような気分になることが多い。ドライブモード選択の存在理由をそろそろ考えるときかも知れない。
Rei.Hashimoto“ブランドイメージ”と“バーチャル性能”だけで売る時代へ
911らしさを新型のダイナミックパフォーマンスに求めようと思っても、公道上では難しい。おそらくサーキットに持ち込めば、911を911として存分に味わうこともできたのであろうが、公道上ではそんな気にもならなかったし、なったとしてもかなり深い非合法領域でのチャレンジになってしまう。
実際、もうそんな時代ではないのだ。高速道路やワインディングロードで高性能なスポーツカーの実力を楽しんだり試したりすることは難しい時代になった。もちろん昔も法律的にはダメだったし、悲惨な事故も少なくなかったけれど、それでもなお、許される隙間が必ずどこかにあった。SNSがその隙間を埋めた。高性能スポーツカーオーナーたちもそれをひしひしと感じている。だからサーキットへ向かう。正しい。
そう考えたとき、この手の高性能ロードカーを生産するブランドは、すさまじいけれども簡単には味わえない性能をもった高額な車両を、“ブランドイメージ(=バッジやデザイン)”と“ビデオ上の性能(=バーチャル性能)”だけで売っていかねばならなくなる。せめて合法的に体験しうるパフォーマンス=GT性能や街中での乗り味、を心地よくユニークなものに、と考えたとしてもおかしくない。否、むしろ当然であろう。サーキット体験などのイベントはその先の話だ。
このことはまた、内燃機関のみに頼らないラグジュアリィカーの魅力の創造へのヒントになりうると、新型992を試乗して思ったのだった。
文・西川 淳 写真・橋本玲 編集・iconic
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みんなのコメント
実際、私はもはや車は不要。
ポルシェ、ベントレー、フェラーリにも乗ったがもう新型は要らない。
ヨットに乗っている方が遥かに楽しい。資金もそこへ。