いよいよ2024年シーズン最後の、そしてタイトルを決する戦いが始まる。決戦の舞台は日本。愛知・岐阜開催3年目のラリージャパンで、数字上もっとも王座に近いのはティエリー・ヌービルとヒョンデ。ヒョンデにとっては2020年以来のマニュファクチャラー王座と、初となるドライバー王座の両方を“敵地”日本で決める千載一遇の好機到来である。
現在、ヌービルは25ポイント差でチームメイトのオット・タナクをリードしている。選手権3位、トヨタのエルフィン・エバンスは40ポイント差の3番手となり、タイトル争いからはすでに脱落。5年連続でトヨタの選手が守り続けてきたドライバー王座の可能性は、最終戦よりも前に潰えてしまった。
ラリージャパン2024が開幕。勝田貴元が新レイアウトのスタジアムステージで3番手発進/WRC日本
タナクに対する25ポイントというヌービルのリードは、非常に大きなものといえる。タナクがフルアタックで土、日を制し、パワーステージも最速で駆け抜け合計30の最大ポイントを獲得したとしても、ヌービルが6ポイントを加算すれば選手権順位は変わらない。計算上、ヌービルは土曜日まで総合6番手以内につけておき、日曜日はただ普通に走り切れば初タイトルを手にすることができる。
さらに、ヌービルはもともとターマックラリーを非常に得意にしているうえ、2022年のラリージャパンでも優勝を飾っている。かなり有利な状況にあることは間違いなく、それは追う立場のタナクも理解している。それもあってかタナクは「多くを望まずただ自分のベストを尽くすのみ」と、ほぼ諦観している様子もあった。
一方、マニュファクチャラー選手権をめぐる戦いは、少々予想が難しい。首位ヒョンデと2番手トヨタの差は15ポイント差であり、こちらもヒョンデが有利であることは確かだが、トヨタが今年の第11戦チリの時のようにワン・ツーフィニッシュを含むパーフェクトゲームを達成すれば、ラリージャパンだけでも合計55ポイントを加算することができる。
今季、トヨタが15ポイントの差を埋めることができたラウンドは、最大値の55ポイントを手にした第11戦ラリー・チリ・ビオビオのみ。そのため、トヨタが逆転王座に輝くためには、今季2度目の大勝を飾らなければならず、その活躍の一端は勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1)も背負うことになる。
そうなると、仮にヒョンデがトヨタに次ぐ最大ポイントを獲得したとしても、トヨタが逆転で4年連続となるチャンピオンに輝くことになる。こうしたトヨタの追い上げをヒョンデが阻むためには、少なくとも誰かが2位以内に食い込まなくてはならない。そう考えれば、ヒョンデも実はそれほど余裕があるわけではなく、ドライバーズ選手権で大量リードを持っているヌービルも5、6位以内を狙うような戦いはさすがにできなくなるのではないだろうか。
なぜなら、勝田貴元を含むトヨタの3人はいずれも優勝を狙えるスピードを備えているからに他ならない。エルフィン・エバンス(トヨタGRヤリス・ラリー1)は昨年のラリージャパンで優勝しており、セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリス・ラリー1)は2位を獲得。
勝田は序盤でクルマにダメージを負ったが、その後は全選手最多となる9本のベストタイムを記録。また、今年10月に行なわれたターマックイベントのWRCセントラル・ヨーロッパ・ラリーでは総合4位に入り、日曜日はスーパーサンデー、パワーステージともに最速だった。
クルマに対してかなり自信を持っているようなので、今年の日本では初優勝も夢ではないだろう。もし勝田が優勝を狙うことができるペースを序盤から発揮し、ミスなく着実にデイを重ねることができたならば、トヨタの逆転王座はかなり現実味を増していくだろう。
ターマックラリーにおいては、基本的には出走順が早いドライバーの方が有利となる。なぜならコーナーのインカット等により路面が泥や砂利で汚れる前に走ることができるからだ。金曜日の出走順はドライバー選手権のランキング順となるため、1番手のヌービルと2番手のタナクに通常はアドバンテージがある。
ただしラリージャパンのステージはインカットできるコーナーが非常に少ないため、そこは大きな差とはならないだろう。むしろ落ち葉、枯れ枝、ダストが多い道では、出走順が早いドライバーたちがラインを刻みながら走ることもあるため、出走順2、3番手のほうが有利になるケースもある。こればかりは、ステージ当日のコンディション次第である。
昨年、トヨタは雨模様の難コンディションのなかで表彰台を独占した。クルマもドライバーも基本的には変わっていない今年も、パフォーマンスが一気に低下するようなことはないだろう。
ただし、この週末は現時点で降雨の可能性が極めて低く、どうやらドライコンディションでの戦いになりそうだ。そうなった時にヒョンデとのパワーバランスがどうなるのかが、ひとつのポイントとなるだろう。
また、昨年GRヤリス・ラリー1ハイブリッドは豊田スタジアムのスーパーSSでタイムが伸び悩み、少なくないタイムを失った。チームとしてもそれをかなり問題視していたようで、今年に向けては豊田スタジアム対策にも力を注いできたと聞く。昨年とは大きくレイアウトが変わった今年のスーパーSSでは、その部分にも注目したい。
ヒョンデとトヨタの戦いのみにフォーカスしてきたが、今大会最初のSS1で最速となったMスポーツ・フォードWRTのアドリアン・フルモー(フォード・プーマ・ラリー1)も、表彰台に立てる力を備えたドライバーだと言える。
チャンピオンシップ争いにまったく関係なく、失うものがないフルモーが、“空気を読まない男”として優勝争いに加わることも、現在の彼の実力を見れば充分あり得る話である。とにもかくも役者があまりにも多く、彼らが激しく覇を競うなかで、今年も思いもよらぬストーリーが紡がれることだろう。
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