巨大企業とは冷めた印象を持たれやすい。ならば日本を代表する巨大企業、トヨタ自動車はどうだろう? かつて豊田章男会長は同社技術部を白い巨塔だと発言した。その「真意と現在」を中嶋裕樹副社長兼CTOに聞いてみたら、予想の100倍くらいのド直球が返ってきた!
文:山本シンヤ/写真:山本シンヤ、トヨタ、ベストカーWeb編集部
トヨタ自動車技術部は「白い巨塔」? 中嶋副社長に聞いてみたら本音すぎる答えが返ってきた!!
【画像ギャラリー】中嶋裕樹副社長が開発責任者を務めたiQをじっくり見て!(18枚)
良い悪いの議論以前に「会話が通じない」
豊田章男会長は、かつて技術部との意思疎通に悩んだという
豊田章男氏がマスタードライバーの成瀬弘氏から運転訓練を受けた話はさまざまな記事で目にしていると思う。その理由の一つは、技術屋ではない豊田氏が技術部と「クルマの話」をするためだった。しかし、実際は……。豊田氏は当時を振り返る。
「以前、私のアルファードを成瀬さんに改良してもらいました。実際に号口(量産モデル)と乗り比べると走りが明らかに違う。技術部に『乗ってみてよ』と伝えると、『データでは変わりませんので』と断られました。『いやいや、乗ればわかるから』と言っても彼らは一向に『データでは変わりません』の繰り返し……。恐らく、私が“感性”で話をしているのに、技術部はそこは無視して“理屈”で返してくる。この時、良い悪いの議論をする以前に、そもそも『会話が通じない』と思いました」。
そんなことから、豊田氏は技術部のことを「白い巨塔」と呼ぶ。白い巨塔とは故・山崎豊子の小説のタイトルで、大学病院の“権力闘争”と“腐敗”を描いたモノだ。豊田氏にはそれに似た感覚があったのだろう。その距離感はモータースポーツを起点としたもっといいクルマづくりにより徐々に縮まっているように感じるが、今もちょいちょいキーワードとして出てくる(笑)。そこで現在の白い巨塔のトップである中嶋裕樹副社長兼CTOにド直球で聞いてみた。
副社長に反論すると逆に睨まれる(笑)
ル・マン24時間レースのパドックで撮影に応じるトヨタ自動車の中嶋裕樹副社長兼CTO(右端)
中嶋氏はこれまで様々なモデルの開発を担当してきたが、そもそも白い巨塔を意識したことはあるのだろうか?
「恐らく“無意識”のうちですね。僕が入社した時は副社長がたくさんいました。当時は機能軸の組織でしたので、生産技術の時も技術部の時も、トップは社長ではなく『その担当の副社長』と言う感覚はありました。と言っても、僕が直接話をするわけではなく、その下にいる専務や常務、そして部長などが、とにかく副社長を見ているのは解りました」
若きエンジニア時代の中嶋氏が「これはちょっと?」と言うことはあったのだろうか?
「あるクルマのレビューで副社長が現場視察する時に駆り出された時、僕が『●●と考えています』と言っても、副社長が『こうだよね』と言った時に反論すると逆に睨まれる(笑)。その時は『あっ、言いたいことを言っちゃいけないんだ』と。ただ、その時は当時の自分が未熟で間違っていて、『副社長が正しい判断をしているんだ』と思っていました。ただ、自分がそれなりの立場になった時、疑問に思うようになったのも事実です」
中嶋氏がチーフエンジニア(CE)として開発を任されたモデルは、2008年に登場した「iQ」である。3mを切る全長で4人乗りのパッケージを成り立たせた革新的モデルだった。
「トヨタとしてはかなりチャレンジングなクルマだったので、応援する人ばかりではなく足元をすくおうとする人もいたのも事実です。クルマは技術部だけでは世に出せませんので、他の領域にも話をする必要があります。各領域の副社長が直接会話をして決めてくれれば一発なのに、当時はまさに伝言ゲーム……。話は途中でズレて本質は伝わらず、最後は両方から『中嶋、お前は何を考えているんだ』と怒られるだけならまだしも、クルマ自体も否定され……。正直『やってられるか』と思うことも何度かありました」。
副社長の中で唯一違ったのが、章男さんでした
東京オートサロン2024のモリゾウの愛車として紹介されたiQ GRMN。iQは中嶋副社長が手がけた1台だけに2人の縁を感じさせる
CEはトヨタでは「製品の社長」と呼ばれるが、実はそうではなかったと言うこと?
「結果として自分の思い通りにクルマを開発することができましたが、副社長が出る会議でOKが出ないとGOがでないので、各々に“根回し”をしなければならないわけです。全部を抑えて『完璧!!』と思っていても、会議でひっくり返されてしまうことも……。言葉を選ばずに言えば『裏切られた感満載』ですね」
要するに、当時のトヨタはユーザーではなく、副社長に向けたクルマづくりをしていた……と言うことになる。
「それぞれの領域の目標あり、それを到達したら副社長が喜ぶと言う流れでした。僕らは『こんなお客さんにクルマ届けたい!!』と言う話は聞いてはもらえるものの、意思決定には何も使われていなかった。言葉を濁さずに言えば『何がお客様第一だ!!』と言うのが、『右肩上がりの10年』と呼ばれた2000年前半代のクルマづくりでした」。
その結果、一人のトップ(=副社長)に対してNoと言えない組織になってしまったのだろう。となると、ネゴシエーションが上手な人、自分のボスに対する忠誠心が強い人が偉くなっていく構図が見える。中嶋氏はどうだったのだろうか?
「僕は『出世したくなかった?』と言ったら嘘になりますが、その理由は『自分の思い通りのクルマ作り』や『自分の思い通りの組織にしたい』と言う想いが強かった。なので、現状を否定することは他の人より多く、恐らく上からすれば可愛くない部下だったと思います。ただ、副社長の中で唯一違ったのが、章男さんでした」。
ポリシーを曲げない人もたくさんいた
ウーブン・シティ竣工式での一コマ
章男さんとの出会いはいつだったのだろうか? 何となく昔から繋がりがあったように感じるが……。
「iQのチーフエンジニアの時代です。開発初期に国内営業が『こんなの売れない』と猛反対されました。そんな中、章男さんがフラっとやって来て『乗せてほしい』と。一通り説明をして本社のテストコースで乗ってもらいました。何も喋らずにずっと走っていましたが、試乗後に僕の名札を見て、『君、中嶋君っていうの? えーもんを作ったものが勝ちだぞ』と一言だけ……。その後確実に変わったのは、国内営業がこのプロジェクトに対して前向きになったことでした」
ちなみに中嶋氏は章男さんに“あの時の話”の答えは聞いていないのだろうか?
「聞けませんよ(笑)。ただ、他の話の時に『技術屋は内部の抗争や上の意見など気にせず、とにかく技術で勝負しろ。』と言っていたので、僕はエールだったと信じています。その後、章男さんは役員の数を減らし、普通に“会話”できる環境にしてくれましたが、それでもまだ機能軸は残っています。僕もまだ『白い巨塔』だと思っています」
中嶋氏は今、技術のトップと言う役割である。若い時に嫌な経験/苦労をたくさんしてきたからこそ、白い巨塔を“壊したい”と思う所はあるのだろうか?
「実はとても悩ましい所ですね。現在AISIN社長の吉田(守孝)さんがCE時代に僕は新車進行管理部にいましたが、その時に何度かケンカをしたことがあります。その内容は今振り返ると結構ムチャクチャでしたが、その一方で『この人、上司の言うこと聞かないんだ』と。中には副社長の指示に対して『御意』と飲んでポリシーを曲げる人もたくさんいましたが、それでもポリシーを曲げない人もたくさんいたと言う事実です」
「僕はそれは白い巨塔のいい部分だと思っています。僕が今一番嫌なのは、何か相談を受けて『こうやったらどう?』、『僕だったらこうするよね』みたいなアイディアを伝えたのに、後日現場行くと『副社長命令』になってること。『コイツはきっと僕の名前を使って仕事を徹底させるため使っている、これはマズイ』と。逆に僕の言ったことに対して、できあがったクルマが全然違うと『馬鹿野郎!!』と思いながらも、どこかで苦笑いしながら『コイツも大人になったな』とホッとしている自分がいます」
TGR-E with White Tower?
中嶋副社長はTOYOTA GAZOO Racing Europeの会長も務める(右端)。左隣は中嶋一貴TGR-E副会長
ちなみに中嶋氏はTGR-E(TOYOTA GAZOO Racing Europe)の会長も務める。章男氏は「WECチームはトヨタの会長/社長は存在するけど、モリゾウは存在しないチーム」と語るが、その辺りの想いは?
「かつては『GRの名を外してトヨタレーシングにしろ!!』とまで言われたこともあります。個人的には『TGR-E with White Tower』くらいトコトンやったほうがいいくらいと思う所もあります」
「ROOKIE Racingはゼロから1にする役目ならば、僕らは1から100にする役目。結果的にシームレスに繋がっていますので、愚直に頑張ればいいだけの話。それを変に『モリゾウさん中心の』、『モリゾウ軸』とおべっかみたいなことを軽々しく言うことがダメだと思っています」
「それなら、むしろ『中嶋が会長になりましたから』と堂々と離れればいい。僕なんか会長に怒られてばかりですが、そういう時は『じゃあ、教えてください』と改めて行き話をすると、別になんてことないことばかりです。怒られたからコソコソ陰で進めたり、話を先送りすることのほうがダメです」
白い巨塔=トヨタの開発文化?
白い巨塔はトヨタの開発文化でもあると語る
ちなみに章男氏は白い巨塔と揶揄するが、「やめろ」「解体しろ」と聞いたことはない。
「昔ほどはありませんが、今も白い巨塔であることは紛れもない事実です。ただ、僕は『白い巨塔=トヨタの開発文化』だと思う部分もあるので、それを守る必要もあると認識しています。よいところは残す。悪いところは変えるのが『今の白い巨塔』です」
「恐らく会長も白い巨塔の良い部分/悪い部分は理解していると思います。会長にも『思ってもいないのに、白い巨塔の番頭のような形で“御意”なんて言っていたら、周りは本当信用しなくなるよ。たまには無視したり、違いませんか……と言ってる姿見せた方が信用される』と言われるので、少しずつ実践しています(笑)」
例えば、4つのバリエーションを用意した16代目クラウン、コモディディより愛車を選んだ5代目プリウスなどは、その一例だろう。
「アドバイスを聞いて『おっ、これイケるな』と思ったらパクりますし、『これは合わないな』と思ったら右から左に流します。ただ、間違いなく僕らよりも色々な経験をしていますのでしっかり聞きます」
「ただ、聞くのと取り入れるはまったく別なので。そこに技術屋としてのトヨタらしい“魂”はあってもいいと僕は考えています 残念ながらそこは今は脆弱なので、もっと鍛え直したい所ですね。個人的には『白い巨塔の何が悪い?』と開き直ってもいいくらいだと思っています」
中嶋副社長、真摯かつ率直なご回答、ありがとうございました。
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