アストンマーティンは今年9月、ロンドンのメイフェアに同社初となるヘリテージ・ショールームをオープンした。場所はドーバーストリート8番地。同社が約2年前にオープンした「アストンマーティン・ブランド・エクスペリエンス・センター」内である。つまり同社のブランドを体験してもらうための施設内に開設したわけだ。
メイフェアは約300年も続くロンドンの高級住宅街であり、王室御用達の香水店や帽子店、テーラーといった数々の伝統あるショップが軒を連ねるエリア。アストンマーティン・ブランド・エクスペリエンス・センターの看板には、100年を超える歴史を記念して「Aston Martin Est 1913」と刻まれているが、メンフィアにはそれよりも歴史のある店も、逆に最先端のファッションショップもあり、ビジネスや観光でロンドンへ来たアストンマーティンのオーナーなら、ついでに寄りたくなるような立地だ。
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アストンマーティン・ブランド・エクスペリエンス・センターでは壁面にロンドンを拠点に活躍するアーティストが制作した作品が飾られ、ハケット・ロンドン、マーマ・ロンドン、クインテッセンス・ヨットといったアストンマーティン・パートナーの製品が置かれ、デザインレッスンや美術展といった芸術に関するイベントが頻繁に開かれている。ここへ同社のヘリテージカー・オーナーは訪れ、愛車の修理の相談を行うことになる。
実際の修理やレストアは、アストンマーティンの黄金期を支えたロンドンの郊外、ニューポート・パグネルにある専門工場で行われる。既に同工場ではDB4 G.T. コンティニュエーションが25台限定で復刻され、25台のGoldfinger DB5 コンティニュエーションが作業を待っているという。
第2次世界大戦後に操業したニューポート・パグネルの工場では、2003年に本社がゲイドンに移転されるまでの約50年間、DB2/4からヴァンキッシュまで数々のアストンマーティンのモデルを製作してきた。本社の移転後は同社のヒストリックカーの販売・サービス・レストアを手がけるアストンマーティン・ワークスの拠点となり、熟練工たちが英国独自の伝統的な工作機械や最先端の技術を用いて同社のクラッシックモデルをレストアしている。
復刻したDB4 G.T. コンティニュエーションは、エンジン性能やハンドリング、ブレーキ性能、安全装備など改善すべき点は改善した一方、オリジナルがもつ独特のドライブフィールやキャラクターはそのまま残された。また車名の「コンティニュエーション(Continuation=継続)」が示すように、車両認識番号はオリジナルDB4 G.T.の最後の生産モデルに続く形で刻印されている。実はDB4 G.T.の最初の生産目標台数は100台だったのだという。それが諸事情から75台でストップしたままだった。つまり今回ようやく残りの25台を生産したということになる。
今年8月に復刻が決まったGoldfinger DB5 コンティニュエーションは、その名が示すようにショーン・コネリー主演の映画『007 ゴールドフィンガー』でアストンマーティンの名を世界中に広めた「ボンドカー」のDB5だ。ボンドカーの、と敢えて書いたのは、実際この復刻プロジェクトが同映画の権利を持つイオン・プロダクションとのコラボレーションで実現したモデルだからだ。そのため同車には、1985年『美しき獲物たち』から2012年『スカイフォール』までの007シリーズで特殊効果を担当したクリス・コーボールド氏が参加。回転式ナンバープレートまで再現する(そのため公道では走れない)。
ドーバーストリート8番地では、回転式ナンバープレートまで受けることはないだろうが、オリジナルにこだわりつつも、顧客の要望にできるだけ応えるという。基本はオリジナルに戻すこと。それはDB4 G.T. コンティニュエーションで示したように、オリジナルに忠実に、しかし改善すべき点は改善して戻すということだ。加えて、例えばオートマではなくマニュアルトランスミッションにしたいなどのリクエストに応じるという。
約50年間でニューポート・パグネルの工場からデリバリーされたアストンマーティンは約1万3000台。世界中に出かけていったこの約1万3000台の訪問を、奇しくもジェームズ・ボンドシリーズを書いた作家、イアン・フレミングの生まれたメイフェアで今度は待つことになる。
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