SDV時代へ向けた開発基盤の整備
日本の自動車産業が長年強みとしてきた高品質は、日本車への厚い信頼を生み、世界市場での競争力を支えてきた。一方で、電動化やソフトウェア定義車両(SDV)への移行が進むにつれ、競争の軸は従来のハードウェア性能だけでなく、ソフトウェアやAI、データの活用にも広がっている。
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車は納車時の完成度だけでなく、購入後もソフトウェア更新によって機能が高まるものへと変わり、顧客が求める価値も変化している。こうした市場の変化を受け、メーカーの開発現場では、限られた人材や資金をどの分野に振り向けるかが大きな課題となっている。
そのなかで、品質の基準や部品の仕様を見直し、開発の効率を高める取り組みが業界全体で広がっている。自動車関連の団体は、自動車部品におけるあいまいな品質基準を適正化するスマート・スタンダード・アクティビティー(SSA)活動を進めている。目的は、過剰な品質要求や、それにともなう検査の負担を減らすことだ。
目指しているのは品質を下げることではなく、安全性の向上や新たな顧客価値につながる分野へ資源を振り向けることである。業界全体の課題は、日本メーカーを支えてきたものづくりの強みを維持しながら、SDV時代に対応した開発環境をどのように整えるかにある。
本稿では、自動車業界が進めるSSA活動を通じて、産業全体で進むSDV時代の開発基盤づくりを追う。
日本品質を支えた仕組みの転換
日本の自動車産業が誇る高い信頼性と耐久性は、長年にわたり世界市場での成長を支えてきた。
世界の新車販売において、日本車は20年以上にわたり首位を維持してきたが、2025年には中国車にその座を譲った。その競争力を支えてきたのが、徹底した品質へのこだわりである。現在の市場では、これまで築いてきた高い技術力や品質管理の仕組みを生かしながら、変化する顧客の要望にどう応えるかが問われている。
これまでの製造現場では、細かな部分まで高い水準を求めるあまり、機能や安全性に影響しない小さな傷や汚れまで不良と判断されることがあった。自動車部品は数万点に及び、ピラミッド型の多層的な供給網によって成り立っている。長年の取引のなかで暗黙の了解となった基準や、発注者への忖度の壁があり、部品メーカーから仕様の見直しを相談しにくい状況も残っていた。
さらに、納入先のメーカーごとに異なる品質基準(二重基準)が存在し、過剰な検査や廃棄が発生することで、製造原価を押し上げ、良品率を下げる要因にもなっていた。現場で培われた妥協のないものづくりの姿勢や誇りは、大切な財産である。その技術や姿勢を生かしながら、機能や安全性に基づく適切な評価基準を整えることで、開発や生産の体制を見直し、部品メーカーを含む供給網全体の負担を減らす動きが進んでいる。
日本自動車工業会(自工会)と日本自動車部品工業会(部工会)は、部品の不良判定に関する指針を改訂すると明らかにした。メーカー各社の品質管理の基準を適正にする指針の対象を広げ、業界全体で効率的な車づくりにつなげる狙いである。
自動車メーカーと部品メーカー各社が共通で使う外観基準ガイドラインを2026年4月にまとめ、2026年8月の改訂では新たにワイパーやランプなどを追加する。製造現場でごく小さな汚れを理由に廃棄されるような事例を防ぐため、各社で指針を共有し、過剰な検査や廃棄の削減を進める。
これまでの指針はワイヤーハーネスや外装などが対象だったが、改訂版ではハンドルやシートなども対象に加わる。今後も改訂を重ね、将来的にはパワートレインなどを含め、対象部品は100項目を超える見通しである。
こうした取り組みの背景には、電動化やSDVの進展によって、これまでとは異なる分野への投資が求められている状況がある。これまで成果を上げてきた品質への資源配分を市場の変化に合わせて見直し、新たな価値を生み出す分野へ広げていく段階に入っている。
品質を守ることと効率を高めることを対立させるのではなく、人材や資金をどの分野に振り向けるかを考える取り組みが広がっている。
SSAが目指す部品基準の共通化
国内の自動車メーカーが協力し、仕入れ先の部品における過剰な検査や廃棄を減らす取り組みが進んでいる。2025年から年2回のペースで大型車や二輪車を含む全14社が集まり、仕入れ先から提案された部品品質の適正な基準について、その場で判断する合同即断即決会を開いている。
2025年6月の会合には自工会の会員企業が集まり、部品メーカーが提案した品質基準について判断を下した。ゴム部品や配線、ワイパーなどを実際に手に取りながら、さまざまな意見が交わされた。2026年7月に開かれた3回目の会合には約100社の部品メーカーが参加しており、今後も年2回のペースで会合を開き、対象となる部品を広げていく方針である。
自動車メーカーが示す仕様に部品メーカーが合わせるという従来のピラミッド型の関係から、部品メーカー自らが適切な基準を提案し、メーカーの枠を超えて業界全体で合意をつくる協力型の関係への変化が見えている。部品の品質基準を適正にするとともに、納入先ごとに異なる基準に対応する二重基準をなくすことで、供給網全体の負担を減らし、総合的な競争力を高める動きとなっている。
この取り組みの中心となるのが、消費者の期待や安全性に基づいて基準を適正にするSSA活動である。過度な検査や廃棄を減らし、生産工程を見直すことで、競争力を高めるための資金を生み出すことを目的としている。
2017年末からトヨタ自動車が先行して取り組んでおり、配線の接続部品を見直した事例では、機能に影響しない見た目の基準を変更した結果、検査工程を半減させ、大量の廃棄ロスを減らし、良品率を大きく高めた。
しかし、部品メーカーは納入先ごとに異なる品質基準への対応が必要だったため、個別企業の取り組みにとどまらない業界全体での取り組みが求められていた。トヨタ単独では効果に限りがあるという課題に対応するため、2022年4月から完成車メーカー同士の連携が始まった。
さらに2025年4月からは、自工会と部工会が協力して作業部会を立ち上げ、企業間で競争の対象にならない領域を中心に標準化を進めている。2026年3月には両団体がSSA推進宣言をまとめ、業界全体で取り組む活動へと広がった。
この活動を通じて部品メーカーの業務負担を抑え、開発の効率を高める動きが進んでいる。産業全体の基盤を強くし、ものづくりに関わる資源を将来に向けて有効に活用する取り組みでもある。
なお、SSAによってすべての基準が一律に統一されるわけではない。安全性や性能に関わる領域と、見た目や仕様を調整できる領域では、求められる役割が異なる。そのため、主に見た目や管理方法などへの影響が限られる領域を中心に標準化が進められる。
標準化は品質の低下を意味するものではない。安全に関わる条件は確実に守りながら、過度に厳しい基準を適正な水準へ見直す取り組みとして定着しつつある。
生まれた余力のSDV開発への配分
SSAの目的は、効率化だけではなく、次世代技術への投資に向けた余力を生み出すことにある。自動車産業が直面するSDV時代では、車両の性能に加えて、ソフトウェアやAIを活用した自動運転支援などの機能開発が競争の中心となっている。そのため、自動車メーカーや部品メーカーには、先進的な運転支援システム(ADAS)や電動化技術、ソフトウェア開発への継続的な投資が求められている。
SSAによってハードウェア領域で過剰になっていた負担を適正化し、そこで生まれた人材や資金、時間を次世代分野へ振り向ける動きが加速している。
特に、中国メーカーによるチャイナ・スピードと呼ばれる短期間での開発や、ソフトウェア分野への大規模な投資が進むなか、日本メーカー各社も新たな価値づくりへの対応を進めている。
SDVの普及にともない、自動車ビジネスは従来の売り切り型から、無線通信によるソフトウェア更新やサービス提供を通じて継続的に収益を得る形へと変化している。新車購入後も機能を向上させ、車が使われる期間を通じて価値を提供し続ける事業モデルへの移行が進んでいる。
そうしたなか、トヨタは長年築いてきた世界で約1.5億台の保有車両を基盤とする事業を積極的に進めている。新車販売に加え、金融や延長保証、機能の追加や更新といった分野で営業利益を年1500億円のペースで積み上げ、2026年3月期には2兆円を超えた。
SDVもこの流れの中にあり、運転支援システムの追加や更新、個人の運転の特徴に合わせたソフトウェア調整などが計画されている。
世界を走る1.5億台のトヨタ車は、ソフトウェアを通じて顧客とのつながりを保つ基盤として大きな意味を持つ。日本車がこれまで世界で築いてきたハードウェアへの信頼と顧客基盤は、新たに成長する電気自動車(EV)メーカーに対抗する収益基盤にもなる。
車の平均使用年数が15~20年に及ぶなか、長年積み重ねてきた保有台数は、新車販売後も顧客との関係を維持し続ける新たな収益源として活用の幅を広げている。ハードウェア領域で生まれた余力を新たな分野へ振り向ける変化が、業界全体で進んでいる。
世界競争の変化と日本メーカーの対応
業界全体でSSAが進められる背景には、世界規模で競争環境が変化していることがある。特に日本メーカーを取り巻く市場環境は複雑になっており、技術革新が進むなかで競争の中心はハードウェアからソフトウェアへと広がっている。
中国メーカーは価格の安さに加え、短期間で製品を市場に投入する開発の速さや、高度なソフトウェアへの対応力など、複数の強みを組み合わせて海外市場で存在感を高めている。企業別の世界新車販売でも、比亜迪(BYD)や浙江吉利控股集団が日産やホンダの販売台数を上回るなど、自動車業界の勢力図は変化している。
欧州の自動車市場では、2026年5月に中国メーカーの乗用車販売台数が日本メーカーを上回った。欧州の主要31か国では、BYD、上海汽車、吉利汽車、奇瑞汽車、そして零●汽車(●はあしへんに包、リープモーター)の5社が前年同月比65%増となる13万8410台を販売した。
一方、トヨタ、日産、スズキ、マツダ、ホンダ、三菱自動車の6社合計は3%減の13万424台となり、中国勢の販売台数が日本勢を6%上回る結果となった。
また、東南アジア市場でも構図の変化が進んでいる。2025年の新車販売は、インドネシアをはじめとする主要6か国のすべてで前年を下回った。日本メーカーの年間販売台数は227万台となり、2019年と比べて22%減少している。
手頃な価格帯のEVに強みを持つ中国勢や現地の新興メーカーが成長し、消費者の選択肢が広がることで、市場の競争はより複雑になっている。
こうした環境の変化に対し、日本メーカーは品質という従来の強みを保ちながら、新たな分野への対応を進めている。中国市場では、現地企業との連携や協業を積極的に進める事例が増えている。
これは現地企業の開発スピードやデジタル技術、供給網の強みを柔軟に取り入れ、現地の需要に合わせようとする取り組みである。競争の軸が広がるなか、日本メーカーは自らの強みを生かせる領域を見極め、開発資源の配分を変えながら、次の成長に向けた基盤づくりを進めている。
品質と効率化を両立する次世代基盤
SSAを通じた取り組みは、今後の日本の自動車産業における開発体制の方向性に大きく関わる。業界全体で品質の維持と開発の効率化を両立する仕組みづくりが進むなか、標準化の範囲や実行の速さ、さらにソフトウェア分野に対応できる人材の育成や確保など、今後に向けた課題の検討も続いている。
標準化によって生まれた余力を新たな技術分野へ振り向ける動きが広がるなかで、何を守り、何を変えるのかという経営判断の重要性が高まっている。
この取り組みは、日本企業が大切にしてきた品質を損なうものではなく、価値を生み出す新たな分野へ資源の配分を移すものとして位置づけられる。部品の基準を見直すことは、手順書の改訂にとどまらず、ソフトウェアを重視する開発体制に対応するための組織文化の変化や、人材配置の見直しとも連動している。
自動車産業の競争の軸が変わるなかで進む開発基盤の見直しは、産業全体の仕組みを現在の環境に合わせ、新たな価値を提供するための土台づくりとして進められている。変化への対応は着実に進んでおり、業界全体で取り組む意識の変化と行動の積み重ねが、次世代に向けた競争力につながっていく。(三國朋樹(モータージャーナリスト))
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みんなのコメント
以前飛び込みの営業マンが部品を持ってきて
これと同じのを作ってくれ、と言ってきたらしい
図面くらい持ってこいよ、と思いつつも
現物を測定して加工して渡したら翌日に
血相を変えて怒鳴り込んできた
真円度が0.006ミリPCDが0.03ミリも狂ってる
これじゃ使い物になりません!!と言う
どうも3次元測定器にかけたらしい
でも聞いたら入るピンは市販品のh7
通すM6ボルトの相手は8ミリのバカ穴
呆れた社長が相手先の社長に電話したそうだ
二度とこんなクソボケをよこすなドアホ、と