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日本の「へき地医療」は崩壊寸前? 無医地帯は557地区、医師の低診療報酬が阻む「医療MaaS」の実態とは

掲載 更新 16
日本の「へき地医療」は崩壊寸前? 無医地帯は557地区、医師の低診療報酬が阻む「医療MaaS」の実態とは

へき地医療の交通弱者増加

 日本国内には医療アクセスが困難な「へき地」が多く存在する。これらの地域では公共交通が乏しく、慢性疾患の重症化や医療費の増大など多様な問題を抱えている。そのため、都道府県や市町村が中心となり、医療機関や企業、地域住民と連携し、へき地医療の課題解決を目指すことが求められている。

【画像】「えぇぇぇ?」 これが医療MaaSの「イメージ」です! 画像で見る(計3枚)

 医療確保が難しい過疎地や離島などのへき地では、持続可能な医療体制の構築が急務である。独居老人や高齢者のみの世帯が多く、

・公共交通の廃線
・高齢者の免許返納、経済的負担

により交通弱者が多数存在している。その結果、一部地域の住民は医療機関の受診機会が少なくなっている。

 また、へき地診療所は医療サービスを担う必要があるが、病床数は少なく、常勤医師はほとんどが0~ひとりで運営されている。常勤医師は外来診療に加え、訪問診療や往診、看取りなど多岐にわたる業務を担当している。診療所と訪問先間の移動効率の悪さも課題となっている。

 さらに、へき地診療所だけで医療を完結させることは難しく、緊急時にはドクターヘリを使い地域の中核病院への搬送が必要になる。

財源不足が招く医療危機

 2022年7月末時点で厚生労働省が公表した医療機関のない無医地区数は557地区だった。1984(昭和59)年の1276地区から長期的に減少傾向にある。これは地方自治体によるへき地診療所の設置数増加や、一部の無医地区が知事により準無医地区に認定されたことが要因と考えられる。

 これにともない、へき地医療の需要は急速に増加している。一方で、少人数体制の過酷な労働環境や不便な生活環境が医療従事者の確保を難しくしている。

 診療報酬は全国一律であるが、財源が限られた診療所では医療従事者の待遇改善や設備投資が困難だ。さらに生産年齢人口の減少による税収減で診療報酬は今後も減少する見込みである。財源不足は医療サービスの維持を難しくし、倒産や解散に至るケースも存在する。

 また、医薬品は使用頻度に応じて常備薬の種類や数量が制限されている。物流インフラの不足や供給チェーンの複雑化が、安定供給を妨げていると考えられる。

 地方自治体の施策は一定の成果を上げているが、その一方で多くの課題が浮き彫りになっている。地域ごとの医療レベル格差は深刻化しているといわざるを得ない。

診療看護師活用による質向上

 こうした地域で医療MaaSの提供が相次いで始まっている。医療MaaSとは、移動診療車を用い、

「遠隔地からオンライン診察や診断を行うサービス」

である。移動診療車には聴診器や超音波診断装置、オンライン診療システムが搭載されている。訪問看護師が現地へ出向き、遠隔地の医師からオンラインで指示を受けながら医療サービスを提供する。さらに、オンライン診療を受けた患者にはオンラインで服薬指導を行い、ドローンや薬局の配送員が医薬品を届ける地域も存在する。

 今後は、医師と連携して一部医療行為を担う診療看護師が乗車することで、現地でのタスクシフトが可能となり、医療サービスの質向上が期待される。

 地域医療においては、住民同士が支え合う自助・互助機能の強化や医療従事者の育成が重要だ。地域特性に応じた取り組みを実施し、住民の主体性を引き出すことが求められている。

 また、医療・介護・福祉の各分野に関わる機関や専門家が連携して患者を支援する多職種連携も不可欠だ。これにより、医療や介護サービスの効率化とともに、地域住民の生活の質(QOL)向上が期待される。

 こうした動きを背景に、岐阜医療科学大学(関市)は医療MaaS対応の医療従事者育成を目指し、移動診療車を導入した。医療専門職間の連携強化や、オンライン診療・検診など多様な事例に対応できる実践的な教育プログラムを展開している。

診療報酬改定が直撃する医療MaaS

 へき地で医療MaaSを提供することで、地域住民は医療サービスの受診や通院にかかる負担を大幅に軽減できる。加えて、医療従事者の労働環境改善にも寄与し、省人化や業務効率化が期待される。これにより、人材育成や医療資源の最適化も可能となる。

 しかし、「令和6年度診療報酬改定」では、オンライン診療の診療点数が対面診療より低い。さらに、地域包括診療料や認知症地域包括診療料、生活習慣病管理料は算定対象外だ。加えて、人件費や運用費の負担が大きいため、医療MaaSを継続するには国や地方自治体の支援が不可欠である。通信環境の安定化や、常備薬の在庫・配送調整も地域特性に応じて求められる。

 医療MaaSは国や地方自治体の財源に依存している。岐阜県は2020年度から、拠点病院と診療所をつなぐ移動診療車に補助金制度を導入した。必要な通信機器の購入費や看護師派遣費用を全面的に支援しているため、県内各地で医療MaaSの提供が活発化している。

 一方、資金力のある民間病院や自治体の支援がない地域では、運用が困難となりサービス撤廃の傾向も見られる。これに対し国は医療MaaS推進のため新たに交付金制度を設けている。

 医療MaaSの導入には多くのメリットがある。公共交通の維持負担が重い地域では交通網の簡略化が可能だ。地域の拠点病院へ乗り換えなしでアクセスできるようバス路線を最適化する実証実験も進んでいる。さらに、移動診療車は災害時の緊急対応や被災地派遣にも活用が見込まれている。

オンライン診療の報酬課題と改革動向

 へき地は医療アクセスが困難で、交通弱者が多い地域である。持続的なへき地医療を実現するには、自治体や医療機関が連携し、限られた医療資源を効率的に活用する必要がある。

 そのためには、医療MaaSを提供できる体制の整備が重要だ。患者は通院せずに診療を受けられ、医療従事者は訪問診療の移動時間を削減できる。しかし、医療MaaSのオンライン診療は診療点数が低く、人件費や運用費の負担も大きい。医療従事者にとってはデメリットが目立つ状況だ。国には診療報酬改定や交付金の充実、法整備などの対応が求められている。

 医療MaaSの安定提供が可能になれば、持続可能な地域医療体制の構築につながるだろう。(光橋新(ライター))

文:Merkmal 光橋新(ライター)

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みんなのコメント

16件
  • kai********
    政府も住民も医者をなめすぎ!
    諸外国、特にアメリカ圏よりとんでもなく安い給与でこき使い、医師法を改正しないものだから責任だけは諸外国並みの訴訟。
    田舎でわざわざ働くのはどこかいかれた医者以外にないよ。
  • やふたろう
    根本の問題として、衰退するだけの限界集落の面倒を、どこまで見るかって話でしょう。
    何をするにしても、したところで未来なんて無い。老衰する地方を看取るだけ。そのために、金と人をどこまで使うのか。そういう話。だから、正直どうでもいい。それはつまり、10年もすれば勝手に片がつくということでもあるんだから。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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