新たな視点と発想で、まだ見ぬ世界を創造する人々を讃える「GQ クリエイティビティ・アワード」。4回目を迎える今年は、ジャンルに縛られることなくクリエイティブの力で境界を軽やかに横断する才能にフォーカスした。見えないものに形を与え、生き物が生き続ける世界を創り出す米澤柊のクリエイションの原点について尋ねた。
アニメーションはすべての生きものを生かすことができる
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「オバケ」という名のアニメーションの技法があることをご存じだろうか。一般的には速い動きや躍動感を表現するために、動き始めと終わりのフレームの間に描き足される残像表現のことを指す。アニメが動くと、ほぼ目に見えないものだが、名前と相反してキャラクターを生き生きと見せるには大事なフレームとなる。米澤の作品は、その消えゆく瞬間に着目した。
2021年に多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コースを卒業した翌年、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]による「エマージェンシーズ!」にて個展を開催。ビデオや2D作品、インスタレーションなどマルチメディアを用いた多彩な表現で精力的に作品を発表し続け、2023年には、PARCO MUSEUM TOKYOで初の大規模個展『ハッピーバース』を開催し、2025年には、LVMH メティエ ダール 第9回「アーティスト・イン・レジデンス」に選出。国内外から注目される若手作家のひとりとして、頭角を現してきている。
アニメーション自体に興味を持ったきっかけは意外にも「中学生の時に観た『アナと雪の女王』」だという。
「話題になっていた映画だったので、何気なく観に行ったのですが、氷の城を作るシーンにすごく感動したんです。私もこういうアニメが作れるようになりたいと純粋に思ったことを覚えています。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』も記憶に残りました。『:序』はセル画を基に再構築した作品だったのですが、『:破』では、CGカットのボリュームが2倍に増え、ライティングや撮影など細部まですごく綺麗で圧倒されました」
さらに、同時期に触れていたニコニコ動画やボカロのMVなど個人制作のアニメの影響も大きい。
「それまでは観て感動していたのですが、ニコ動などをきっかけに実際に自分も描いてみようと思いました。振り返れば、手描き作画にはその頃から強く惹かれていたんだと思います」
そこで筆を取ったのが、画用紙でもパソコンでもなく、電子辞書のメモ機能。当時パラパラ漫画を簡単に作れることで知られていた、ニンテンドーDSi『うごくメモ帳』に憧れたなかでの代用品だった。授業中にこっそり絵を描く日々。進路として、アニメーションを扱う職業を考えることは自然だったが、他に「水族館の飼育員」になることも真剣に考えていたという。ではなぜ美術を専攻したのだろうか?
「絵なら、興味のあるものすべてに触れられるのではないかと思ったんです。実はアニメーションそのものに興味があったというよりも『生きものが生きてほしい』という想いの方が大きかった。アニメーションなら、さまざまな生物や生物未満のものも動かして、生きさせることができるんじゃないかと考えた結果でした」
大学入学後、授業で何百枚も描いたフレームが動き出した時に「生きている」と感じた感動は、いまでも強く覚えているという。そしてその瞬間こそが「オバケ」との出合いに繋がった。
「描いたものを単なる映像ではなく、生きたアニメーションとして私たちがいる空間に引きずり込むにはどうしたらいいのか考えるようになりました。そこから実践を重ねるなかで、まるで生きているかのように見せる行為そのもの、さらには『生きている』とはどういうことなのかという問いを探求するようになりました」
見えなかったものを見えるようにするため「オバケ」を用いてアニマを象る大学3年生の時に発表したインスタレーション《Swimmers》は、まさにその疑問を形にした初期作品である。
「手描きアニメーションのキャラクター性をもった、白いもちのような形の生きものが、生簀に見立てたディスプレイの中を泳ぐインスタレーションです。壁掛けのディスプレイの前には、集魚灯として蛍光灯を設置。そこに群がる白いもちのようなアニメーションたちは、自動的に動いているにしても、現実世界と融合して、生きものを見ているような感覚が作り出せました」
その後の作品でも、ゲームエンジンを生簀に見立て、リアルタイムレンダリングで生命を与える試みを継続。そうした作品制作を繰り返していた時期に、大学教授との会話で「生きている存在とは死ぬ存在である」という話に触れた。それが直接的な契機となり、存在していない=死んでいると同時に存在する表現として「オバケ」に関心をもった。その後、卒業制作《オバケの》、翌年の《劇場版:オバケのB ’》からは、作品タイトルにあるように「オバケ」を主題に自身が表現したいことを明確化していった。
「人間のような具体的な形をしていなくとも、キャラクターの記号を持つフレームの絵と同質、同素材で仮置きされることで生き続けられる。そうやって、オバケは彼らを生かす方法として機能するんじゃないかなと思いました」
米澤の作品を見ると、たしかに人の形をしているようで目が複数個あったり、複数人が重なっていたり、水飛沫のように肉体が散らばっている。それでも彼らは生命力を放っている。
「記憶や肉体情報などが、色々混ざり合って変わる生きものとして描いています。原生動物に近いイメージですね」
《オバケのスクリーンショット》という作品シリーズでは、そのイマジネーションが現実世界と融合される。米澤が実際に目の前にした、日常的な風景にオバケが現れる。
「写真を撮ったときに、その切り取った先に自分がいることを想像するとか、その前にいた人のことを考えるとか。そういう実際にいたはずのギリギリ残っている残像と想像が重なって見えた時に、その形を無数の方向性の時間で仮置きする力学が働いてイメージが見えます。一瞬で消えてしまうかもしれない、本当は見えなかったかもしれない。そうしたものを忘れないようにしておくために、仮置きする感覚で描いています」
扱うメディウムも、オバケがもたらす空気感や気配を意識したマルチメディアを選択する。
「2022年に制作した《アニマの通り跡》は、アニメーション以外の方法で、ないがある状態を表現することを模索した作品です。壁にピン留めされた透明なビニール。そこに開いた焦げ付きの穴は、空気や光が通ることでアニマが通った跡として見せています」
つまり米澤はアニメーターとして、アニメーションの語源にあるアニマ(魂)を象ろうとしているのだ。
米澤の独自性は、その活動領域にも表れる。2021年の東京スカパラダイスオーケストラ「会いたいね。゜(゜´ω`゜)゜。feat.長谷川白紙」に始まり、ミュージシャンのMV制作やアートワーク提供も行う。また友人であるアーティスト・駒澤零とともにライブペイント×音楽イベント「自然の中で起きている美しい現象すべて」を2022年から定期的に開催している。内向的な彼女にとって、クラブでのイベントは意外な取り組みにも見える。ギャラリーや美術館とは違った場での集いに、どのようなモチベーションがあるのだろうか?
「自分が感動した過去の体験と、いまの時代にあったらいいなと思える場所を作りたかったんです。個人的な体験として、クラブは光と音を浴びて全部どうでもよくなってしまえる場所として好きです。そして、そこに集う人々はコミュニティにとらわれない、流動的な流れである方が好ましい。最近SNSを見ていると流行りのものだけが目に触れて、自己と社会の境界線が引けなくなって辛くなる人はたくさんいると思います。もし小さな場所だとしても、そこに集う各々が何かを能動的に選べる空間があったら、面白いものが生まれるんじゃないかという想いで始めました」
その延長線上として、最近興味があるのが「閉鎖的だが開放的な最小単位の集まり」だという。「まだ言葉になっていないのですが……」と前置きしたうえで「さまざまなアンダーグラウンドシーンが活性化しているけれど、そこでも生きられないアーティストが音楽でも美術でもたくさんいます。でも、必ずそこには個別具体の態度がある。過去のイベントとは形がまた違うかもしれないけど、そういう人たちと何かできないか構想を練っています」と言葉を紡いだ。
たとえ見えていなくても、形になっていなくとも、複数の時間軸に存在する万物に居場所を与え、生を吹き込む。その米澤の精神性は、いままさに作品から空間へと連続的に拡張している。
【米澤柊のクリエイティビティを刺激する書籍、映画、場所】
1.『眼の誕生』『水族館の文化史』自然が多い場所で育った米澤。幼い頃から、動物や虫に触れる機会が多く、自然観察会や国立科学博物館へ赴いたという。そんなルーツも感じられる2選。「どちらも共通して、生きている場所についての最小単位を知ったり感じたりできる書籍です」
2.『MEMORIA メモリア』アピチャッポン監督による作品。不穏な音が主人公の頭の中で鳴り響き、不眠症になったことを起点にストーリーが展開する。米澤が惹かれたのは、ストーリーがあるようでないところと観ている側と映像との境界が薄くなっていくような感覚を覚える部分。
3.行ったことのない場所「刺激を受けるのが行ったことのない場所、そして考えを整理するのがお風呂と水族館です」。原点となったのが、熱海でのレジデンス『ATAMI ART GRANT 2023』。初めて東京都外に身を置いた機会として、価値観が少しずつ書き換わるのを新鮮に感じた。
【存在と不在、現実と仮想の狭間を表現する米澤柊】
絶滅のアニマ
魂と触覚が交差する夢のインスタレーション2022年に『惑星ザムザ』で発表したインスタレーション。4枚のモニターが斜めに吊られ、爆発で身体を失い魂だけになる夢日記の字幕、何もない空間を撫でる実写の手、手描きアニメの頭を撫でる映像が流れ、床には白い石膏粘土が点在する作品。「夢では爆発が迫り身体が消え、暗闇の中で他の存在と触れ合うと火花が走ります。絶滅後の世界で空を撫でると手の内が温かい。モニター間には中割りの構造が生まれ、撫でた痕跡は反転した標本として粘土となり落ちている。ここでは現実の肉体が反転してなくなり、絶滅したアニメ(アニマ)を見ることができました」
名無しの肢体
フレームの間で残像となる2022年に同タイトルの個展で発表した映像作品。トーキョーアーツアンドスペース本郷内のスペースで、鑑賞者はリアプロジェクションに投影された、ふたつの大きな映像の間を歩くことができる。それぞれのスクリーンには、かたちになりきれていないアニメーションキャラクターが現れ、さらにそれらの身体はアニメーションにより呼吸する。この展示構成は、アニメーションが映像となり再生される構造と「オバケ」の表現技法と結びつくものだ。鑑賞者はアニメーションが1枚ずつ並んだ絵、つまりフレームとフレームの間に立ち、物理的に「見る」ことでオバケを体感できる。
羽化を見た
いないものの存在感2000年以降のデジタル作画に現れる、アニメーションキャラクターの魂(アニマ)をめぐるシリーズ《オバケのスクリーンショット》の一作《羽化を見た》(2024)。印象的な作品タイトルはいずれも、描き終えた後に与えられる。米澤の制作スタイルが作品を「描く」ことを前提とせず、手を動かすことから始まるから。背景にある実写もまた、自身が体験したある喜びをきっかけにシャッターを切ったものだ。具体的な記憶はそこに宿り、制作において感受性を動かす契機となる。しかし、そのストーリーが前面に出ることはない。そこに映るのはあくまで「いない」ものを捉えた瞬間なのだ。
米澤 柊/SHU YONEZAWA1999年、東京都生まれ。デジタルアニメーションにおけるキャラクターの身体性と、現実の生き物がもつ感情、さらにそれらが存在する空間の空気を制作している。2025年にLVMH メティエ ダールのアーティスト・イン・レジデンスに選出され、国内外から注目を集めている。
写真・大町晃平 (W)
文・倉田佳子(GQ)
編集・遠藤加奈(GQ)
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IM MEN、一枚の布が内包する多様な表現──GQ クリエイティビティ・アワード2026
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YOSHIROTTEN、境界に囚われない自由なクリエイション──GQ クリエイティビティ・アワード2026
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