「声出し」が果たすもの
2025年現在でも、ガソリンスタンドに立ち寄ると、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」といった大きなあいさつの声が聞こえてくることが多い。特にフルサービス型のスタンドでは、車が入ってから出るまで、スタッフが一貫して声をかけ続けている。
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このような行為は、一見すると形式的なサービスの一部のようにも見える。しかし、そこにはいくつかの実務的な理由がある。
日本の接客業では、大きな声であいさつをする文化が広く見られる。これはコンビニや飲食店にも共通している。だが、ガソリンスタンドでは、それが単なる印象づくりにとどまらない。
声が必要とされる理由には、現場の物理的な環境や、スタッフの管理、安全の確保、顧客への対応、さらに企業のブランド戦略といった、いくつもの要素が関係している。これらの視点から、その背景を考えていく。
ガソリンスタンドに宿る音のマネジメント
ガソリンスタンドは、火気の使用が禁止され、危険物を扱う施設である。そのため、日常とは異なる緊張感が常に求められる。構内には死角が多く、車両の出入りや歩行者の移動も重なる。こうした環境において、スタッフが大声であいさつを行うのはただの礼儀ではなく、自らの存在を周囲に明示するための行動でもある。
例えば、車両の進入を確認し、「お客さまが来た」と口頭で伝えることによって、他のスタッフが死角の動きを察知しやすくなる。声による情報の共有は、視界が限られる屋外施設において、安全を確保するための基本的な手段となる。
また、サービスの初期段階では、顧客が「認識されている」と感じることが重要である。特にフルサービス型のガソリンスタンドでは、車が入った瞬間からサービスが始まる。もしスタッフの反応が遅れれば、顧客は「気づかれていない」「対応が遅い」と感じ、不満を抱きやすくなる。このように、大声のあいさつには、
・スタッフ同士の作業開始の合図
・業務への意識の切り替え
・顧客の第一印象の形成
といった、複数の機能がある。あいさつの音量は、即座に対応できる体制が整っていることを示すものでもある。
ガソリンスタンドでは、学生や若年層、アルバイトが多く働いている。こうした流動的な人材構成のなかで、一定のサービス水準を保つには、誰でも理解できる規律の共有が欠かせない。
この状況下で声出しは、時間の管理や集中力の維持にも役立っている。例えば朝礼での発声練習や、点検時のコール&レスポンスなどは、日々の業務に組み込まれた習慣である。あいさつをしないスタッフは「業務に集中していない」と見なされる場合もあり、実際にそのような内規を設けている企業も存在する。
つまり声出しは、現場における統制と緊張感を維持するための、独自の行動規範として根付いている。
声量が担うブランド戦略の最前線
大手エネルギー企業では、ガソリンスタンドにおける接客対応を一定の基準に基づいて管理する取り組みが行われてきた。従業員の接客態度に関して「明るく、元気なあいさつ」などを含む対応を重視する傾向が見られ、過去には覆面調査によってサービス品質が評価された事例も報告されている。
その背景には、顧客との接点における印象形成の重要性がある。たとえば、「無言での対応」や「淡々とした作業」が顧客の不満につながることがあるため、企業としては「音声による活気ある応対」をブランド価値の一部と位置づけることが多い。声のトーンや間合いといった非言語的要素も、企業イメージを形づくる一要素として扱われている。
さらに、声の大きさは注意喚起の意味合いも持つ。給油開始前には、支払方法の確認、窓拭きやオイル点検の希望有無などをやりとりする必要がある。これらの確認行為を円滑に行うためには、顧客の注意をスタッフ側に向けさせる必要がある。
高齢ドライバーや聴覚が敏感な層に対しては、明確な声による案内が、誤解や事故を未然に防ぐ効果を持つ。つまり、声は接客手段であると同時に、オペレーションの一部でもある。
「声の接客」に潜む心理的負荷
一方で、このような声出しの慣習が、現場で働くスタッフに過度な負担を与えている面もある。日々の業務において、決められた声のトーンや大きさを維持することが、精神的な疲労や離職の要因になる場合がある。とくに、接客評価が声の質や量に偏っていると、接客の本来の目的が見失われるおそれもある。
また、都市部の人口密集地域では、大きな声による応対が騒音として問題視されることもある。来店者の利便性を重視するあまり、近隣住民とのあいだに摩擦が生じることもある。現在のガソリンスタンドには、周囲の環境と調和するように設計されることが求められている。声のあり方そのものが見直される段階にある。
現在では、セルフ式スタンドにおいて自動音声による案内が一般的になってきた。この音声ガイドは、接客の水準を一定に保ちつつ、最小限の人手で情報を伝えることができる。このような変化は、接客における声の役割が変化しつつあることを示している。
それでもなお、フルサービス型を続ける事業者が存在している。その理由には、人による対応を価値のあるものと見なす利用者が一定数いるという現実がある。スタッフの声によって安心感や信頼を得られるという点では、たとえ効率が悪くとも、それが無意味とはいい切れない。
顧客満足を左右する挨拶の力
ガソリンスタンドでの声出しあいさつは安全管理や情報伝達、労働管理、顧客満足、企業戦略など、複数の要素が絡み合った必要な技術である。現場の試行錯誤を経て、維持されてきた努力の積み重ねだ。
今後の課題は、この技術が新しい移動社会に適応できているかどうかを見極めることである。声は、安心感をもたらすこともあれば、ストレスを与えることもある。サービスの価値とは何か、誰のためにあるべきか。ガソリンスタンドのあいさつの声は、静かにこの問いを投げかけている。(大居候(フリーライター))
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みんなのコメント
当たり前の事でも大きい声を出す。
しっかり確かめないと自信持って声出しや誘導ができない。
学生ながら、なるほどと思った。