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ルノーCEOの電撃辞任……アルピーヌF1にはどんな影響が及ぶのか?

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ルノーCEOの電撃辞任……アルピーヌF1にはどんな影響が及ぶのか?

 ルカ・デ・メオがルノー・グループのCEOに就任したのは2020年夏のことだった。当時のルノー・グループは、73億ユーロの損失を計上したばかり。しかも新型コロナウイルスのパンデミックにより世界経済が急速に停滞しつつある状況で、グループ自体が崩壊の危機に瀕していた。

 しかしデ・メオは、”ルノリューション”と名付けた改革を推し進め、刺激的な新型車を市場に投入するなどした。そして直近の決算では、42億6000万ユーロの営業利益を計上するほどまで回復させることに成功。さらに、ルノー傘下のブランドであるアルピーヌを活性化させた。

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 しかし6月中旬、そのデ・メオはルノーのCEOを突如辞任すると発表。今後はグッチなどを傘下に持つフランスの高級ブランドグループであるケリングのCEOに就任することが決まった。そのことにより、ルノーの将来が不安視されている。

 デ・メオが前任者を含めて他の多くの自動車メーカーの幹部と一線を画していたのは、優れた製品への情熱と財務の才覚を融合させるという能力であった。彼は会計士のようにスプレッドシートの内容を精査するだけでなく、社の全員対して「GFC」を作ることが使命だと明確に伝えていた。GFCとは、“great fucking cars”の略で、日本語で言えば「最高にイカしたクルマ」という意味になろうか。

 デ・メオの前にCEOを務めていたカルロス・ゴーンの下でルノーは、コスト削減が最優先事項であった。その結果、製品のラインアップは味気ないものとなり、悪循環に陥っていた。しかしゴーン氏が日本で逮捕され、その後楽器ケースの中に隠れて逃亡するというありえないような出来事が、混乱に拍車をかけた。取締役会の中では内紛も巻き起こった。

 デ・メオはかつてフィアットやフォルクスワーゲン・グループなどで勤務。フィアット500の復活に貢献したひとりとも言われている。

 彼の功績により、ルノーの市販車のラインアップは5年前と比べてはるかに魅力的になった。その一方で、彼の指示によりルノーからアルピーヌへの名称を変えたF1チームの運営は、それほど安定していない。

 2021年にチームの名称がアルピーヌとなった当初、ルノー時代にチーム代表を務めていたシリル・アビテブールを解任。後任として(少なくともサーキットでは)スズキのMotoGPチームをチャンピオンに導いたダビデ・ブリビオを起用……するはずだった。しかし元マクラーレンの空力責任者で、FIAでも働いていたマルチン・ブコウスキーがエクゼクティブ・テクニカルディレクターに就任すると、ブリビオが務めるはずだった役職も担うようになった。

 これにより、チームの指揮を誰が取っているのかということが、非常に不明瞭になってしまった。そしてその混乱に拍車をかけたのは、アルピーヌ・カーズのローラン・ロッシCEOの存在であった。ロッシCEOも、デ・メオによって任命された人物であるが、F1業界での経験は皆無であった。しかしCEO就任後は積極的にグランプリに顔を出すようになり、当時チームのコンサルタントを務めていた4度のチャンピオンであるアラン・プロストを、チームから外す判断を下した。

 後にロッシはCEOを解任されたが、プロストはそれ以降も憤慨。ロッシCEOについて”ダニング=クルーガー効果”の典型的な例だと断言した。この”ダニング=クルーガー効果”とは、「特定の分野において能力の限られた人が、自分の能力を過大評価してしまう」ことである。

 一方でブリビオはF1を離れ、後に二輪レースの世界へと復帰。今では小椋藍が所属するトラックハウスのチーム代表を務めている。

 それ以降も、アルピーヌF1における新しい人材の採用と解雇が急速に進んだ。昨年には、悪名高いフラビオ・ブリアトーレをエクゼクティブ・アドバイザーとして招聘。業界関係者はこのことを、苦境に立たされたF1チームにおける、デ・メオの最後の賭けだろうと考えていた。

 ブリアトーレの任務は、チームを立て直すための必要な数の人材をリストラすること。それが不可能ならば、チーム自体を売却するということまで見込まれていたとされる。そのためならば、いかなる手段も許されていたようだ。

 そのひとつが、パワーユニット(PU)の自社開発終了である。ルノーはF1におけるターボチャージャーの先駆者であり、自然吸気V10時代には数々のタイトルを勝ち取ってきた。その開発を担ってきたヴィリー・シャティヨンにあるルノー・スポールのエンジン部門は余剰とされ、新レギュレーション用PUの開発を中止。チームとしてのアルピーヌのF1参戦は続くが、2026年からはメルセデスのカスタマーPUを使うことになった。多くの反対意見もあったが、結果的にそれは実行に移された。

 このことについては元従業員らが公然と不満をぶちまけた。そしてデ・メオがヴィリーのスタッフに直接報告せず、役員に対応を任せたことも非難の対象となった。

 デ・メオは昨年行なわれたインタビューで、今のF1においてPUとシャシーの両方を製造することに、金銭的な価値はないと指摘。謝罪の意を示すこともなかった。

「FIAの報酬制度(コンコルド協定に基づく分配金制度)は、シャシーの成績によって配分される。マクラーレンやアストンマーティンが優勝すれば、彼らはメルセデス・ベンツのエンジンを搭載しているにもかかわらず、報酬の全額を受け取ることになるんだ」

 そうデ・メオは語った。

「ルノーとしては、PUを開発するのに2億5000万ユーロの追加費用をかける必要がある。私は上場企業を経営している立場にあり、その仕事を10年間してきた。日々、合理的な判断を下さなければいけない」

「メルセデス・ベンツのエンジンを使うという決定に対して、メディアは批判的な反応を示した。しかし、そうでなければビジネスは成立しない。彼らのエンジンを使うコストは、年間2000万ユーロだ。現在の2億5000万ユーロとは比べ物にならない。それが皆さん自分のお金だとしたら、どうする?」

「私はブランドの価値を強く信じている。決して簡単な決断ではなかったが、極めて重要な決断だった。アルピーヌが定期的に表彰台に上がり、勝利を収めることができれば、あらゆるネガティブな噂は消え去るだろう」

 ただそうなる瞬間は、まだまだ遠い先のように見える。

 自動車業界の関係者は、デ・メオ氏がルノーCEOを退任したことは、「新たな課題」の典型的な事例だったと捉えている。ルノー・グループの現在の財務状況は健全であり、その結果デ・メオ氏の価値は急上昇。売り上げが下落しているグッチを抱えるケリングにとっては、非常に魅力的な存在であっただろう。そしてこのことは、今後自動車業界に起こるであろう問題の前兆とも言える。

 デ・メオ氏は長年、パワートレイン技術や生産開始までの期間短縮策に関して、吉利汽車をはじめとする中国企業と提携する方針を採ってきた。しかし最近になって彼は意見を変え、中国政府の補助金を受けた安価な中国製EVが市場に氾濫することは、ヨーロッパの自動車産業にとって脅威だと強調し始めている。

 このことは、好機を逃さずに撤退する好例と言えるだろう。また高級品業界は高い利益率に甘んじてきたと言われており、コスト削減に精通したデ・メオのような人材にとっては、成果を得られる機会が豊富に存在するとも言える。

 また当然のことながら、デ・メオが退任したことで、アルピーヌF1のプロジェクトに、不透明感を与えている。

「F1における安定性は、ビジョンと実行力から生まれる」

 ブリアトーレはカナダGPの際にそう語った。

「我々には計画がある」

「ルカはその計画を指示していた。しかし彼が去っても、我々の活動が止まることはない」

 そう言うのは簡単だ。アフリカのサバンナでは、新たに群のリーダーになろうとするライオンは、前のリーダーの子供を殺してしまう。企業の世界でも、同じことが起きることがある。

 その槍玉となっているのがブリアトーレだ。ブリアトーレは2008年のシンガポールGPの際に起きたクラッシュゲートの主犯として、一時はF1パドックへの出入りが禁止された人物。しかも正社員ではなく、あくまでチームと一時的に契約している身である。その上彼の契約には、商業圏取引において「利益を得る」権利も含まれていると言われており、そのことはフランスのメディアでも厳しく批判されている。

 ルノー・グループは、デ・メオの後任として新たにCEOになる人物について、「後継者計画はすでに確定している」と語っている。業界関係者はこの主張の真偽は、どんな人物がCEOとして任命されるかによって明らかになるだろうと言う。現時点で噂に上っているのは、ダチアのデニス・ル・ヴォットや、ステランティスCOOのマキシム・ピカらである。

 ただ部外者が次のCEOとなれば、アルピーヌF1にとってはさらなる変化や不確実性の兆しとなるかもしれない。

文:motorsport.com 日本版 Stuart Codling
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