「レースは走る実験室」――これはホンダ創業者・本田宗一郎の言葉だが、実際にレースのために生み出され、後に公道用のクルマにも転用された技術は多い。過酷なレースで鍛えられた技術は、公道においても効果を発揮してくれるのだ。
この記事では、レースにルーツを持ったロードカー用テクノロジーを紹介していきたい。第1回となる今回は、見た目上、最もわかりやすく、なおかつ効果も大きい空力(エアロ)テクノロジーだ。
文/長谷川 敦 写真/トヨタ、日産、フォルクスワーゲン、Newspress UK、Favcars.com
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飛び立つための翼から“押し付ける”ためのデバイスへ―ウイング―
1968年に登場したダッジ チャージャーはリアに大型のウイングを装備。本来の空力効果もさることながら、ルックス面でも強烈なインパクトを残した
かつてのクルマにとって、空気は前に進むことを阻害する障害でしかなかった。そうした理由から、特にスピードを追求するレーシングカーやスポーツカーでは、ボディの形状を流線形に近づけて、どれだけ空気抵抗を少なくするのかが重要なポイントになっていた。だが、ある日誰かが空気の力を利用して車体を路面に押し付ければ、走行安定性、とりわけコーナリング性能を高められることに気がついた。
そこで飛行機の翼(ウイング)をひっくり返して装着してみたところ、飛行機を離陸させる揚力とは逆向きの力(=ダウンフォース)が発生してマシンのグリップ力は飛躍的に向上し、これまでにないスピードでコーナーを駆け抜けられるようになった。これがレーシングカーにおけるウイングの発明である。
ウイングの装着により空気抵抗自体は増えてしまうものの、ダウンフォースの増加による取り分のほうが大きく、すぐにウイングはレーシングカーのスダンダードパーツになり、それは現在でも続いている。
レーシングカーにウイングが装着されるようになったのは1960年代中期だが、その60年代後半には早くもロードモデルでウイング装着車が登場。1968年のダッジ チャージャーにはリアに高々とそびえ立つウイングが装備されていた。
高速走行時に安定性を高めるウイングは、ロードカーでもスポーティなモデルを中心に装着されるようになった。しかし、そのサイズや形状には流行の影響もあり、最近ではあまり大型のリアウイングを採用せず、後出のディフューザーで安定性を確保するモデルが増えてきている。
小さなパーツでもその効果は絶大! ―リアスポイラー―
トランク後端にスポイラーを装着したダッジ チャージャー(1968年)。このサイズでも十分な効果が得られ、空気抵抗の増加も最小限に抑えることができる
リアスポイラーもまた、車体を路面に押し付けることによって安定性を向上させるパーツだが、ウイングほど大がかりなものではなく、比較的簡単に装着可能な空力デバイスといえる。
レーシングカーにおけるリアスポイラーの歴史はウイングより古く、1961年のフェラーリ 196ディノSPに装着されている。当時のレーシングカーは空気抵抗の低減を目的に水滴形のボディフォルムを採用していたが、こうした形状では高速走行時にリアが浮いて挙動が不安定になるという問題があった。このリフトを抑えるためにボディ最後部に装着された小型の突起状パーツがスポイラーだ。
スポイラーの語源はスポイル(阻害する、損なう)で、文字どおりスムーズな空気の流れを阻害するパーツだが、スポイラーがあることによって空気流が上に跳ね上げられ、結果としてダウンフォースを発生する。これで走行安定性がアップし、場合によっては空気抵抗の低減にもつながる。
レーシングカーで効果を上げたリアスポイラーもまたかなり早い時期にロードカーに導入されていて、しかもその車種はリアウイング同様にダッジ チャージャーだった。ロングテールの後端に装着されたリアスポイラーは、安定性向上だけでなく、ルックス上のアクセントにもなっていた。
現在、シンプルながら空力性能向上に効果を発揮するリアスポイラーは、スポーティモデルにとどまらず多彩なカテゴリーのロードカーに装備され、その形状もさまざま。街中でも普通にリアスポイラー装着車を目にすることができる。
空気抵抗を上げずにダウンフォースを生み出すマジック―ディフューザー―
ディフューザーの目的を理解しやすいイラスト。車体の底部を流れてきた空気を拡散して排出し、ダウンフォースを発生させる。その起源はレースカーにあった
最近、公道で前方を走るクルマのバンパー下側に、ジャンプ台を裏から見たような形状のパーツが装着されているのに気付いた人も多いはず。あるいは、アナタの愛車にも同様のパーツが装備されているかもしれない。そう、それこそが空力デバイスのディフューザーなのだ。
ディフューザーの目的は、クルマの底部を流れる空気の通路を最後に拡大して空気流を拡散し、流速をアップすることにある。流速の向上によってクルマ底部の気圧が下がり、結果的に車体は路面に引っ張られるかたちになる。
ここで発生する力もダウンフォースだ。ちなみにディフューザーとは「拡散する装置」という意味。ディフューザーの特徴は空気抵抗をほとんど増やさずにダウンフォースが得られることで、この点においてウイングよりもはるかに高効率といえる。
1977年にF1GPに登場したロータス78は、車体の両サイド(サイドポッド)底部がこのディフューザー状にデザインされていた。このため大きなダウンフォースが発生して、ライバルを凌駕する速さを発揮。翌年に投入された改良型のロータス79はさらに空力的に洗練され、前年を上回るスピードでシーズンを制圧した。これが世に言うウイングカー、あるいはグランドエフェクト(地面効果)カーである。
それまであまり注目されなかった車体底部の空気流を利用してダウンフォースを得る手法は、アッという間にほぼすべてのレーシングカーに採用されたが、スピードが出すぎて危険ということで、形状やサイズの規制が行われた。しかし、現代のレーシングカーも広義のグランドエフェクトカーであるのは間違いない。
F1を筆頭にしたフォーミュラカーなどの純レースカーでは大きなアドバンテージのあるディフューザー(グランドエフェクト)だが、底部の形状が複雑なロードカーでは、F1ほどのグランドエフェクトを期待することはできない。とはいえ、うまくデザインすれば効果的にダウンフォースを得られるのも事実であり、スポーティモデルを中心にリアディフューザーを装備するロードカーは多い。
注意してほしいのは、車体後端部をディフューザー形状にしたからといって確実にダウンフォース量が増えるわけではないということ。どちらかというと、ルックス面を重視してディフューザーを装着しているモデルも数多く存在している。
巨大な“出っ歯”にも重要な意味がある? ―チンスポイラー―
トヨタ最新モデルのGR86もチンスポイラーを標準装備するが、近年の流行に沿ってサイズは控えめ。中央部は空気を下面に流すために形状が変化している
グランドエフェクトが発見されるまで、クルマの底部にはなるべく空気を流さないという考え方が主流だった。ボトムと路面の間を流れる空気の力で車体が押し上げられてしまい、不安定になるというのがその理由。
そのため、車体の最前部下側にスポイラーを装着し、空気を上方に跳ね上げることによって底部への流入を防ぎ、同時にフロントのダウンフォースを確保するという手法が発明された。これがチン(顎)スポイラー、またはリップ(唇)スポイラーと呼ばれるデバイスである。リアのスポイラー同様にチンスポイラーも比較的簡単に装着でき、さらに一定以上の効果が得られるため、登場するやいなや一気にメジャーなパーツとなった。
チンスポイラーを装着したロードカーは1960年代に登場。レースカーではチンスポイラーの大型化が進行するものの、グランドエフェクトの出現によって車体底部に積極的に空気を取り入れるという考えが主流になり、現代ではフロントフェンダーの両サイドに独立したスポイラー(カナード)を装着するスタイルがスタンダードになっている。
速度域の異なるレーシングカーとロードカーだが、テクノロジーが共有されるケースは多い。特に今回紹介した空力デバイスは応用もしやすく、今後も新たなレースカー由来の技術がロードカーに転用される可能性は高い。
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