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“フェルスタッペン・ルール”……最年少スーパースターがもたらしたF1への影響

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“フェルスタッペン・ルール”……最年少スーパースターがもたらしたF1への影響

 F1のみならず、記録が更新されることは世の常だが、一度に全ての記録が塗り替えられることは滅多にない。しかしマックス・フェルスタッペンがF1に参戦した時、それが起こったのだ。

 17歳の誕生日の3日前、フェルスタッペンは2014年日本GPのフリー走行に当時のトロロッソ(現アルファタウリ)を駆り出走。グランプリ”ウィーク”デビューを果たした。

■フェルスタッペン「僕らは良いカモだった……」ハミルトン&メルセデスの戦略になす術無し

 元F1ドライバーである父親のヨス・フェルスタッペンに育てられたマックスは、モータースポーツの頂点に立つことを運命づけられていた。カートで成功を収めると、フェルスタッペンはF4を始めとする下位カテゴリーを飛び越え、F3で4輪デビューを果たした。

 16歳のフェルスタッペンが挑戦した2014年のユーロF3選手権では10勝を挙げ、エステバン・オコン(現アルピーヌF1)とトム・ブロンクヴィスト(現フォーミュラE/NIO)に次ぐ3位でシーズンを終えた。

 レッドブルは、ジュニアチームのトロロッソで2015年のフルシーズンを戦うことを提案し、フェルスタッペンの獲得に成功した。これにより、最年少かつ最も経験の浅いF1ドライバーが誕生することになった。

■フェルスタッペン・ルール

 最年少デビューを果たしたフェルスタッペンの台頭を受け、FIAは2015年以降F1に参戦できるドライバーの年齢を18歳以上に引き上げるという最初の「フェルスタッペン・ルール」を制定した。つまりこのルールが変更されない限り、フェルスタッペンのF1最年少デビュー記録は残り続けることになる。

 フェルスタッペンはオーストラリアのメルボルンで行なわれた2015年のF1開幕戦で、FIAが懸念していた成熟度の問題を打ち消す堅実なパフォーマンスを見せた。エンジントラブルによりデビューレースでのポイント獲得は果たせなかったものの、第2戦のマレーシアGPでは7位でチェッカーを受け、初ポイントを獲得した。

 残りのレースもチームメイトのカルロス・サインツJr.(現フェラーリ)と比較しても遜色のないパフォーマンスを披露し、素晴らしいデビューシーズンとなったが、2016年はそれどころではなかった。

 レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコは、2016年の序盤わずか4レースでダニール・クビアトをレッドブルからトロロッソに降格させた。フェルスタッペンはそのクビアトの後任として急遽レッドブルへ加入することになった。衝撃的な人事異動ではあったが、同時にフェルスタッペンの急成長に完全に合致した動きでもあった。

 レッドブルでのレースデビューとなった第5戦スペインGPで、フェルスタッペンは当時フェラーリのキミ・ライコネン(現アルファロメオ)を抑え、F1史上最年少の優勝者として再び歴史に名を刻んだ。

 一夜にしてフェルスタッペンは、F1タイトル争いの有力候補に名乗りを上げた。ルイス・ハミルトン(メルセデス)やニコ・ロズベルグ(当時メルセデス)、当時フェラーリに乗っていたセバスチャン・ベッテル(現アストンマーチン)やライコネンらに挑む新たなライバルの登場であった。

 フェルスタッペンは、よりアグレッシブなレーススタイルを見せつけ、ハンガリーやベルギーでライコネンと接触するなど、ライバル達と激しく争うことになった。

 FIAは第18戦アメリカGPに先立ち、それまでフェルスタッペンが度々指摘されてきたブロック目的のブレーキング時の進路変更に関するルールの明確化を行ない、厳しく取り締まった。

 皮肉なことに、次戦メキシコGPでベッテルが当時レッドブルに所属していたダニエル・リカルド(現マクラーレン)に対し行なったブロックが、この2つ目の「フェルスタッペン・ルール」ペナルティの対象となり、レッドブル優位に働きフェラーリを苦しめる事になったのだった。

 2つ目の「フェルスタッペン・ルール」は長くは続かなかった。FIAは2017年に向け、ドライバーのコース上での自由度を高め、スチュワードへのプレッシャーを軽減するべく、ルールを再度緩和することになった。

 確かにデビュー当初のフェルスタッペンは度々ミスを犯していたが、そのドライビングを若さゆえの余勢と決めつけるのは短絡的である。フェルスタッペンは、アグレッシブなレーススタイルで知られた故アイルトン・セナを彷彿とさせる。イギリスでのF3時代から、セナはライバルに自分を意識させ、屈服させ、そしてミスを誘うなどして自身の地位を確立していった。

 2016年のフェルスタッペンも同じ様に、時に大胆な行動を取り、レース後に物議を醸すコメントを残すなど、自分が”ヤワではない”ことを示そうとしていた。

 翌2017年シーズンにフェルスタッペンは更に2勝を挙げるも、何度もコース上で接触を起こすなど若さゆえの焦りが目立ち、マルコやチーム代表のクリスチャン・ホーナーから叱責を受けた。

 しかし、フェルスタッペンがフリー走行3回目でのクラッシュが響き予選を迎えられなかった一方、チームメイトのリカルドが勝利を遂げた2018年の第6戦モナコGPを境に、フェルスタッペンの全てが変わったようだ。

 フェルスタッペンは残りの15レースで10回の表彰台を獲得し、見事なパフォーマンスで立ち直った。同時に、第20戦ブラジルGPのレース後に当時フォース・インディアに所属していたエステバン・オコン(現アルピーヌ)を小突くなど、短気な一面は健在であった(このレースでは、フェルスタッペンが周回遅れのオコンをオーバーテイクしようとした際に両者が接触。フェルスタッペンは怒り心頭だった)。

■オランダでのスポーツ人気再燃

 現在22歳のフェルスタッペンがF1に与えた影響は、2つの「フェルスタッペン・ルール」だけではない。彼の母国であるオランダでは、サッカーチームの不振で眠っていたスポーツ熱の高い国民の心に火をつけた。

 スペインGPで初優勝を遂げた際には人気が出始め、フェルスタッペンはかつての父ヨスのように一躍有名となった。

 オランダからのサポーター軍団は、ヨーロッパのサーキット中に瞬く間に広がった。グランドスタンドをオレンジ色に染め上げ、彼らはいくつかのGPで必要とされていた変化をもたらすことになった。

 スパ・フランコルシャンで行なわれるベルギーGPは、この“マックス・マニア“から、GPを開催するサーキットの中で最大の利益を得ている。ミハエル・シューマッハー引退後の苦しい時期を乗り越え、隣国オランダから大量のファンが押し寄せたことで、ベルギーGPのチケットは再び完売するようになった。

 ベルギーGPの成功は、F1の歴史も深い母国オランダを触発し、フェルスタッペンとそのファンの大群にとって真のホームレースを復活させる火付け役となった。

 1952年から1985年の間ザントフールト・サーキットで開催されたオランダGPは、F1世界選手権の中核的存在であった。

 フェルスタッペンの人気上昇とF1への関心の高まりという勢いを利用して、ザントフールト・サーキットとTTサーキット・アッセンはGPレースの誘致争いを繰り広げた。

 最終的にはザントフールト・サーキットが誘致に成功。しかし今から約1年前、サーキットのスポーティング・ディレクターであるヤン・ラマースと当時F1のCEOであったチェイス・キャリーは、新型コロナウイルスの感染拡大により、改修したサーキットでの開催を目指していた2020年のオランダGPを中止することを発表した。しかし2021年の9月に、36年ぶりとなるオランダGPが復活を果たす予定になっている。

■“Twitch世代”のF1への呼び込み

 フェルスタッペン人気の飛躍的な高まりは、国内に留まらない。22歳のフェルスタッペンとシャルル・ルクレール(フェラーリ)の2人は、次世代のF1スーパースターの筆頭だ。

 フェルスタッペンとルクレールは、すでに何度かコース上でのバトルを繰り広げており、2019年のイギリスGPでは、近年のF1史に残るバトルを演じたことも記憶に新しい。

 その2人はそれぞれのチームと長期契約を結んでおり、同世代で最も優れた才能を持つ2人が、これから数年に渡り競争力のあるマシンで戦いを繰り広げるという、魅力的な展望が広がっている。

 SNS世代であるフェルスタッペンと彼の仲間達は、F1を新世代のファンに届けるという点でも貴重な存在だ。新型コロナウイルスによるロックダウン期間には、e-スポーツやシムレースを通じF1人気が大いに高まった。

 マクラーレンのドライバーであり、Twitchストリーマーでもあるランド・ノリスの取り組みと共に、フェルスタッペンのシムレースでの活躍は、F1が活用できる「リアル」と「オンライン」という異なる2つの世界の架け橋となることだろう。

 フェルスタッペンは、2007年にルイス・ハミルトンがF1初優勝を果たした年齢とほぼ同じ22歳7ヵ月の時点で、F1に102戦出場し、31回の表彰台と8回の優勝を経験している。その後23歳になったフェルスタッペンは、2021年の第2戦エミリア・ロマーニャGPで11勝目を挙げている。

 F1での5年と少しの間、フェルスタッペンは長い道のりを歩んできたが、その旅は始まったばかりだ。彼がF1に与える最終的な影響は未知であり、ここから先は7度のF1世界チャンピオンであるハミルトンとのライバル関係がどうなるかにかかっているかもしれない。

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