■BEVは難しい大型トラック……では水素ならどう?
三菱ふそうトラック・バス(以下、三菱ふそう)は2025年10月29日、「JAPAN MOBILITY SHOW 2025(ジャパンモビリティショー)」のプレスブリーフィングで、2台の水素駆動トラックのコンセプトモデル「H2FC」と「H2IC」を世界初公開しました。本記事ではその2台の詳細と、「H2IC」に同乗試乗した様子をお届けします。
【画像】三菱ふそうが世界初公開! 水素で動く大型トラック「H2FC」と「H2IC」の画像を見る(65枚)
カーボンニュートラルへの取り組みについて三菱ふそうは、2017年の小型BEVトラック「eCanter」の発売を皮切りに、バッテリー交換ができるモデルなどを開発してきました。市街地の配送が中心で走行距離が少なく、積み荷の負荷が少ない小型トラックとEVのマッチング性は高く、今後も普及が見込まれます。
しかし大型トラックの分野では、電動化や代替燃料の研究が進みつつも、本格的な実用化はこれから、という状況です。特にBEV化については、積載量が多く一度の走行距離が長い傾向にある大型トラックには不利。例えば1日の走行距離を800km(うち運転時間4時間+休憩30分)で試算した場合、BEVでは5tのバッテリーを搭載、しかも50kWの充電器では充電に9時間かかるといいます。この数値は、非現実的と言わざるを得ません。
そこで三菱ふそうは、大型トラックのカーボンニュートラル技術には水素(H2)が有効と判断。さらに大型トラックの使用方法に応じて、水素エンジンと水素燃料電池2種類をエネルギー効率で使い分ける戦略を採用しました。
まず水素エンジン搭載車は、ディーゼルエンジンや駆動系を含め、すでに使われている車両と共通の技術やコンポーネントをそのまま利用できるため、スムーズな水素車両への移行を可能とします。高出力が必要で、比較的走行距離が短く負荷がかかる建設車両などに適しており、70MPaという高圧で常温保存される圧縮水素ガス(CHG)を使用します。
この水素エンジンを積むコンセプトモデルが、「H2IC」です。H2ICは、合計58kgの圧縮水素ガスを蓄えられるタンクを、キャビン後部とフレーム左右に搭載。航続距離は700kmとされています。欠点は積み荷の積載スペースが減ることですが、前述の通り既存のトラックの構造をほぼ踏襲しているメリットがあり、低い導入コストが期待されます。
■長距離輸送・低負荷での運用に適した「H2FC」
もうひとつのコンセプトモデル「H2FC」は、燃料電池により水素から変換された電気をモーターの駆動に用いる燃料電池トラックで、三菱ふそうでは長距離輸送・低負荷で運用される車両に適している、と説明しています。
燃料電池システムは従来のエンジン部に設置し、合計80kgの液体水素(LH2)を充填(じゅうてん)可能な真空断熱タンクは、フレーム左右に設置されます。圧縮水素より密度が高い液体水素により、航続距離は1200kmを達成。積載量も従来の大型トラックと同等です。
さらにH2FCでは、国内初のサブクール液体水素(sLH2)の充填を可能としました。sLH2の充填技術は、三菱ふそうの親会社であるダイムラートラックと産業ガス・水素インフラ技術を得意とするリンデ・エンジニアリングと共同開発されたものです。sLH2充填技術を用いると、液体水素取り扱い時の課題である「ボイルオフガス」の排出が不要なため、水素ステーションの設備を大幅に簡素化してコストを削減できます。そしてこの技術は、国内で唯一液体水素を供給する岩谷産業と共同で研究が進められており、H2FCのサイドには「FUELED BY Iwatani」の文字が入れられています。
なおダイムラートラックでは2022年にドイツで液体水素トラックの車両実験に成功。2024年からはsLH2充填ステーションの稼働や、運送会社との実証実験も始まっています。
■ディーゼル車とは違うサウンド! 高い静粛性に未来の物流を見た
今回作られた2台のコンセプトモデルはモックアップではなく、実走行が可能です。そこで三菱ふそうでは、事前にH2FCとH2ICのメディア向けお披露目と、水素エンジンを積んだH2ICの同乗試乗会を同社のテストコースで実施しました。
迫力ある濃色のボディカラーに鮮やかなストライプが配された2台は、三菱ふそうのスーパーグレートの3軸車をベースに開発されていますが、2台とも細部が作り分けられています。
新しい技術を搭載するH2FCは、奥行き感のあるフロントグリルに変更されており、リアタイヤもカバーによって完全に隠されています。車輪の間に置かれた水素タンクは電飾が施され、さらにカバーから見えるシースルー式に。リアセクションも大きく変更されており、未来感漂うスタイルとなっています。
サイドミラーはカメラの映像を車内のディスプレーに投影する方式ですが、H2FCではカメラメーカーのニコンと共同で開発した「3Dカメラモニタリングシステム」を搭載。3Dカメラモニタリングシステムと、現実の鏡のような奥行き感を再現した3Dミラーディスプレーを特徴としています。
一方、現実的なアプローチのH2ICでは、リアタイヤが露出しているなど既存車両とあまり変わらない外観を持っています。こちらも「3Dカメラモニタリングシステム」を搭載していますが、すでに市場で採用されている技術を用いています。
なお両車ともに車内はシート・アームレスト・ステアリングホイールなどにリサイクルレザーといったサステナブル素材を使用しています。
■ディーゼルエンジンと運転フィーリングに大きな違いはない「H2IC」
そしていよいよH2IC同乗試乗の時間がやってきました。コンセプトモデルかつ同社の試験車両に、助手席への同乗ながらも乗ることができるのは、たいへん貴重な機会です。しかもショーに展示する実車そのものなのですから、それを事前に同乗試乗で走らせるということに、三菱ふそうの水素駆動大型トラックにかける意気込みや本気を感じました。
前述のとおりH2ICは、見た目的には市販のスーパーグレートと大きな差異はなく、軽油を燃料とするディーゼルエンジンも基本的にはそのまま。H2ICには、15.6リッターのダイムラートラック製ユニットを積んでいます。
ところがH2ICは、ディーゼルエンジンとは少し異なる音質で目の前にやってきました。軽油特有のカラカラ音が薄く、どことなくガソリン車のような音です。
助手席によじのぼりシートベルトを装着。いざ、テストコースへとH2ICは走り出します。車内で聞いてもやはりエンジン音は軽やか。ベースのスーパーグレートも静粛性が極めて高いのですが、エンジンのフィーリングの違いにより、それがさらに強調されている感じがしました。ドライバーに聞いてみたところ、ディーゼルエンジンと運転フィーリングに大きな違いはないとのことです。
滑らかな加速とスムーズなシフトアップ・ダウンにより快適な走行を体感できました。
※ ※ ※
大型トラックのゼロエミッション化への道を主導すべく、水素を選択した三菱ふそう。水素ステーションの少なさや設置コスト、水素自体が高いことなど、水素を用いる車両の本格導入にはまだいくつものハードルがありますが、岩谷とのsLH2充填技術開発などによる低コスト化が進めば、既存コンポーネントを流用できる水素エンジン車の普及は進むのではないでしょうか。
今回の試乗は、未来の物流への手応えを強く感じさせてくれました。カーボンニュートラル化待ったなし!という現代。三菱ふそうのチャレンジに注目したいと思います。
なお「H2FC」および「H2IC」は、東京ビッグサイト(東京都江東区)で10月30日~11月9日(一般公開は10月31日から)に開催される「JAPAN MOBILITY SHOW 2025(ジャパンモビリティショー・JMS2025)」にて実車を展示。三菱ふそうブースは、東京ビッグサイト東展示棟1階(東6ホール)、ブース番号EC02です。(遠藤イヅル)
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みんなのコメント
サイドスカートも付いているからバブル感マシマシ。
特に自動車関連は、ほかのインフラ整備との一体的な進歩が必要なので、なかなか一筋縄にはいかない。
EVに対しては、嫌悪感を以てコメントする人が多いけど、今なら水素でさえその製造にCO2の排出が伴うものが大半なので、カーボンフリーというなら、グリーン水素やブルー水素の製造という大きなハードルが立ちはだかる。
最初に戻ると、何事もまず第一歩。いろいろな取り組みの中から最後はベストなものに収斂していく。