「こんなに大きなクルマがRAV4ではない」、「車幅が1850mmを超える巨体だし、売れるわけがない」。現行型RAV4が登場した時にはそんな意見が多いように思えた。
たしかにアメリカで売れたからってそのまま日本で売れる、って考えは少々安直にも思えた。
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しかしふたを開けてみればビックリなのが販売台数。なんと2019年6月は8600台を超えた。売れる要素はたしかにある。しかし道路状況も決して楽観的ではない日本で、なぜこれだけ大きなSUVが毎月8000台を超えて売れるのか。
ライバルと比較して安価な価格の影響なのでしょうか? それともデザインや走破性の違いなのでしょうか?
文:渡辺陽一郎/写真:編集部
■RAV4爆売れもC-HRと同士討ちにはならない理由
2019年4月に発売されたRAV4が好調に売れている。日本自動車販売協会連合会の統計によると、5月は6817台を登録して、小型/普通車の販売ランキング順位は、カローラアクシオ&フィールダーに次ぐ7位であった。
6月は7822台でフリードに次ぐ11位、7月は8646台でフィットに次ぐ10位になっている。
RAV4の躍進が止まらない。どこまで続くのか気になるところ
その結果、5~7月はいずれもRAV4がSUVの販売1位になり、2位はヴェゼルであった。
ちなみに2019年1~4月を振り返ると、1月を除いた2~4月は、C-HRがSUVの1位でヴェゼルは2位だ。
それがRAV4が発売された後は、C-HRの売れ行きがヴェゼルを下まわった。C-HRは登録台数の対前年比も下がり、5月は前年に比べて24%、6月は36%、7月は37%の大幅な減少になった。
RAV4の登場以降、C-HRの対前年比は、時間が経過するほど悪化している。
この理由は、以前はC-HRを購入したと思われるユーザーが、今では少なからずRAV4を選んでいるからだ。
C-HRは外観が個性的な代わりに、後席と荷室は狭い。ファミリーユーザーにとっては、車内の広いRAV4がC-HRよりも使いやすく、売れ行きも伸びた。
このように同じメーカーの車種同士で需要を奪い合うことは珍しくない。ルーミー&タンクが登場するとポルテ&スペイドが減り、フリードがフルモデルチェンジするとステップワゴンが影響を受けた。
その半面、RAV4を目当てに来店した客が「全幅が1800mmを大幅に超えて運転しにくい」と不満を述べ、セールスマンが提案したC-HRを買うこともある。
総じてRAV4が増えてC-HRが減っているが、細かく見れば逆のパターンもあるのだ。
だからこそRAV4のような新型車が重要になる。ほかの車種を含めて、販売現場が活性化するからだ。
ライバルと比較しても割安に思えるRAV4。売れる理由はそれだけなのか?
さらにいえば、RAV4の発売でライバル車のエクストレイルが改めて注目されることもある。新型車の登場は、自動車業界全体に良い刺激を与えてくれる。
RAV4が増えてC-HRが減ったなら、同じトヨタ車のハリアーはどうなのか。減ってはいるが8~14%に収まる。
ハリアーの売れ筋価格帯は330~400万円だから、RAV4の280~360万円に比べると少し高めの設定で競争しにくい。
加えて販売店も異なる。RAV4はトヨタカローラ店とネッツトヨタ店、ハリアーはトヨペット店(4系列を統合した東京地区を除く)だから迷いにくい。C-HRは全店の扱いだから、RAV4と比較されて販売面の影響も受ける。
■見た目以上にオフロード性能も高い4WDがウケた
このほかRAV4が好調に売れる理由として、商品自体の魅力も大きい。分類上は前輪駆動をベースにしたシティ派SUVだが、デザインやメカニズムの性格は、ランドクルーザーのようなオフロードSUVに近いからだ。
そのためにRAV4で前輪駆動の2WDを選べるのは価格が最も安いXに限られ、中級以上のグレードはすべて4WDになる。
2Lのノーマルエンジンを搭載するG・Zパッケージとアドベンチャーには、後輪左右の駆動力配分を電子制御で変化させる機能も備わり、悪路走破力と舗装路上の安定性を一層向上させた。
RAV4はクロカン4WDには適わないものの、見せかけだけのヤワな4WDではない。巧みな電子制御もあり常に進み続ける
C-HR、ハリアー、CR-Vなどを見ると分かるように、今はシティ派SUVが多い。SUV本来のオフロード指向を表現した車種は、エクストレイル、アウトランダー、フォレスター、エスクード程度に限られる。
そこに悪路走破力を高めて外観も野性的なRAV4が加わったから、注目された。従来型のRAV4や生産を終えたヴァンガードからの乗り替えもある。
ただしRAV4の旺盛な需要が、今後も長く続くとは限らない。SUVなど趣味性の強い車種は、発売直後に売れ行きを一気に伸ばし、その後は急速に落ち込む傾向もあるからだ。
趣味性の強い車種を買うのはクルマ好きのユーザーで、欲しい車種が登場すると、愛車の車検期間が残っていても乗り替える。
そこで販売が急増して、欲しいユーザーに行き渡ると売れ行きが下がるわけだ。C-HRも以前から徐々に販売を縮小させ、RAV4の登場でさらに下がった。
逆にヴィッツのような実用指向の車種は、ユーザーも損得勘定を考えて冷静に選ぶ。
発売直後に売れ行きを急増させない代わりに、優れた商品であれば長期間にわたり安定して売れ続ける。このような事情があるから、RAV4の本当の人気は、少なくとも1年以上を経過しないと分からない。
エクストレイル、ハリアー、CR-Vといった全長が4600~4700mmのライバル車に対するRAV4の優位性は、先に述べたオフロード指向の強さだ。
エクストレイルも最低地上高は205mmを確保して4WDのロックモードを備えるが、後輪左右の駆動力配分を変化させる機能は、RAV4ならではだ。
またRAV4の2Lノーマルエンジンは動力性能が大人しいが、回転感覚は上質でノイズも小さい。乗り心地を含めて走りの質を高めた。
RAV4の買い得グレードは、幅広いユーザーに適する実用装備を充実させた2Lエンジンの4WD・Gだ(320万2200円)。
これに相当するエクストレイルは、4WD・20Xi(303万4800円)になる。比較すると価格はRAV4が約17万円高い。
しかしエクストレイルではオプション設定のサイド&カーテンエアバッグを標準装着して、運転席の電動機能、緊急時にSOSを発信できる通信機能なども備わる。これらの装備の違いを考慮すると、RAV4が少し割安だ。
エクストレイルは強力なライバル車だから、RAV4は価格の割安感で対抗できるようにした。
ハリアーでは同じく2Lノーマルエンジンを搭載する4WD・プレミアム(344万4120円)が買い得だ。
ハリアーにはアダプィブハイビームシステムが備わり、ヘッドランプに採用された複数のLEDを消灯することで、ハイビームを維持しながら相手車両の眩惑を抑える。細かな快適装備もハリアーが充実して内装の質感も高いが、価格もハリアーを約41万円上まわる。
ハリアーは豪華さに魅力があり、クラウンのような価値観を備える。SUVというより、居住性と積載性を向上させた背の高いステーションワゴンだ。RAV4とはコンセプトがまったく違う。
従って直接競争はせず、前述のようにRAV4が発売されてもハリアーは販売面であまり影響を受けない。
それでも割安感を競えば、装備の違いを補正して、RAV4が20万円程度は安い。いい換えればハリアーの上質な内外装は、20万円に相当するわけだ。
このほかRAV4は、ハイブリッドを含めて新しいパワーユニットを搭載していることも魅力になる。
CR-Vの買い得グレードは、1.5Lターボを搭載する4WD・EXだ(344万6280円)。2LエンジンのRAV4・4WD・Gに比べて24万円少々高い。
CR-Vの1.5Lターボは2.4Lのノーマルエンジンに匹敵する動力性能を発揮するから、この価格は10万円相当に換算できる。
さらにCR-Vは14万円相当のカーナビも標準装着したから、この2点を差し引くと、価格はRAV4と同等だ。
このように考えるとCR-Vは意外に買い得だが、カーナビまで標準装着したから価格を高めた。北米指向のインパネも、質感がいまひとつだ。2019年1~6月の月販平均は1600台前後で、直近を見ると約1000台になる。
ライバルとの戦いにもワイルドさと居住性のよさなど、ちょっと違った持ち味を発揮しているRAV4。この天下はいつまで続くだろうか?
このようにRAV4は、SUVの持ち味とされる悪路走破力と野性味を適度に強め、価格は割安感のある設定にして人気を高めた。
今後は販売促進に力を入れながら、大切に売り続けて欲しい。2016年のように国内販売を終了すると、ユーザーはトヨタから裏切られた気分になり、顧客満足度を下げてしまう。
クルマのユーザーには、ひとつの車種をフルモデルチェンジの度に乗り替える人が多い。それは人生の大切なイベントで、ユーザーの愛車に対する愛情は、日本の自動車産業の礎でもある。それを一番良く知っているのは、トヨタであるはずだ。
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