パワー面では将来のスポーツ心臓として期待できる
前回はトヨタの水素エンジン、パワー獲得のポイントとなる要素として、トヨタ自動車 パワートレーンカンパニー 第2パワートレーン選考開発部 主査の小川輝氏より3つをあげていただいたうちの過給機、筒内直接噴射について詳解した。今回は残りのひとつである燃焼室内の冷却の話から、まずは始めたい。
いろいろ分かってきた…トヨタ水素エンジン、その速さの秘密【前編】
水素エンジンの場合、燃焼温度が上がるほどに異常燃焼が起きやすくなるため、その克服は大きな課題といえる。一方で、燃焼温度が下がれば充填効率が高まりパワーが上がるのはガソリンエンジンの場合と同様だ。液体燃料であれば気化潜熱が使えるが、気体であっても燃料を吹けば多少は筒内冷却効果はあるという。
一方、EGR(排ガス再循環)は現時点では使っていないという。また、トヨタは水素エンジンにおける吸気ポート、インテークマニホールドへの水噴射の特許を出願しているが、今回のエンジンはほぼGRヤリスそのままということだから、これらも使っていないはずである。
水素エンジンに特化した開発がなされていないのは、今回は可能な限り少ない改造範囲で開発を行う狙いから。ただし、圧縮比に関しては「コメントを控えさせてください」とのことだったので、ガスケットの厚みなどによって調整されていると見ていいだろう。
まだまだ見えない部分は当然、たくさんある。けれどこの水素エンジンの概要、輪郭、少しずつクッキリしてきた気はしないだろうか? そして、特にパワーの面ではすでに十分、将来のスポーツ心臓として期待できるものが生まれつつあるという感じもする。
課題は燃費…かと思われたが?
無論、課題はまだまだ多い。特に、やはり燃費だ。前回のテスト走行同様、今回も約12~13周ごとに水素充填のためのピットストップを強いられていたから、まだまだガソリンエンジン車との差は大きいように見える。
「実際にはガソリンよりちょっと悪いくらいだと思うんです」
考えてみればライバルとなった市販車改造のレーシングカー、フィットやロードスターなどの燃費はおそらくリッター当たり4~5kmといったところ。市販車のスペックの3~4分の1といったところだ。今回の水素エンジン、おそらく水素充填も6~7割り程度の十分なマージンをとっていたはずで、そう考えれば4~5kgの水素で13周、60km弱を走っていることになる。となれば市販車では、すでに4~5kgで240kmは走れるというわけで、悲観するほど悪くもないかなという気がしてくる。
実際には、水素タンクの一層の高圧化、あるいは液体水素の使用なども幅広く議論されているのだという。液体水素は、気化潜熱が活用でき、しかもマイナス253℃ときわめて低温なだけに筒内冷却にも大いに効果を発揮するのだ。
その上で、さらにリーン燃焼を煮詰めていけば、燃費だってそこまで悪くないというものができるのではないだろうか。しかも、その水素はカーボンニュートラルで供給できる。ポジティブな要素が、いくつも並んでいる。
「一般的に、燃焼をリーンにしていくと水素はNOxが出なくなります。ですので触媒を暖める必要はありません。さらに、水素はカーボン(“C”)を含まないのでHCやCOは出ないですから。夢が膨らみますよね?」
NOxもCOもHCも出ないなら、触媒は要らない! 理論上、ストレートパイプでもよくなってしまうのだ。ますます気持ちのいいサウンド、歯切れいいレスポンスを楽しめる可能性、高いのである。
高回転域では異常燃焼との戦い…これからの進化に期待!
とは言え、話はそう単純ではない。水素エンジンは高負荷域が強いが、そこに高回転という要素が加わると異常燃焼との戦いとなってくる。低負荷域で使うならば燃料電池のほうが圧倒的に有利というから、おそらく将来的な水素の内燃エンジンでの使い方は、さほど高回転ではないが高負荷という領域を多用する用途になるだろうか。例えば都市間移動の大型トラック用エンジンなんて、ぴったりと言えるかもしれない。
いやしかし、せっかく内燃エンジンに多くのファンが抱いた、カーボンニュートラルの時代でもエンジンの音と吹け上がりを楽しめるという夢に対しては、それだけではちょっと寂しい。モータースポーツでの使用についても同様。困難を克服して、ゼヒ高回転域で水素エンジンの甲高いサウンド、今後も聞かせてほしい。そう言うと小川氏は、こう答えてくれた。
「いや、個人的にはそうですね。やるからには!」
決して得意な領域ではないからこそ、あえてレースという高回転高負荷域を多用するフィールドで“自虐的なところですよ”というくらい鍛えることに、大きな意味がある。あるいはモリゾウ選手はそこまで見越して、水素エンジンのレース参戦を決めたのだろうか?
いずれにせよ、まだまだ多くの可能性を秘めた水素エンジン。今後もスーパー耐久への参戦が継続されるならば、瞬く間に進化していくに違いない。いや、進化だけではなく、より水素の使用に特化したエンジンになったり、あるいは液体水素のようなチャレンジがあったりと、変化や発展も見られるかもしれないという期待も高まる。今後もこのクルマ好きにとっては目の離せない技術、追いかけていくつもりだ。
〈文=島下泰久〉
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みんなのコメント
トヨタの社員も可哀想だよな、ボンクラ社長の道楽に付き合わされてさ。