「今の仕事は大変ですが、熱量をもって取り組めるので、天職だなと感じています」
そう語る井上悠大氏(25歳)は、50年続く長い歴史をもつカー雑誌『CARトップ』で編集部員を務めている(※見出し画像のR32 GT-Rは、井上氏がプライベートで訪れた2018年のニスモフェスティバルの模様を撮影したときのもの)。
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カー雑誌業界はその担い手も購買層も40代~50代が多い業界であるが、夢かなって20代半ばにして転職し、その業界の飛び込んだ井上氏が記事を通して伝えたいこととは、果たして…。
カー雑誌『CARトップ』の編集部員という職業を通じて伝えたいこととは?
「僕は、“クルマの可能性は無限なんだ”ということを伝えたいです。なぜなら、僕の人生はクルマを通じて180度変わったからです」
井上氏が伝えたいことは「クルマの移動以外の価値」だという。クルマには、自分で好きなタイミングでどこへでも行ける手軽さがある。具体的な例として、鉄道では難しいであろう絶景のすぐ近くまで行けることもクルマで移動するからこそ実現可能だ。そして何よりもクルマを通じてこそ得られる、人との出会いや経験がある。
しかし、これらのクルマの価値は、実際には乗ってみるまで分からないのが難点だ。現実的な問題として、クルマを所有するにはお金がかかる。そのため、若い人がクルマを購入したいと考えた場合、多くの場合、ハードルが高いという現実がある。
筆者や井上氏をはじめとする20代は「単にクルマで移動する」だけの価値では、大金を払うことはできないのである。
「だからこそ、僕のようなメディアの人は、クルマの“移動”以外の魅力を伝えることで、読者の方に『お金を払ってでもクルマに乗りたい!』と思ってくれるような魅力を発信していきたいのです。クルマの移動以外の価値を提供する仕事は、クルマの楽しさを知っている者、つまりカーメディアがいちばん積極的にやっていくべきだと思います」
クルマの魅力を伝えたいと思ったきっかけとは?
井上氏が大学を卒業後に入社したのは動画制作会社だった。井上氏がそこで任された仕事は、本人がやりたいと思っていたそれとは少し異なっていたという。
「実は元々は、カメラマンになりたいと思っていたんです」
井上氏は、中学生の頃からカメラマンになることを志し、高校もカメラに通じる大学に入学するために学校を選んだ。さらに、井上氏はクルマ好きでもあったので、自分が将来なりたい「カメラマン」と、幼少期から大好きだった「クルマ」の両方に関わる、いわゆる「カメライター」になりたいと思っていた。
「この頃は、ベクトルが自分に向いていたんですね。カメラもクルマも、自分の夢と好きを叶える手段でした」
しかしそのベクトルは、現在も所有しているホンダ・シビック(EK9)との出会いを通じて徐々に変わっていったという。
転機になったのは、恩師である自動車ライターM氏との出会いだ。愛車を撮影してもらえるという出張撮影イベントに参加し、現地でいきなり声を掛けてきたのがM氏だった。
「イベントで取材を受ければ、業界の方から直接、仕事の内容や転職方法などを聞けるかもしれないと思ったんです。動いてみないと何もはじまらないと思って、勇気を出して参加してみました」
イベントではEK9(シビック タイプR)に乗っていたこともあり、運よくM氏からの取材を受けることができた。
最初は愛車であるEK9の話題が中心だったが、話が盛り上がるなかで、井上氏の「カメラマンとライターをやりたい」という思いや、「友達がクルマに興味をもっておらず危機感を感じている」ということ、「収入が少ないなかで大変だけど、他にはないクルマの楽しさを広めたいと思っている」ことをM氏に打ち明けた。
そこでM氏から勧められたのが、自動車雑誌業界への転職だったというわけだ。
その後、紆余曲折があり、結果として井上氏は見事「CARトップ」への転職を果たすことができた。
「僕はクルマを通じて180度人生が変わったんです。今のような仕事に就いたのも、シビックがあったから。だからこそ、それだけの魅力や無限の可能性を持つクルマの魅力を伝えたいんです」
今後の展望は?
井上氏は今後も「CARトップ」を通してクルマの魅力を発信していきたいというが、彼の野心はそれだけには留まらない。
「元々目指していたカメラマンのキャリアも歩んでいきたいと思っています」
井上氏はプライベートでもさまざまな写真を撮っている。
中には、アスファルトに刻まれたタイヤ痕にフォーカスし、タイヤ痕の写真だけをまとめた一風変わった写真集を販売したこともある。
将来は個展などを通じて、自分の作品を発信していきたいようだ。
総括
「クルマの楽しさを若者に伝えたい」という想いの実現は、紙媒体においても一筋縄ではいかないものだ。そんな制約があるなかで、自分の考えや想いを届けるために、様々な角度から「クルマの魅力を伝えるには?」という軸がぶれることなく記事を企画し続ける彼の姿勢からは、クルマの魅力をCarkichiという団体を通して映像で発信している筆者自身も学ぶことが非常に多かった。
これは自身に限った話しではなく、自動車業界に関わる者が学ぶべき姿勢なのではないか。
自動車業界を変えていくには、彼のような熱い想いを秘めた人間の弛まぬ努力が必要である。
[ライター/長尾 孟大・カメラ/井上 悠大&長尾 孟大]
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