クルマに囲まれた家に住む京大卒の自動車エンジニア
スズキ・アルトに魅せられた男がいるとの噂を聞いて訪ねた1軒のお宅。庭には5台ものクルマが置かれていた。そのうち1台のアルトはワイドボディ化され、パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムで活躍したツインエンジン・エスクードそっくりのエアロをまとっている。
いま買わなきゃ乗れなくなる! 年々タマ数が減少している名軽自動車「カプチーノ」のいま
オーナーのみっちーさんは、「モンスタースポーツ(旧スズキスポーツ)」ブランドで有名な、モンスター田嶋氏が率いるタジマモーターコーポレーションの社員。新卒で入社したスズキから転職したのだという。
みっちーさんとスズキ車の出会いは高校生時代。当時遊んでいたゲームに登場したV6エスクードパイクスピークの速さに衝撃を受けたのだという。そしてなんと、当時からもの作りへの探究心と行動力にあふれていたみっちーさんは、高校生ながらパイプを溶接したシャーシと芝刈り機のエンジンでエスクードパイクスピークのカートを作ってしまったのだ!
学業面でも明晰な頭脳を生かし、高校卒業後にはなんと京都大学工学部に合格。機械イジりがしたかったこともあり、自動車部に入部する。
自動車部員時代にはアルト以外にもホンダ・シティなどでジムカーナなどの競技に参加。そのときに、パワーとトレッド幅の大切さに気づき、アルトで実現しようとして作ったのがこの「アルトワイド」だ。
知り合いから譲り受けたという2代目アルトワークスのボディに、ヤフオクから8万円で買ってきたという4WDのワゴンRワイドのパワートレインを移植。これだけでも大変そうなものだが、百戦錬磨のみっちーさんとしては共通部品の多いワゴンRワイドからのエンジンスワップは大した問題ではなかったという。苦労を強いられたのはボディワークなんだとか。
エンジン搭載前のホワイトボディに人生初のフルスポット増しを実施し、4気筒エンジン搭載のためにボディも加工&補強。もちろん、ここまですべての作業はDIYで行っているというから驚きだ。この作業で得たノウハウは、現在のタジマでの設計職にも活きていると語る。
軽自動車を極めることでコストを抑えてクルマを研究
こうして製作したアルトワイドで、学生時代は学ドリ(全日本学生ドリフト王座決定戦)に参戦。現在は愛知県の池の平ワンダーランドで開催されている池の平ダートトライアルシリーズに参加しているという。10年ほど前に完成した車両ながらまだまだ改造はとどまることを知らず、取材時にもフルコン制御化を狙って作業が進められていて補機類やアクセルペダルまでもが外された状態だった。
このほかにも、前職のスズキとタジマのクルマ好き仲間と参加しているという軽耐久仕様のアルトや、ショートホイールベースによるアルトとの挙動の違いに興味があって購入したターボ仕様のツインなど、3台のスズキの軽自動車とともに暮らすみっちーさん。これまで総勢50台ものスズキ車を所有してきたという。
軽自動車の魅力について尋ねると、「土屋圭市さんやモンスター田嶋さんなどの伝説的なドライバーも、かつては100馬力以下かつ800kg以下のマシンで運転を学んでいました。速いクルマに乗れば運転が上手くなるとは限らないと思います。
チューニングに関しても、「純正で250馬力程度のエンジンを1000馬力にするのと、純正で64馬力の軽自動車のエンジンで200馬力を絞り出すことでは、必要となる技術は変わらないと考えています。なので、小さなクルマは比較的少ないお金で高い技術を学ぶ教材になると思っています。いまの僕は速くて高価なクルマに乗るより、技術を磨くことにもっぱら興味がありますね(笑)」と語ってくれた。
ほかにも、スズキ車は共通部品が多いため、同時期のワゴンRが現存する限りは古いアルトでも部品の調達に困らないことや、維持費が安いので浮いたお金でたくさんドラテクの練習に励むことができることも、アルトに乗る理由だという。
最後にみっちーさんに将来の夢を尋ねると、「やっぱりパイクスピークに参戦したいですね」。みっちーさんが設計に携わったマシンがパイクスピークを駆け上がるのも、そう遠くない話かもしれない……。
※本記事は雑誌「CARトップ2026年4月号」の記事を再構成して掲載しています
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