常磐道全線開通の真価
首都圏を起点とする主要路線のひとつに、常磐自動車道(常磐道)がある。埼玉県三郷市の三郷ジャンクション(JCT)を起点に、千葉県、茨城県、福島県を経て、宮城県亘理町の亘理インターチェンジ(IC)で終点を迎える。総距離は約300kmに及ぶ。
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1981(昭和56)年4月に最初の区間が開通して以来、順次区間が開通し、2015(平成27)年3月に常磐富岡ICから浪江ICまでが開通して全線開通となった。2025年3月には全線開通から10周年を迎え、これを記念した各種イベントも開催された。
全線開通による影響は大きく、10年間での経済波及効果は約3兆円に達するとされている。この効果は常磐道沿線の各県だけでなく、起点から関東甲信越地方、終点から東北地方の各地域にも及んでいる。
しかし、この3兆円という数字が本当に実効性のある成果かどうかは疑問が残る。いかに経済効果が大きくとも、建設費や維持費の負担、高速道路としての利便性の問題があれば、成果とはいい切れない。
常磐道が全線開通から10年でどのような影響をもたらしたのか、多角的に検証する必要がある。
東北道優先の建設背景
常磐自動車道は、初区間開通から全線開通までに実に34年を要した。沿道の住民をはじめ、多くの人がようやく開通したと安堵したことだろう。常磐道は、1966(昭和41)年に改定された国土開発幹線自動車道の予定路線に含まれていた。高速道路の歴史から見れば、かなり早い段階で開通が計画されていた路線である。では、なぜこれほど時間をかけて全線開通したのか。
最大の理由は、同じ首都圏と東北地方を結ぶ主要路線である東北自動車道(東北道)との兼ね合いにある。東北道は、埼玉県川口市の川口ICを起点に、青森県青森市の青森ICで終点を迎える。東北道と常磐道は、起点は近接しているものの、終点は宮城県付近で相互に距離が近い路線だ。東北道は内陸部を走るのに対し、常磐道は海岸沿いを通っている点が特徴である。
東北道が優先された理由は主にふたつある。第一に、東北道は都市規模の大きな地域を通る路線であること。第二に、常磐道の建設が予想以上に難航したことである。東北道は1972年に初区間が開通し、1987年には全線開通を果たしている。つまり、常磐道より常に優先して建設・開通が進められてきた。
さらに、常磐道の全線開通間近の2011(平成23)年3月に東日本大震災が発生し、沿道に大きな被害が出た。これにより、既に開通していた区間は長期間通行止めとなり、2011年度と2012年度に開通予定だった区間の施工スケジュールも見直しを余儀なくされた。
こうしたさまざまな経緯を経て、常磐道は2014年に全線開通した。この過程で、利用者や建設・管理関係者に多くの教訓をもたらした。特に東日本大震災の復興支援では、道路が単なる移動手段にとどまらず、緊急時の復旧手段としての役割も重要であることを示した。
現在、常磐道は東北道との相互補完関係にある。どちらかの路線で渋滞や通行止めといったトラブルが発生した際には、もう一方が迂回路として機能する。この選択肢の増加は、利用者にとって大きなメリットとなっている。
物流拠点3倍増の急成長
常磐道の全線開通による経済波及効果は約3兆円に上るとされている。年間では約3000億円の効果を生み出しているという。この3兆円がどのように創出されているのかが関心を集めるところだ。
常磐道沿道の5県における経済波及効果を産業別に見ると、以下のような割合となっている。
・道路貨物輸送:31.0%
・金融・保険・不動産:11.0%
・商業・観光:9.0%
・電力・ガス・水道:7.0%
・建設:7.0%
・製造業・工業:6.0%
・情報通信:3.0%
・道路旅客輸送:3.0%
・農業:0.2%
・その他サービス・公務:23.0%
道路貨物輸送が全体の約3割を占め、経済波及効果の大黒柱となっている。常磐道の開通により沿道には多くの物流拠点が生まれた。物流拠点数の年次推移は以下の通りだ。
・1999(平成11)年:34か所
・2014年:95か所
・2024年(予測):187か所
1999年から2024年にかけて約6倍に増加しており、急速な発展がうかがえる。特に起点の三郷JCTから圏央道との分岐点であるつくばJCT付近の増加が顕著だ。
物流輸送手段に占める自動車の割合も年々増加している。常磐道全線開通前後の2014年度と2022年度のデータを見ると、千葉県から宮城県間では37%から53%へ、茨城県から宮城県間では52%から67%へと大幅に伸びている。この伸びは常磐道の影響が大きいと考えられる。
観光業への影響も見逃せない。常磐道沿道の自治体では、2013年から2019年にかけて入込客数が約1.3倍に増加している。沿道には以下のような魅力的な観光地が点在する。
・茨城県つくば市:筑波山
・茨城県牛久市:牛久大仏
・茨城県ひたちなか市:ひたち海浜公園
・福島県いわき市:スパリゾートハワイアンズ
このように常磐道の開通は沿道経済に大きく寄与しているが、経済波及効果の算出は常磐道の整備の有無による実質生産額の推計やETC2.0データを基にした利用者の圏域分析などを参考にしているため、あくまで推測の数字であることを留意しておく必要がある。
常磐道開通が生んだ2880億円効果
常磐道の開通は、特に茨城県、福島県、宮城県の沿道3県に大きな影響を与えた。経済波及効果の額をみると、茨城県が約1504億円、福島県が約357億円、宮城県が約576億円となっている。全体の年間経済波及効果は約2880億円であり、沿道3県が約85%を占めている計算だ。
もっとも大きな効果は
・物流業
・観光業
の促進である。常磐道沿いでは物流拠点の建物を頻繁に目にする。これまで物流拠点がなかった茨城県北茨城市や福島県相馬地区に新たな拠点が誕生し、地域経済の発展に寄与している。
また、東日本大震災と原子力災害からの産業回復策として、2017年に「福島イノベーション・コースト構想」が国家プロジェクトとして始動した。常磐道の開通と避難解除により、事業所数は最大で35倍、従業員数は最大で17倍に増加した。
全線開通後も減少続く入込客数
常磐道の全線開通により観光業は一時的に好調だったが、2020年のコロナ禍で急激に衰退した。2020年の沿道自治体の入込客数は、全線開通前の2013(平成25)年と比べ約7割にまで減少している。
福島県浜通り地区の入込客数をみると、2010年は約1615万人だったのに対し、2023年は約1186万人にとどまる。2010年のほうが多いのは、常磐道がまだ全線開通しておらず、北部は高速道路が通っていなかったにもかかわらずである。
高速道路が開通すれば必ず観光業が潤うとは限らない。地元自治体や観光関係者の努力はもちろん、利用者側も地域に興味を持ち、情報収集に敏感になる必要があるだろう。
また、全線開通で常磐道利用者は増加したが、常磐道が単なる目的地への経由路線となっている側面も否めない。都市規模の差から首都圏や仙台都市圏の利用が増えるのはやむを得ないが、常磐道を単なる通過点に終わらせない取り組みも求められている。
東北道と常磐道の棲み分け進展
常磐道の全線開通により、東北道とのダブルネットワークが形成されたことは大きな意味を持つ。東京から仙台への高速道路移動では、全線開通前は約9割が東北道経由だったが、開通後は東北道経由が約6割、常磐道経由が約4割に変化した。
常磐道のメリットは、
・交通量が全体的に東北道より少ない
・冬季の積雪リスクがほとんどない
ことにある。東北道は山岳地帯を通る区間が多く、冬季は積雪による通行止めや規制が発生しやすい。一方、常磐道は主に海岸沿いを走るため、積雪による影響を受けにくい。
次に、東北地方の他路線における高速道路開通の経済効果をみてみる。1991(平成3)年に初区間が開通し、現在も延伸中の秋田自動車道(秋田道)は、1994年に東北道の北上JCTと接続した。これにより、東北道から秋田市までがつながった。
2023年3月、NEXCO東日本と秋田経済研究所が秋田道の初区間開通から約30年間の経済波及効果を試算したところ、福島県を除く東北5県で計約7400億円にのぼると報告された。そのうち秋田県への効果は約5200億円に達する。
常磐道の終点である宮城県の亘理ICは仙台東部道路と直結している。仙台東部道路は仙台市の仙台港北ICで終点を迎え、仙台港北ICは三陸自動車道(三陸道)と直接接続している。三陸道は三陸縦貫自動車道・三陸北縦自動車道・八戸久慈自動車道の総称で、三陸沿岸道路と呼ばれる。青森県八戸市の八戸JCTがその終点だ。
岩手県では三陸沿岸道路の開通により、年間約540億円の経済波及効果が見込まれている。三陸沿岸道路は東日本大震災後の復興道路として建設され、主に三陸地域の復興に必要な資材や物流の促進を目的としている。
秋田県や岩手県の例から、高速道路の開通が地域発展に一定の成果をもたらしていると評価できる。ただし、これらの数字はあくまで経済波及効果という不確定要素が大きい試算であることを忘れてはならない。現実的な成果に結びつけるための取り組みが今後重要になるだろう。
暫定2車線区間と施設不足の影響
常磐道の全線開通から10年が経過したが、さらなる発展に向けて解決すべき課題が残る。まずは物流輸送の担い手であるトラックドライバーに配慮した道路や施設の整備が必要だ。
現在、福島県の広野ICから宮城県の山元ICまでは暫定2車線のままである(2025年6月時点)。また、サービスエリアやパーキングエリアは他の主要路線と比較して不足している箇所が多い。
今後は電気自動車や自動運転車の普及が進む見込みであり、それらに対応した設備や道路構造の整備も急務となる。
常磐道はトンネルの多い路線でもある。特に茨城県日立市近郊は海岸沿いを走りながら連続したトンネルが設置されている。これにより道路維持費が増加する可能性が高い。
整備が必要な箇所も多いことから、整備費・管理費・維持費を効率的に運用していくことが求められる。
物流連携強化による成長戦略
改めて考えると、常磐道全線開通による約3兆円の経済波及効果を、いかに現実的な成果に結びつけるかが最重要課題である。
そのためには、物流のさらなる促進が最優先となる。
常磐道周辺には鹿島港、大洗港、仙台港といった主要港湾や、茨城空港、仙台空港などの空港がある。これらの運輸拠点を効果的に連携させることが、常磐道のさらなる成長に不可欠である。
総じて、常磐道の将来展望には大きな期待がかかる。(都野塚也(ドライブライター))
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みんなのコメント
1981年に最初の区間が供用されたときの計画ではいわきまでの建設だったので、当初計画区間の全線開通までは7年でありそこまで長期間かかっていません。
1987年に仙台市までの計画が盛り込まれますが、建設はかなりスローペースで、1999年のいわきIC-いわき四倉ICの開通から全線開通までは15年かかっています。
従って、当初区間の全線開通までは7年、計画変更後の全線開通までは15年、というのが正しい表現で、34年は誤りと言えます。