八重山諸島の島々
筆者(碓井益男、地方専門ライター)は、これまで当媒体で「佐渡島と新潟の「この場所」に、なぜ橋を作らないのか?」など、架橋に関する記事を執筆してきた。今回は、八重山諸島に注目する。八重山諸島(八重山列島とも呼ばれる)は、沖縄県に属し、南西諸島西部に位置する島々で、石垣島を中心に12の有人島と多くの無人島が点在している。
【画像】「えぇぇぇぇ!」これが35年前の「石垣島」です! 画像で見る(9枚)
そのなかで、西表島は沖縄本島に次いで2番目、石垣島は3番目に大きい島だ。行政区分では石垣市、八重山郡竹富町、同郡与那国町の1市2町が該当するが、今回は石垣島、竹富島、西表島を中心に取り上げる。
・石垣島(石垣市)
・竹富島(竹富町)
・小浜島(竹富町)
・西表島(竹富町)
は、比較的近い距離にあるにもかかわらず、橋は存在しない。これらの島々への移動はすべて船を利用することになり、石垣島のユーグレナ石垣港離島ターミナルから出発する。竹富町観光協会のウェブサイトによると、移動時間は石垣港から竹富島まで10~15分、小浜島まで20~30分、西表島まで35~60分だ。
これらの島々への架橋構想は、1968(昭和43)年に米軍占領下で提案された。当時、沖縄では日本への復帰に向けた動きが加速し、その中で復帰後の経済振興プランも政財界で多く提案されていた。沖縄返還協定は、1971年に調印されることとなった。
架橋計画で描かれる新産業地図
石垣島と西表島間の架橋構想が登場した背景には、八重山諸島の開発遅延がある。この構想は1968年1月6日号の『琉球新報』に大きく報じられ、記事は「西表島に“夢のかけ橋” 八重山総合開発の青写真」と題された。記事の冒頭では、八重山が資源の多様性に恵まれながら開発が遅れていることが指摘され、次のように記されている。
「琉球列島で、いまもっとも資源の多様性に恵まれながら開発が遅れているのは、なんといっても八重山だ。“未開の宝庫”西表島を抱く日本最南端の八重山諸島――。その開発は幾度もくり返し叫ばれてきた」
この記事を執筆したのは岡田輝雄(八重山支局長)。文中には「青写真づくりに協力して頂いたのは八重山の浦本寛二(八重山地方庁長)・石垣喜興(石垣市長)・白保生雄(竹富町長)」との記載があり、これは『琉球新報』側から持ちかけられた企画であると推測される。架橋プランの概要は次のとおりだ。
「石垣港から西表島東北部海岸まで約20キロ、途中の海は潮流がウズ巻き、波浪が高く直通はムリ。そこで、リレー式架橋が考えられる。石垣港からリーフ伝いに竹富島へ。竹富島から再びリーフ伝いに小浜島へ。小浜から西表島の小離島・由布島へ。由布から西表本島は陸続きなので問題ない。(中略)技術的に困難ではあるが、不可能ではない。橋の専門家も「できる」と判断している」
技術的な説明は簡略化されており、「橋の専門家」が誰なのかは不明だが、この記事の主張は資金調達が唯一の障害だとしている。記事では、架橋に必要な予算を1mあたり1000ドル(当時1ドル = 360円)とし、総額2000万ドルを見込んでいる。また、この費用は毎年1万人の観光客がひとりあたり50ドルを支払えば60年で償還可能だと計算されている。
この記事の大半は、架橋後の開発構想について詳述している。具体的な構想は次のとおりだ。
・西表島を横断するアスファルト道路の建設
・浦内川に3000キロワットの水力発電所を建設
・西表島各地に干拓を実施し、大規模機械化農業で水田を運営、米を本土に輸出
・毎年2万頭の肉牛を飼育し、そのうち5000頭を本土に輸出
・竹富島~小浜島周辺に海中公園を整備
・「ツリ・マニア(原文ママ)」向けの釣り観光を振興
これらの構想は、高度成長期にしばしば見られた夢の開発プランの典型である。
サンゴ礁破壊と架橋計画の真意
当時の行政は、この構想を単なる夢物語ではなく、真剣に実現すべき計画と捉えていた。
日本科学技術振興財団が発行していた月刊誌『日本の科学と技術』1971年5月号には、科学技術庁資源研究所調査官の尾崎清文氏が
「沖縄の石西海上道路構想の意義」
という論文を寄稿している。この論文では、当時の国内フェリー需要を踏まえ、将来的にカーフェリーを使った国際観光ルートが活性化すると予測している。実際、クルーズ船の発着が増加している現状を見ると、この見解は間違いではないといえる。さらに、石垣島と西表島を結ぶ架橋が、日本を拠点とした国際観光ルートの重要な一環として必要だと強調されている。
論文では、琉球新報に掲載された内容よりも詳細な架橋計画が述べられている。具体的には、石垣島から西表島までの道路全体は約33kmで、そのうち海上部分は26km、陸上部分は7kmとなる。また、小浜島から西表島間は水深約20mの深さがあり、大規模な橋梁が必要と推定されている。海底地形や気象の調査が必要とはいえ、架橋の実現に向けた課題についても明確に言及されている。
「石垣島と西表島間に発達しているコーラルリーフ(注:サンゴ礁)によって囲まれる海面は石西礁湖と呼ばれ、波静かな内海である。構想路線の大部分はこの内帯を通るもので、外帯のリーフは常に台風の激浪に対し天然の防波堤になっている」
『琉球新報』でも「リーフ伝に」という表現が使われていたが、この計画はサンゴ礁を破壊し、大規模な架橋を実現することを目的としていた。現代の自然保護の観点から見ると、非常に大胆な計画であったといえる。しかし、この論文では、サンゴ礁を破壊してでも橋を建設する必要性について次のように説明している。
「西表島と石垣島の交通機関は、現在満潮時を利して16トンの小型木造船が1日1就航しているにすぎない。その所要時間は2時間30分で、海上が少し荒れると欠航をよぎなくされる。海上道路は、台風時を除けば時速100キロとして20分で救急車、スクールバス等を運行することができ、西表島の現人口2800人が無医地区から、また僻地教育から解放されることになる」
現在、石垣島から西表島への航路は、大原港行きが1日6便、上原港行きが4便の運航である。この状況を踏まえると、西表島は
「絶海の孤島」
のような印象を受ける。生活水準を向上させ、孤立から脱却するためには、環境や豊かな自然を重視する余裕はないというのが、当時の主流の考えだっただろう。
官民連携で進展した海上道路構想
この論文で注目すべき点は、1968年に石垣市の石垣喜興市長が「石垣島・西表島を結ぶ海上道路建設に関する意見書」をまとめたことだ(参考文献として示されているが、今回の調査では発見できなかった)。これは単なる「あったらいいな」という程度の架橋計画ではなかった。
架橋に向けた動きは、官民ともに着実に進められていたようだ。復帰後の沖縄海洋博に先立つ1972(昭和47)年1月、沖縄海洋博八重山誘致推進協議会は、海上道路などの事業を政府に要請することを決定している。『八重山毎日新聞』1972年1月8日付けの記事によれば、海上道路を含む四つの構想が報じられ、構想は次第に拡大していた。
・海上道路の建設
・石垣島と竹富島間に人工島を造成し、海洋レジャーセンターを設置
・人工島に国営海洋研究所を誘致
・人工島に熱帯こども園を設置
その後、1975年に開催された沖縄海洋博は、1971年に復帰記念事業として企画された。当時、開催地は未定で、八重山地域も候補地として検討されていた。この構想は、その後の沖縄海洋博開催に向けて示されたものであろう。ただし、現存する資料が限られているため、海上道路を含む具体的な構想の詳細は明らかではない。
石垣島架橋計画の現実味
もうひとつ重要な資料が、沖縄県公文書館に所蔵されている1971(昭和46)年2月10日付けの八重山観光協会から屋良朝苗主席宛に提出された陳情書である。
この陳情書は、復帰後の沖縄振興計画に八重山群島を「一大観光ゾーン」として位置づけることを求める内容で、具体的には石垣空港の拡充や観光会館の建設とともに、海上道路の建設も提案されている。この文書には、他の資料には見られない記述も含まれている。
「道路の技術面につきましては建設省土木研究所基礎研究室長吉田巌氏の調査でも可能性が認められております。唯基礎調査がなされるのが先決であると言われております。つきましては熊本県天草五橋の例にならい離島振興法を主軸として推進すれば実現するものと信じておりますので個別の御配慮を賜り(以下略)」
おそらく『琉球新報』が「橋の専門家」として取り上げていたのは、この吉田氏である。吉田氏は、福岡県の若戸大橋や長崎県の西海橋の設計・施工を担当し、本四連絡橋の基礎調査にも関わったことで日本の建設史に名を残した橋梁の権威である。このような人物が関与していたことから、石垣島と西表島間の架橋計画が単なる夢物語ではなく、実現の可能性が高い計画であったことが理解できる。
しかし、このような積極的な動きがあった後、資料には架橋計画に関する情報がまったく見られなくなる。その理由は不明である。
架橋提案の行方
かつては壮大な計画に過ぎないと思われていた架橋計画だが、小浜島~西表島間については何度も架橋構想が提案されてきた。
最新の提案は2023年5月、八重山建設産業団体連合会が地域住民の利便性向上を目的に竹富町に提出したものである。
しかし、この架橋提案について、その後の進展は見られない。
豊かな自然が観光資源となっている現在、利便性を重視した架橋の実現可能性は果たしてどれほどあるだろうか。
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海流や船の通行、コストパフォーマンス、全く考慮なし。