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売り出し中の人気モデルを、なぜクルマ専門の僕が撮ることになったのか?

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売り出し中の人気モデルを、なぜクルマ専門の僕が撮ることになったのか?

「文と写真」は楽しい!!


岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第173回

価格は31億円!? 「ロールス・ロイス」が製造した究極のフルオーダーモデルとは?


文章を書くのはもちろん好きだが、写真を撮るのも好きだ。仕事柄、世界を旅して、世界を観る機会に恵まれたことも、シャッターを多く押す引き金になったのだろう。

そんなこともあって、「文と写真」の原稿は少なくない。記念すべき初の「文と写真」は、、、八重洲出版『ドライバー』誌の編集部に入るべく、「入社試験を受けた」時のもの。

入社試験とはいっても、いたってお手軽。モータースポーツ・イベントの取材に行って、写真を撮って、文章を書いて、割付をして、、、という、一連の作業が試験代わりだった。

ちなみに、僕はもともとシナリオライター志望。その勉強もしたし、テレビ局の入社試験にも合格した。このことは前にも書いたが、人生計画は順調に進んでいた。

しかし、幸か不幸か、就職時期に照準を合わせたかのように(大学卒業1年前の1963年)初の日本GPが開催。心は大きく揺れた。

そして翌1964年、第2回日本GPを前にして、シナリオライターへの道も、テレビ局への就職もキッパリ捨てた。同時に、自動車雑誌の編集者になることを決めた。

たまたま父親の知り合いがドライバー誌の編集長と懇意だと知り、紹介してもらうことに。そんな流れで、上記の入社試験を受けることになったということだ。

当時の僕は、ジムカーナやヒルクライムにもよくエントリーしていたし、日本GPに触発されて毎週のように鈴鹿通いもしていた。だから、モータースポーツ関係者に知り合いは多く、あれこれ話も聞けたし、取材はうまくいった。6ページくらいは優に埋められそうなほどネタは集まった。

2ページの記事は難なく書けた。写真もOKだった。、、、で、試験合格!  クルマの物書き稼業はこうしてスタートした。


もちろん、通常の取材はカメラマンが同行する。しかし、旅、とくに海外の旅ではカメラマンは同行せず、僕が写真も撮った。

最初の「写真付き大仕事」は世界一周の旅。親からプレゼントされた個人的な旅で、ドライバー編集部には「記事化すること」を条件に許可をもらった。1964年のことだ。

LA、NY、パリ、ローマ、ロンドンを2カ月ほど旅した。クルマ好きには憧れの地を、レンタカーや広報車で走り回った。ロンドン以外は右側通行だが、難なく順応できた。

クルマを中心にした旅の記事は、多くの読者から拍手で迎えられた。不安だった写真も、なんとかクリアできた。いい経験ができた。3年半ほど編集部生活を送った後フリーになったが、ドライバー誌で経験した「文と写真」は後々にも大いに役立った。

上記のような旅物、、、とくに海外の旅の記事依頼は「文と写真」の依頼が多かった。その延長線上で増えたのがPR誌の仕事。新型車を海外で走らせてインプレッションを書き、同時に、様々な光景を背にした写真も撮るということだ。

クルマが提案するライフスタイルをテーマに撮ることもあった。イメージを膨らませ、具体的なシーンに結びつける作業は大変だったが、楽しくもあった。

インプレッションをとる(走る)のに加えて写真も撮るのは、その分緊張感を保たなければならない時間が増える。でも、それを重荷に感じたことはない。要は、クルマを走らせることも写真を撮ることも「どっちも好き!」だからなのだろう。


そんな中で強く思い出に残っているひとつが、バルセロナ(スペイン)からベルゲン(ノルウェイ)まで走った3500kmの旅。10日間ほどの旅だったかと思うが、発表前のクルマを走らせ、写真を撮った。

発表前だから、いわば「極秘段階」のクルマ。なので、都市部を通過するときはトランスポーターに載せて身を隠した。

極秘段階のクルマを海外で走らせるのは、とくに珍しいことではなかった。車両開発にもあれこれ関わっていたので、開発過程での試乗を海外で行うのは馴れていた。

しかし、スペイン、フランス、ドイツ、デンマーク、ノルウェイと、5カ国 / 3500kmにわたって極秘車両で走る、、、といった経験は他にない。南の国から北の国へ、、、お国柄も含めた日々の移ろいを観るのは楽しいものであり、単調なドライブから救ってもくれる。

それぞれがヨーロッパというククリの中にある国々。だが、国境を越えると、街も、人も、道も、自然も、、、その姿を表情を大きく変えるということだ。

「国境を越えると変わる」といえば、食にも当てはまる。飛行機でピンポイントの移動をしていると、食が変わるのを無意識に受け入れるような節がある。、、、が、クルマで国境を越えると、食の変化はけっこう意識する。

僕は、ゲテモノ以外ならどんな食事でも受け入れられる。けっこう便利な体質だ。そんな僕が、国境の越え方で食の変化を意識させられる、、、これは面白い体験だった。

ノルウェイはオスロからベルゲンまで、国を横断するように走った。季節は秋。紅く色づいた山や森はほんとうに美しかった。そして氷河は、壮大な地球の物語を語りかけてくれた。

欧州縦断3500kmの旅、、、その「文と写真」はPR誌の大特集になった。大切な思い出とともに、仕事部屋の書棚に数冊置いてある。


「文と写真」の仕事は刺激的でもある。中でも「特別に刺激的だった!」のはカタログの仕事だ。モノがモノだけに、文だけでなく「写真も」とのオーダーには驚いた。

もちろんクルマのカタログではある。が、僕が担当するのはクルマの紹介ページではない。そのクルマを通しての「ライフスタイルを表現してほしい」とのことだった。表1と表4の写真を含めると、28ページのカタログ中、16ページを僕の「文と写真」で構成するというのだ。

メーカーからの提案の中には、モデルさんの名もあった。当時、売出し中の人気モデルさんの名が、、、。これにはそうとうビビった。

でも、やりたかった。「カメラマンはド素人ですがいいですか?」と、モデルさん側に確認してほしいと頼んだ。返事はなかった。でも、スケジュールはそのまま進んだのだから、「いいですよ!」ということだったのだろう。

撮影場所も時間帯も決められていた。僕は言われるままに、カメラバッグをもって現場に行くだけだった。撮影場所は、年季の入った屋敷を改築した南青山のレストランと表参道(早朝に撮影)の2カ所。

現場には、脚立とか、はしごとか、反射板とかの諸々を積んだ広告代理店の中型バンが。スタッフも5~6人きていた。雑用を手伝ってくれるということだった。

モデルさんとマネージャーさんには、「僕はこうした経験が皆無で、シャッターを押すことしかできません。なので、動きはすべてお任せします」、、、とお願いしたのだが、笑顔で頷いてくれた。

マネージャーさんは、「岡﨑さんの記事はよく読ませていただいています。写真も見せていただいています。ご心配なさらないで大丈夫ですよ!」と言ってくれた。このひと言で、少し肩から力が抜けた。

モデルさんは、美しい身のこなしと様々な表情を見せながら、カメラの前でポーズをとり続けてくれた。僕はただシャッターを押すだけでよかった。きっと、関係者が、僕にでも合わせられる人選をしてくれたのだろう。ほんとうに有り難かった。

カタログの仕上がりはよかった。楽しく明るいライフスタイル表現ができた。メーカー担当者からも「よかったですよ! ありがとうございました!」とのうれしい言葉を頂いた。そして、僕には「一生の思い出!」ができた。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト


1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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