踏切での逆ギレ事件
鉄道は、単なる移動手段ではない。そこには、技術、歴史、文化、そして人々の記憶が凝縮されている。しかし、近年、一部の鉄道オタクによる過激な行為や偏った言動が、この豊かな世界を歪めてはいないだろうか。本連載「純粋鉄オタ性批判」では、本来の鉄道趣味の姿を問い直し、知的好奇心と探究心に根ざした健全な楽しみ方を提唱する。万国の穏健派オタクよ、団結せよ!
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※ ※ ※
筆者(北條慶太、交通経済ライター)は全国各地の鉄道現場を歩くなかで、近年、看過できない光景にたびたび遭遇している。駅構内の踏切付近で立入禁止区域に進入し、それを制止しようとした鉄道事業者の社員に対して、逆上し挑発的な言動を取る撮影者が目立つ。ある現場では、
「車両を撮ってやっている」
「鉄道を盛り上げているのに」
と主張する人物に出会った。鉄道への貢献を自認しているようだが、これは明らかに誤った自己認識である。撮影行為そのものが、公共空間の秩序を脅かす危険と隣り合わせであることを理解していない。
別の現場では、遮断機から身を乗り出して撮影し、運転士に注意された「撮り鉄」に遭遇した。この人物も半ば逆上し、
「突き出したいなら突き出せばよい。俺たちがいるから鉄道も盛り上がる」
と語った。耳を疑う発言だった。こうした行動を、もはや一部の「例外的な逸脱」と片づけることはできない。背後には、
・鉄道オタク文化の変質
・SNS時代の承認欲求
といった、より複雑な構造が潜んでいる可能性がある。本稿では、こうした行為の背景に何があるのか、そして業界としてどのように向き合うべきかを考察する。
「貢献意識」の裏にある主観と誤認
筆者は、鉄道の現場ではこうした認識や行動が一部の鉄道オタクの間で共有されているのではないかと感じるようになった。あくまでも一部であり、「大半は穏健派」である。その背景を探るため、さよなら運転や珍しい車両の走行時に発生した「迷惑撮り鉄」に関するネットニュースや報道のコメント欄を調べてみた。
結果として、「このような行為をする人たちと一緒にされたくない」という声が多数派だった。一方で、
「もっとファンサービスを提供すべきだ」
「オタクを敵視するのはおかしい」
「鉄道を盛り上げているのはこちら側だ」
「情報非公開や高額な撮影会参加費はオタクを軽視している」
といったような意見も少なくなかった。これらを整理すると、一部のオタクには
「自分たちは鉄道に貢献している」
という独特の意識が根強くあるといえる。本来であれば、安全を最優先し、赤字の累積やコスト増に苦しむ鉄道事業者の立場を理解する局面であるはずだ。しかし実際には、「自分は鉄道の味方」という思い込みが先行し、
「自分がいるから鉄道は盛り上がっている」
との主張が見え隠れする。こうした歪んだ意識が、現場でのルール軽視や、事業者による現実的判断との衝突を生んでいる。
「オタク = 鉄道支援者」
という構図が、実態とは異なる前提のもとで形成されている。この誤った前提こそが、オタク全体に対する批判や不信感を招いている。
事業者の判断軸由
鉄道事業者には、単に列車を動かす以上の社会的責任が課されている。法令を遵守し、安全第一の運行で事故を防ぐこと。効率を高めて収益を確保し、社員を守ること。これらは事業者として当然の責務だ。
2024年8月9日付の日本経済新聞によれば、大手鉄道18社の2024年4~6月期連結決算では、15社が前年同期比で純利益を増やした。だがこれは、運賃改定やコロナ禍からの人流回復による一時的な増収によるもので、先行きは依然として不透明との見方が一般的である。
また国土交通省のデータによると、2023年度は全国96社のうち80社、すなわち約8割の地域鉄道(中小私鉄・第三セクターを含む)が、鉄軌道業の経常収支ベースで赤字を計上した。モータリゼーションの進展、少子高齢化の加速により、状況はさらに厳しさを増すと見られている。
こうした経営環境のなかで、鉄道オタク向けイベントの有料化は避けられない措置となっている。背景には
・混雑緩和
・運営コストの回収
・一部の偏狭でネット上でのみ活発な若年層オタクの抑制
といった狙いもある。真に鉄道を愛する立場であれば、こうした経営の現実に目を向けるべきだ。人口減少、エネルギーコストや人件費、車両維持費の高騰。こうした課題に直面するなか、鉄道事業者は収益の多角化にも取り組まざるを得ない。
オタク側も、そうした経営課題に対してアンテナを張り、現実を踏まえた支援のあり方を模索すべきだろう。鉄道への愛は、現場の声と経営の実情に対する理解をともなってこそ本物である。
オタクと事業者の“すれ違い”
前述の通り、鉄道事業者は安全を最優先に、経済的に効果的かつ効率的な運行を重視する。それが事業運営として正しい方向性である。
しかし、その判断が鉄道オタクの期待と一致しないケースも少なくない。たとえば、オタクが望む車両同士のすれ違いが、事業者側の運行計画で実現しない場合がある。結果として、希望する構図での撮影が叶わず、不満の声があがる。
「ファンサービスはどうなっているのか」
といった批判が、事情を知らないままSNS上で拡散されることも多い。
鉄道事業者にとっては、本意が伝わらないまま誤解が広がる構図である。情報伝播の速さと断片性が、その傾向に拍車をかける。
そもそも、鉄道事業者はサービス提供者、オタクはサービス受益者という非対称な関係にある。そこに立脚せず、共存や対話の文脈に持ち込みすぎると、両者の認識はすれ違い続ける。いま必要なのは、わかり合う姿勢ではなく、
「現実の制約と責任の上に立った相互理解」
である。鉄道の未来をともに考えるためにも、その冷静な距離感が不可欠だ。
趣味の公共的側面と民間事業のバランス
鉄道は、文化的・歴史的な価値や技術遺産としての意義を含め、多面的な社会的価値を持つ。こうした価値を維持するには、鉄道事業そのものが経済的に成り立っている必要がある。
・公共財としての鉄道
・商業施設としての鉄道
は、実際に共存している構造だ。ただし鉄道オタクは、自らの趣味的達成を重視する傾向が強く、鉄道の社会的役割や公共性に対する理解が乏しい。そのため、期待と事業者の実務の間には構造的なすれ違いが生まれる。
筆者自身も鉄道を趣味として愛しているが、同時に、鉄道事業者が担う社会的責任や公共財としての役割も重視している。だからこそ、趣味人としての情熱や知識を、鉄道の社会的価値を高める方向に活かすべきだと考えている。
鉄道への愛情や熱量が、事業者との共存につながり、結果的に鉄道そのものを活性化させる。それが理想的な関係性である。ただし現状では、そうした共創の場が限られているという課題もある。
オタクと鉄道会社の共創モデルへ
鉄道オタクが鉄道事業者の立場や事情を慮り、鉄道事業者もオタクの思いや熱意を正しく理解する。双方が歩み寄り、鉄道をともに育てる場を増やすことが必要だ。
芸能界におけるファンミーティングや、名車の維持に活用されるクラウドファンディング、鉄道博物館での共同イベントなどは、そうした合意形成の場として活用できる。まずは鉄道事業者が自らの考えや制約、運営上の事情を発信する。あわせてオタクも、鉄道事業にどう貢献できるかを考え、発信することが望ましい。
オタクの役割を見直すときが来ている。受け身の鑑賞者ではなく、能動的な協力者としての立場を確立するべきだ。将来の鉄道について、利用者の代表とも言えるオタクと事業者が対話する場を創り出すこと。それこそが持続可能な鉄道の姿に近づく一歩となる。
オタクの最大の武器は、知識と情熱である。それを社会的に活かす仕組みづくりが、今求められている。
熱意と配慮のバランスをどう取るのか
鉄道オタクの行動は、鉄道の未来に直接影響を及ぼす。自己満足的に盛り上げてやっているという姿勢から、鉄道事業者とともに盛り上げているという関係性へと転換する必要がある。そのためには、そうした雰囲気づくりを社会全体で進めていくことが求められる。
鉄道事業者側にも、現場の実態を理解してもらうための情報発信が欠かせない。さらに、オタクと将来の方向性をともに考える場や機会を積極的に設ける努力も必要だ。
オタクの持つ知識と情熱は、業界にとって貴重な資産である。それを活かすには、鉄道事業をともに考える対象と捉える視点への転換、すなわちパラダイムシフトが不可欠だ。オタク自身も一方的に是非を語るのではなく、事業者の発信に耳を傾け、対話を重ねる姿勢が求められる。
いま問われているのは、善悪のラベリングではない。鉄道事業者とオタクが、新たな関係性をどう構築していくかである。
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みんなのコメント
一般人にしてみたらただの邪魔者。
>「車両を撮ってやっている」
撮ってくれなんて頼んでない。
>「鉄道を盛り上げているのに」
盛り上がってなんかいないし場合によっては撮り鉄がイベントに水を差して今後のイベント運営に支障をきたしたりしている。
>「ファンサービスはどうなっているのか」
お客さま(乗客)へのサービスが一番なので。
ってところかな。
世間一般も鉄道会社と同じ考えだろうな。