■なぜ「ワゴンR」には5速MTがあるのか?
クルマの変速機には、ドライバーが自らシフトレバーとクラッチを操作するMT(マニュアルトランスミッション)と、変速を自動で行うAT(オートマチックトランスミッション)があります。
【画像】超カッコいい! これがスズキの「最新ワゴンR」です!
現在、国内の新車販売において、基本的にATしか装着できないハイブリッド車(マイルドタイプ含む)の割合は50%を超えました。AT限定免許の普及も相まって、国内のAT車販売比率は98~99%に達しており、MTの乗用車はわずか1~2%という状況です。
そのため、MTを設定する車種の多くは、トヨタ「GR86」/スバル「BRZ」、トヨタ「GRヤリス」、日産「フェアレディZ」、ホンダ「シビックRS/タイプR」、ホンダ「N-ONE RS」、マツダ「ロードスター」といったスポーツカー、スポーティなグレードに限定されています。
これらの車種がMTを用意するのは、運転の楽しさを重視して開発されているからです。走行状態に応じてシフトレバーとクラッチを操ることは、ステアリングやブレーキ操作と同様、運転の醍醐味そのものといえます。
しかし、スポーツモデルでなくともMTを継続しているクルマがあります。それが、実用性を重視したスズキの「ワゴンR」や「スイフト」です。
なかでもワゴンRは、2025年12月の改良でグレードを「ZL」と「ハイブリッドZX」に整理し、スティングレーやターボ車を廃止しましたが、ベーシックなZLには依然として5速MTを用意しています。
かつてはベーシックな軽自動車としてスズキ「アルト」にも5速MTの設定がありましたが、現在は設定されていません。なぜワゴンRには残されているのでしょうか。スズキに尋ねると、以下のような回答がありました。
「ワゴンRは先ごろの改良で、グレードをZLとハイブリッドZXの2つに絞りました。それでもMTは、日常使いの軽乗用車の中では、唯一ワゴンRのみに残っている仕様です。
そこでお客様に寄り添った『バイ・ユア・サイド』の考え方で、改良後も残す決断をしました。ですのでMTのターゲットは、MT車に乗り慣れた、乗り換えのお客様が中心となります。
なお、MTシステムは基本的に先代のものと同等ですが、エンジンは2020年1月に『R06A』型から『R06D』型に変更され、2025年12月にはR06D型の改良(クランク剛性アップなど)も行いました。エンジン制御の変更なども含めて、燃費性能や快適性を向上させています。運転すること自体が楽しいクルマになっていると自負しております」
つまり、ワゴンRにMTを残した理由は「MT車に慣れ親しんだ、乗り換えのお客様がいる」ためですが、より正確にいえば、「ATは不慣れで運転したくない」という切実なユーザーがいるのです。
販売店によれば「5速MTを選ぶお客様は、ワゴンRの販売台数のうち10%から15%ほどで、ほとんど売れてはいません」といいます。それでも「ATでは運転できない、MTがないと困る」と切実に考えているユーザーがいる以上、提供を続けるのがスズキの方針というわけです。
また、近年の高齢ドライバーを中心としたペダル操作ミスによる事故が増えると、MTには「安全性を高める」という別の意義も生じます。
AT車は、Dレンジに入れてブレーキから足を離せば、大半の車両はクリープ現象で動き出します。この際、ブレーキと間違えてアクセルを深く踏み込めば、急激に速度が上昇し、交通事故を招く危険が生じます。
対してMT車は、左足でクラッチを踏みながら1速に入れ、次に右足でアクセル、左足でクラッチを戻すという、常に両手足を使う複雑な操作が要求されます。
しかも、この連携をデリケートに行わなければエンジンが停止してしまいます。アクセルとクラッチの踏み方次第で急発進させることも可能ですが、これは相当に難しい操作であり、意図しない暴走は起こりにくい構造となっており、MTは暴走事故を防ぐ「安全装備」としても有効に機能するのです。
※ ※ ※
かつてATの普及段階では「ハンドル操作に集中できるから安全」といわれました。今でもその効果はありますが、ドライバーの運転能力低下を防ぐという意味では、MTにも安全性を高めるメリットがあります。
今後、寿命が伸びることで高齢ドライバーがさらに増える社会において、安全運転の観点からMTを捉え直す必要もあるでしょう。(渡辺陽一郎)
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