スーパーGTのGT500クラスで2023年、2024年、2025年の3連覇を達成し、2026年は4連覇目に挑むTGR TEAM au TOM’S。2026年も引き続き、36号車 au TOM’S GR Supra(坪井翔/山下健太)の吉武聡チーフエンジニアに特別コラムを寄稿していただき、毎戦レースのターニングポイントとなった部分を中心に振り返ります。
5月3~4日の第2戦富士3時間で36号車は、予選2番手を獲得、決勝ではポールポジションの14号車ENEOS X PRIME GR Supra(福住仁嶺/大嶋和也)とのトップ争いでレース中盤にポジションを奪い、見事開幕2連勝を飾りました。今回は、苦戦した公式練習から予選への復調、決勝での逆転を生んだポイント、そして給油時間の早さについて解説いただきます。
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●ダブルスティントの効果とタイヤへの愛
みなさんこんにちは。TGR TEAM au TOM’Sの吉武です。
富士3時間は、公式練習でタイムが伸びず不安もありましたが、予選で2番手と前に出られたことで決勝でも優勝を狙える状況を作ることができました。昨年大会は2位とあと一歩だった反省も活かして、無事にリベンジ達成です。
今回のレースのポイントとしては、『ダブルスティント作戦』と『タイヤへの愛』のふたつになったと思っていますが、36号車は走り出しの練習走行から苦戦したので、その立て直しから触れていきます。
公式練習は持ち込みセットのバランスが合わず13番手と厳しい状況でした。そこからは伊藤大晴(トラックエンジニア)とドライバーふたりがセットアップを修正に取り組み、さらに予選では路面温度の低下に合わせて、タイヤの内圧やウォームアップとセットを合わせ込むことができました。
予選Q1は風が強く、GRコーナー(1コーナー)のブレーキングが難しいコンディションでしたが、坪井選手がドライビングで対応。さらにQ2に向けて、ブレーキングポイントやウォームアップの修正点を坪井選手が細かく山下選手に伝えて共有し、富士のレコードホルダーでもある山下選手がアドバイスを反映して2番手を獲得しました。エンジニアのセットアップ変更、ドライバーの運転技術での対応、そしてドライバーふたりの連携など、公式練習からの持ち直しも含め、チーム全員がコンディションを読み切って仕事をまとめてくれた予選日でした。
そして迎えた決勝。スタートを担当した山下選手の第1スティントでは、若干のマシントラブルがあり、運が悪ければ止まってしまう可能性もありました。それでも山下選手はバトンをつないでくれましたし、3番手争いで接触があり、後ろから強く追われる展開にならなかった部分はラッキーでした。
続く第2&3スティントは坪井選手が担当しましたが、どちらかをダブルスティントで乗せる作戦は、事前に決めていました。とくに見据えていたのはレース後半で、日が傾くにつれて路面温度も下がり、ピックアップや細かな路面変化への対応が求められる時間帯です。昨年の反省も踏まえ、同じドライバーが連続して乗るほうがタイヤの状況を掴みやすいと判断しました。
一方、首位を走っていた14号車はスタートを福住選手が担当して、大嶋選手に交代、そして第2→第3スティントで大嶋選手から福住選手へ代わりました。36号車は第2、第3スティントを同じコンパウンドのタイヤを選びましたが、トヨタ陣営の共有情報として、14号車はタイヤのコンパウンド変えたことは把握していました。結果的に14号車は最後のスティントでタイヤが動き過ぎて苦戦したと聞いています。この判断の違いが、結果的に逆転の助けになったと感じています。
ダブルスティント作戦は、14号車を逆転する際のピットインタイミングにも影響しました。3時間レースでは、各ドライバーには最低1時間の運転義務があります。36号車と14号車は40周目に同時にピットインしたので、第2スティントで乗り込んだドライバーを交代する場合は78周目まで走らなければなりませんでした。しかし、ダブルスティントであればこの制約はありません。
ウチとしては、14号車は第3スティントでドライバー交代をすると読んで、第1スティント終了時点でドライバーひとりの規定のミニマム周回を計算し、14号車の2回目のピットインが78周目になると予測。そこでウチは76周目にピットインしアンダーカットを仕掛けました。36号車はトラフィックを避けられる一方、14号車はミニマム消化のために引っ張らざるを得ず、あえてトラフィックに入っていく状況に。そこで生まれたタイム差が逆転につながりました。
最終的には8.786秒差でトップチェッカーを受けたので、第3スティントがスムーズに済んだように見えるかもしれませんが、14号車と同様に、36号車もピックアップ(タイヤカスが取れずに表面に付着してグリップが低下する現象)がなかったわけではありません。ただ、その対応は『タイヤへの愛』でもってレース前から織り込み済みでした。
36号車はテスト段階から、タイヤの“表情や性格”を丁寧に読み解き、良い面もピックアップなどのネガも含めて深く理解していると自負しています。タイヤは『何をすれば喜び、何をすれば機嫌を損ねるのか』を把握してこそ、本来の力を引き出せる存在です。
そういった意味では、タイヤ選びは恋愛と同じ。何度もテストを重ねながら『この一本で行く』と決めてうまく付き合っていくことで、レースで強い戦いができるようになります。だからこそドライバーもタイヤの扱い方を熟知しており、ピックアップが出ても最小限のロスでまとめることができました。
●36号車の給油時間の短さについて
今回の富士3時間では、2度のピットストップ時の給油時間の短さもレースを優位に進められた要因のひとつでした。
まず給油時間が短くなる前提として、坪井選手と山下選手の燃費の良さがトヨタ勢のなかでも頭ひとつ抜けており、必要な給油量そのものが少なくて済むという強みがあります。
給油時間が短かった理由は、燃費だけではありません。昨年オフにサクセス給油リストリクターの導入が発表された段階で、クルマを速くすることと並行して、ピット作業を速くすることにも力を入れて準備を進めてきました。給油ホースや給油口、タワー周りの扱い方など、外からは見えにくい細かな部分を半年以上かけて見直し、工夫と試験を重ねてきた結果が、今季の給油時間の短縮につながっています。
給油作業というのは、道具や手法を変えれば劇的に速くなるようなものではなく、細かい作業手順の最適化や、メカニックの動きの精度といった地道な積み重ねがすべてです。そうした積み重ねが、アンダーカットを成立させるための数秒の差を生み、今回の逆転にもつながったと感じています。
また、ドライバー交代のスピードも上がっており、1~2秒ほど短縮できました。交代作業が速くなったことで全体の動きがこれまで以上にタイトになり、山下選手がマシンを降りた瞬間とメカニックが外したタイヤを置くタイミングが重なって転倒する場面もありました。次は起きないように対策しなければいけませんし、幸いケガがなくてよかったですが、あれも全員が本番で連動して速く動けるようになったことの裏返しだと思います。
こうした細部の積み重ねがレース後半の戦略を支える土台になり、結果的に勝利につながったと思っています。公式練習の苦戦から予選での復調、そして決勝での逆転と、チーム全員がやるべきことを積み重ねてつかんだ勝利でした。
次戦までは少し時間が空きますが、36号車には新たにサクセス給油リストリクターが課されます。これまで以上に厳しい戦いになると思いますが、またチーム全員で準備を進め、次のレースでも良い戦いができるよう頑張ります。
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なお、第3戦セパンの延期により次戦まで少し時間が空くことから、この期間を利用して、6月ごろに吉武エンジニアへの読者質問を募集する予定です。みなさんから寄せられた質問に特別企画でお答えいただく予定ですので、どうぞお楽しみに。
●Profile:吉武聡(よしたけ さとし)
福岡県出身、1979年3月23日生まれ。自動車メーカー勤務を経てTRD(現TGR-D)へ入社し、2013年にトムスへ加入。F3のエンジニアを務めながら、2014年からはスーパーGT GT500クラスで36号車のデータエンジニアを、2020年からはトラックエンジニアを担当。2021年、2023年、2024年、2025年の王者に輝いた。2026年も36号車のチーフエンジニアを務め、スーパーフォーミュラ・ライツでも35、36、37、38号車の4台のチーフエンジニアを担当する。
[オートスポーツweb 2026年05月20日]
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