車の最新技術 [2025.06.27 UP]
自動車工場を見るポイント【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】
文と写真●池田直渡
クルマの良し悪しを見分けるポイントの記事を目にする機会はあっても、自動車工場のそれはまず見ることがない。そういう中で、「全自動無人工場」や「ギガキャスト」などの高速生産性を改革して素晴らしい革新技術と評価し、それができない日本の自動車生産工場は遅れているといった見方が、あちこちのメディアで拡散され続けている。ちょっと待て、そんなゼロヨン加速でクルマの良し悪しを決めるような評価軸で本当にいいのか。
そもそも、自動車は速く沢山作れることが能力評価の基準でいいのだろうか。例えば1分で1億台作れる工場があったとしたら、売る側も1分で1億台売らないと在庫の山になってしまう。作る能力が限界を決めるのか、売る能力が限界を決めるのかは自明の話に思える。
トヨタ生産方式の重要な核である「売れた分だけ作る」というのは、現在のところ例外のない大原則であって、そう考えるならば、工場の能力というのは常に販売力と連動できるものでなければならない。例えばコロナ禍の巣篭もり期間にはユーザーは「不要不急の外出」を避けていたわけで、当然クルマは売れない。ところがそんなに極端な生産能力の削減はできないから過剰生産になる。
そしてサプライチェーンの寸断によって生産能力が落ち、「withコロナ」へと変わると、今度は需要に対して生産能力が不足する。しかもその会社のビジネスや販売力に応じてその時求められる生産能力のフレキシビリティには十人十色の差が現れる。
原点に立ち返って考えれば、自動車を作って売るというビジネスの中で、実は「生産」は手段であって目的ではない。極論を言えば、ファブレス化して外注化してしまうのもひとつの方法だ。その引き受け手がいるかどうかはともかくとして。
いずれにしても、そのメーカーの販売力が全ての基準であり、それを満たせるだけ調達できるのであれば、手段は色々あり得る。だから販売能力の未来図である販売戦略が全ての基準になる。ということをダイハツ、トヨタ、マツダの3工場を例題に紐解いてみたい。
まずはダイハツ京都(大山崎)工場の取材をベースに説明していこう。3社を比較した時、もっとも高密度で沢山のクルマを生産するコンセプトの工場がダイハツだ。
軽自動車とコンパクトカーが主力であり、どちらも価格に敏感な商品なので、ラインの回転率を徹底的に上げて1円単位で原価を削らなければ戦えない。だからトヨタは同じ特性をもつプロボックスをダイハツに生産委託しているのだ。コスパというのは性能と価格のバランスなので無数の着地点があるが、軽に代表される商品は、どうしても価格の重要性が高いのだ。
しかもダイハツの京都工場はそもそも敷地面積が狭いので、徹底的に高密度化戦略が採られている。車両をハンガーで吊って搬送する時も、より台数を詰め込める様に車両を進行方向横向きに吊る。もちろん組み付け作業で必要な時はターンさせて向きを変える。
通常の自動車工場ではラインの進行方向と車両の向きは正対しているが、ダイハツの向上では車体の向きを90度回転させることでラインにおける車両の密度を上げている。コンパクトカーに特化したダイハツならではの工夫
車体の溶接は、筆者が見たことがないほど6軸ロボットが異様な密集度で詰め込まれたラインで自動化されている。動き回るロボットをこれだけの密度で配置して干渉なく稼働させるのは、人間にはできない。だからロボットの配置と稼働プログラムは全部コンピュータのシミュレーションで導き出されている。テスラやBYDの工場はもっと見た目がスマートで余裕があるが、ダイハツはそこを実用一点張りに泥臭く作っている。見栄えは悪いが、集積度は圧倒的だ。それこそがダイハツの強みである。
ダイハツの車体溶接ラインはロボットの密度が高く、工場の床面積に対する占有率を低減、効率化している
ダイハツ京都工場は高密度生産と、トヨタからの受託を上手く使ってダイハツの販売力以上の生産量を確保し、小さな工場をフル稼働させて、安いクルマを生産することに特化しているのである。
一方、トヨタ元町工場のGRファクトリーは、考え方がほぼ対照的で、コスパの見方を徹底的に性能に振ったらどうなるかという量産自動車初の取り組みである。
そもそもトヨタは販売力のモンスターであり、全国に無数にある工場は、同一系統車の専用ラインである。例えばヤリスのラインでクラウンも作るような無茶をする必要がない。ヤリスならヤリスクロス、アクア、LBXなどの基本を共用するクルマだけを20万台単位で作っても売り切ってしまう。自動車工場というのは一般に年間20万台の生産能力を持っているが、それぞれのラインを占有で回せるということは、すなわちそれぞれの車種群が年間20万台売れることを意味する。
トヨタ工場のロボットによる溶接工程。ダイハツの工場と比べ間隔が広く整然としている。もちろん、無駄な工程や空間は一切なく、トヨタが必要とする作業スピード、精度、管理のしやすさをクリアしている
トヨタの工場の中でその例外となるのが元町工場であり、ここではセンチュリーやGRヤリス、GRカローラなどの少量生産モデルを、手間をかけたハンドメイド的手法で高付加価値化する。
例えば選別組み立てという手法がある。全ての部品には公差がある、それは設計値に対する寸法のブレだ。もちろん日本のサプライヤーはそのブレ幅を極小に収めてくるのだが、とは言えゼロにはならない。プラスにもマイナスにも振れる。
GRファクトリーでは、AIによる測定と選択で、公差を例えばプラス3マイナス3の6段階(部品によって異なる)に選別し、部品同士の組み合わせで公差を打ち消して最小になるセットを選び取る。そうすることで製品を可能な限り設計値通りに作り込む。組み立て時には、流れ作業ではなく、手組みのセルで車両を静止させ、モータースポーツ由来のより高精度な組み付けを行う。
従来のレーシングカー作りは、部品に許される公差を最小化するか最適値に近い部品を選別する手法で高精度を達成していた。それに対してGRファクトリーでは、公差が少なくなる部品の組み合わせをAI技術で選別することで「高精度の量産」を実現している
ラインでの1工程に何分かかるかをサイクルタイムというのだが、通常のラインは1分程度であるのに対して、GRファクトリーではこれに9分をかける。そうやって最廉価モデルが166万円のヤリスが、別物のGRヤリスになって最高値533万円で売れる。
トヨタのGRファクトリーは、メーカーのブランド価値を向上せる少量生産の高付加価値モデルを、少量で継続的に生産できる仕組みづくりであり、これまでの生産向上のセオリーに反する「ゆっくりにこそ価値がある」という工場である。
最後にマツダである。マツダはトヨタと違う。CX-5を唯一の例外として、単一車種あるいは車種群で工場の稼働率を担保できるような車種がない。そこでマツダは混流生産という技術を編み出した。「1車種でラインを回せないならば、色んな車種を足してライン稼働率を維持する」というのがマツダの考え方だ。
全ての車種が売れなくなってしまえば、それはどうにもならないが、新型車を外したとしても、それを埋め合わせる孝行息子は大抵出てくる。なので足し算でそれらを合わせて工場を稼働させるわけだ。
こうした1つのラインに多車種を順不同に流す混流生産をマツダは「縦スイング」と呼ぶ。そして例えばそういう足し算の組み合わせ自由度を上げる仕組みが「横スイング」である。例えば広島の宇品工場でも、山口の防府工場でも全てのクルマが作れるとしたら、生産移管の自由度が上がり、稼働率の調整の自由度が上がるわけである。現在のところ宇品工場の車種を防府工場に移管させる自由度はだいぶ上がったが、まだ逆はできていない。こういうのはコンセプトの通りに先行投資するのではなく、実際に必要になるまで投資を引っ張った方がいい。なぜならその間に技術革新が起きたり、新たに対応を考えなければならない問題が発生したりするからだ。
現在のマツダの工場の特徴は、ベルトコンベアを廃止して、自動搬送台車(AGV)に切り替えている。これはラインの変更自由度を上げる取り組みであり、従来のベルトコンベアの様に直線上にしか配置できない縛りもない。縦移動だけでなく横移動も可能だし、作業中を進行方向以外の全ての角度からアプローチできる。また前後2台1セットのAGVをコンピュータ自律制御することでホイールベースの異なるクルマへのフロントユニット、リヤユニットの取り付けにも対応している。クレーンはPHEVやBEVの耐荷重に備えて強化され、重量面でもフレキシビリティが向上している。
自動搬送台(AGV)を使うことで自由度の高いラインを実現
車体を吊るすクレーンは電動化に対応すべく耐荷重を強化した
マツダが「ものづくり革新2.0」で取り組んだのが、電動化車両を混流生産に組み込むこと。異なる車種、異なるパワートレインが同じラインで同時に生産できるため、工場の稼働率を高く維持できる
マツダが取り組んでいるのは、マーケットの動向にいつでもどういう形ででも追随できる、徹底したフレキシブル生産を可能にした工場である。
自社の商品特性、今後の戦略、売れ筋のクルマといった多様な要素と将来戦略が結びついたところで、それらの問題解決手段としての工場デザインがあるのであって、そうした各社の差異に目を瞑って、ただ最大生産能力順に並べて評価しても仕方がないのだ。
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