市場と技術のズレ
かつて世界を席巻した日産は、今また大きな岐路に立っている。EVシフトの遅れ、米中市場での苦戦、巨額赤字――逆風は強い。しかし新型リーフやマイクラEVの投入、ハイブリッド戦略、生産体制の再構築など、未来への挑戦は止まらない。 本リレー連載「頑張っちゃえ NISSAN」では、厳しい現実と並走しながらも改革を進める日産の姿を考える。
「見栄っ張り」「品性に欠ける」 ネットで“残クレアルファード”を叩く人が、壮大なブーメランを食らう根本理由
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今日、電気自動車(EV)シフトの遅れや技術力不足で批判される日産。しかし実際は「早すぎた挑戦」の連続だった。リーフや自前のバッテリー工場、e-POWERはいずれも、世界や市場が追いついていない技術だった。今こそ、安易に市場に迎合するのではなく、独立独歩の道を歩む「尖った日産」の真価を見直すべきだ。
近年の日産の世界初といえば、やはり量産型EV「リーフ」だろう。2010(平成25)年、地球温暖化への関心が高まるなか、新時代の自動車として登場した。世界中で評価され、
「欧州カー・オブ・ザ・イヤー2011」
「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー2011」
など数々の賞を受賞した。しかし価格はCセグメント車より高く約370万円。フル充電で280kmという航続距離の短さと、充電インフラの不足が販売の足かせとなった。日産は当時、最高峰の技術で量産型EVを生み出したにもかかわらず、市場の理解と価格感覚、インフラ整備が追いついていなかったのである。
2022年に登場した軽EV「サクラ」も完成度は高い。しかしやはり、市場の理解は追いついておらず、早すぎた感は否めない。過去にはNECと共同出資で2007年にリチウムイオンバッテリー量産メーカーAESCを設立した。設立当時は世界最先端だったが、2018年にエンビジョングループにバッテリー事業を譲渡した。EV戦国時代の幕開け前に、この決断を下している。
総じて言えば、日産に技術がなかったわけではない。「世界が日産に追いついていなかった」のだ。日産は前衛芸術のように、時代を先取りしすぎた存在である。
ラインナップ不足の弱点
世界初の量産型EVであるリーフは先駆的だった。しかし技術進化の速さにより、陳腐化も早かった。新しい技術分野では先駆者が先頭に立つが、販売競争では後発組が優位になることもある。
2017年に2代目リーフが登場したが、初代の2010年から7年が経過していた。この7年間で、後発組はリーフを上回る新技術を搭載したEVを市場に投入した。日産は瞬く間にEVの先駆者から後方集団へと後退したのである。
さらに、新興EVメーカーの台頭で、ラインナップ不足という弱点が露呈した。テスラは2012年にミドルセダンのModel S、2015年にミドルSUVのModel X、2017年にコンパクトセダンのModel 3、2020年にコンパクトSUVのModel Yと、矢継ぎ早にラインナップを拡充している。他の自動車メーカーもEVのラインナップを整え、リーフ一本では世界的に太刀打ちできない状況が明らかになった。
バッテリー事業の売却も、結果として痛手となった。現在ではEVの心臓部であるバッテリーの内製化と安定供給が至上命題だ。
「手放すのが早すぎた」
といわざるを得ない。我慢して維持できなかったのは残念なところである。ちなみに日産は電動化戦略の一環として、ハイブリッド車(HV)を中心とした車載用リチウムイオン電池事業を行うビークルエナジージャパンの株式を2022年9月に取得し、連結子会社化している。
異端HVの真価
日産の独立独歩の技術といえば、e-POWERがある。e-POWERはエンジンで発電し、モーターで駆動するEVライクな走りを楽しめる独自方式のHVで、構造的に他のHVとは異なる異端の存在だ。高速域の燃費では他のHVより不利だが、街乗りでは静粛性とレスポンスで優位に立つ。
2025年から投入される第3世代e-POWERは、主要な五つの構成部品を一体化した「5-in-1」と、最新の専用エンジンを搭載し、高速燃費や室内静粛性が向上する。技術を進化させつつ、e-POWERで高速走行から街乗りまで「全部で勝つ」のではなく、
「得意領域を極める」
方向にシフトするのが合理的だろう。
その方向性のひとつが4WD制御技術「e-4ORCE」である。e-4ORCEはハンドリング性能、乗り心地、雪道での安定感を大幅に向上させるモーター制御技術だ。本来はEV向けの技術だが、発電型のe-POWERにも応用できる。つまり、e-POWERは電動化への橋渡し技術として、完成度を高める役割も担えるのである。
他のHV方式は技術的にHVとして完結しており、その先がない。e-POWERとe-4ORCEの組み合わせにより、燃費競争から脱却し、乗り心地で勝負する方向に転換した。技術の尖りを恐れず、個性で勝負する日産らしさを体現したと言える。そこには「燃費で勝てないなら快適性で勝つ」という潔さ、つまり
「開き直りの美学」
がある。
尖り続ける誇り
e-POWERは単なるハイブリッド技術の一領域ではなく、日産の
「独立独歩の象徴」
である。EVが普遍化するまでの過渡期技術として、尖ったまま前進する姿勢を貫くべきだろう。日産の技術的頑固さこそが、未来に向けた希望の源泉となり得る。
とはいえ、Qashqai(キャシュカイ)などの欧州仕様車には、e-POWERに加えマイルドHVも設定されている。ひよったとも見えるが、市場を考えればやむを得ない判断だろう。日産はリーフやサクラなど、常に「早すぎた挑戦」を続けてきた企業でもある。自前のバッテリー工場も結局は手放したが、近年になって設立当初の構想の正しさが証明されつつある。
つまり、世界がようやく日産の描いた未来に近づきつつあるのだ。前衛的な挑戦者は、早すぎるがゆえに理解されず、誤解され、孤立する。しかし尖ったまま進むしかない運命にある。「頑張っちゃえNISSAN」――尖り続けることこそ日産の誇りである。(灘真(テックライター))
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みんなのコメント
昔から日産は現場の声を取り上げないって。
こういう車を作って欲しい、この車のここを改良してほしい等など。
売れる車がないはずですね。