3列目まで快適に移動することができるLサイズミニバン
2019年に発売された新型車のなかで、とくに個性的な車種が上級Lサイズミニバンのトヨタ・グランエースだ。海外版ハイエースをベースに開発され、3列シートと4列シートの仕様がある。
なぜグランエースとして導入? 新型ハイエースが日本で「ハイエース」を名乗らないワケ
まずボディサイズに注目したい。全長は5300mm、全幅は1970mm、全高は1990mmに達する。VIPセダンのトヨタ・センチュリーよりも大きく、全幅と全高は約2mだから、国産乗用車では異例の大きさだ。
車内も広く、3列シートのプレミアムは、アルファード&ヴェルファイアの2列目と同様のエグゼクティブパワーシートを2/3列目の両方に採用した。ここがグランエースにとって、一番のセールスポイントになる。アルファード&ヴェルファイアも豪華なLサイズミニバンだが、特等席は2列目だけだ。3列目は左右に跳ね上げて折り畳めるから、背もたれと座面は薄く、座り心地も良くない。床と座面の間隔も乏しく、足を前方へ投げ出す座り方になってしまう。
従ってアルファード&ヴェルファイアで快適に乗車できるのは4名までだが、グランエースプレミアムなら、3列目も2列目と同様の作りだから乗車定員の6名全員が快適に移動できる。これまでは快適性を重視すると2台に分乗しなければならなかった人数が1台で移動できるため、用途によっては高効率で経済的でもある。
その半面、グランエースにも欠点がある。
3列目を格納できない点で使い勝手が絞られる
ベースが商用車だから後輪駆動を採用しており、床の位置がアルファード&ヴェルファイアに比べて150mm前後は高い。低床設計を採用したヴォクシー系3姉妹車に比べると、200mm以上も持ち上がる。従ってサイドステップ(小さな階段)を介して乗り降りすることになり乗降性は良くない。床が高いので、全高の割に室内高は乏しく、アルファード&ヴェルファイアを110mm下まわる。
またグランエースプレミアムは6名が快適に乗車できる代わりに、アルファード&ヴェルファイアなどのミニバンと違って、3列目を格納できない。従って4名で乗車して、自転車のような大きな荷物を積む使い方には適さない。ボディも大柄だから、狭い道では運転しにくい。
価格はプレミアムが650万円(4列シートのGは620万円)だから、アルファード&ヴェルファイアでいえば最上級グレードに近い価格だ。エンジンは直列4気筒2.8リッタークリーンディーゼルターボで、ランドクルーザープラドと同じタイプだから、機能と価格のバランスではアルファード&ヴェルファイアよりも割高になる。グランエースプレミアムの適正価格は600万円前後だろう。
グランエースGは、4列シートの8人乗りで価格は620万円だが、室内長は3列のプレミアムと同じだから足もと空間が狭まる。シートも簡素化されて販売店も「売れ筋はプレミアムでGの人気はいまひとつ」という。
このような事情を考えて、グランエースは目標販売台数を1年間にわずか600台(1か月当たり50台)に設定した。アルファードは1カ月に5600台前後、ヴェルファイアも3000台前後は登録されているから、1カ月に50台の目標は控え目だ。従って宣伝もされず、いわば試験的に売られている状況だ。
販売店に納期を尋ねると「意外に問い合わせがあり、納期も3カ月から4カ月を要する」という。多くのユーザーが欲しがるクルマではないが、前述のとおり今までは存在しなかった6名全員が快適に移動できるミニバン。3列目まで快適なグランエースは、新しい需要を開拓する可能性がある。
全長が5.3m、全幅と全高は約2mというボディも存在感が強い。フロントマスクなどのデザインは、あまり派手ではないが、購入後にドレスアップすれば迫力を強められるだろう。派手なミニバンを好むユーザーが魅力を感じることも考えられる。
類似車種にはメルセデスベンツVクラスがあるが、価格は740~790万円とさらに高く、3列目はグランエースプレミアムのほうが快適だ。ミニバンではメルセデスベンツのブランド力はあまり高くないから、多くのユーザーはグランエースを選ぶだろう。
このように考えると、グランエースは人気車にはなり得ないものの、6名が快適に移動できるミニバン、あるいはドレスアップで派手さを追求したいユーザーの間では、相応の支持を受けそうだ。
そして今の大半の日本車メーカーは、世界生産台数の80%以上を海外で売る。「日本で買えない日本車」も多く、これを国内でも活用すると、新たなニーズを見つけられる可能性がある。あるいは新しい商品開発のヒントに繋がるかも知れない。市場が伸び悩んでいる今、グランエースのようなチャレンジは大切だ。
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どのような人達が買っているのかも取材して欲しかったですね