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ルイス・ハミルトン、ポールポジション100回、優勝98回!──F1グランプリを読む

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ルイス・ハミルトン、ポールポジション100回、優勝98回!──F1グランプリを読む

5月9日、2021年F1第4戦のスペインGPでは、メルセデスをドライブするルイス・ハミルトンが大胆な戦略で優勝をかちとった。赤井邦彦は、そこに何を見たか?

100回目のポールポジション

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ルイス・ハミルトンが意を決して2度目のピットインを敢行したのは、レースが残り22周を迎えたとき。これでハミルトンは首位を走るレッドブルのマックス・フェルスタッペンに24秒遅れることになった。しかし、彼は温存していた新品タイヤに交換して、残りの周回でこの24秒を削り取って首位の座を奪い取るという冒険に出た。

「ピットインするかどうか迷った。そのまま走り続けようかとも思った」と、ハミルトン。「結局チームからの無線でピットインを決意した。その後の追い上げは苦しかったが、作戦が功を奏して良かった」

去る5月9日に行われたスペインGP。1週間前に行われたポルトガルGPで、宿敵フェルスタッペンとチームメイトのバルテリ・ボッタスを抜き去って優勝を飾ったハミルトンは、スペインでも優勝候補の最右翼だった。しかし、クルマの速さだけでいえば、彼のメルセデスはフェルスタッペンのレッドブルに劣っており、戦いは楽観視出来ないものだった。ポルトガルでは予選でポールポジションを逃したために、後の厳しい追い上げを強いられる結果になった。レースではポールポジションを獲得すれば、70%は勝利をつかんだも同然だ、と言われる。ただ、昨今のレースではことはそう簡単には運ばない。それは使用するタイヤの状況やその交換のタイミングなど、様々な作戦がレースに少なからぬ影響を与えるからだ。それでもポールポジションは貴重だ。ハミルトンはスペインでその貴重なポールポジションの獲得100回という大記録を打ち立てた。

レースは今年に入ってから激しく接近した戦いになっている。トップグループにはハミルトン、フェルスタッペン、ボッタス、セルジオ・ペレス(レッドブル)にマクラーレンのランド・ノリスとダニエル・リカルド、フェラーリのシャルル・ルクレールとカルロス・サインツJr.が絡んできた。中でもハミルトンとフェルスタッペンの2人は別格で、彼ら2人の首位争いは片時も目が離せない。ポルトガルに続いてスペインでも2人が主役であり、スピードだけを見ればハミルトンよりフェルスタッペンに分があるように見えた。それはレッドブルとメルセデスの設計(セッティング?)思想の差といえた。

実はレッドブルはタイヤ温度の上昇が早い。ダウンフォースが大きく、タイヤのグリップが良いせいだ。レッドブルがいつも予選で速いのはそのためだ。ただし、それだけタイヤの寿命は短くなり、決勝レースで弱点になる可能性が高い。ダウンフォースが大きいということは、同時にドラッグも大きいということ。両者をトレードオフしてどちらに振ったクルマを作るか(セッティングをするか)で、レースの成績が問われることもある。スペインGPではスタートでハミルトンを交わしたフェルスタッペンがレースをリードした。しかし、ハミルトンは少しも焦らなかった。というより、それが作戦だった。彼のメルセデスはレッドブルに較べてタイヤに優しいクルマであり、ハミルトン自身タイヤを労る走りに長けていたからだ。

完璧なレース作戦

ハミルトンとメルセデスは66周もの長いレースを見据え、慎重な作戦を立てていた。序盤のフェルスタッペンのペースは計算済み。フェルスタッペンは早めにタイヤ交換を強いられると読んでいた。フェルスタッペンにはドンドン逃げてもらって、タイヤを早く駄目にしてもらいたかった。案の定、レッドブルは24周目にピットへ入り、新品のミディアム・タイヤに交換した。残り42周をそのタイヤで走り切らなければならない。金曜日の練習走行を踏まえるとそれは十分に可能だが、終盤のラップタイムの低下がいつからはじまるのか、読み切れてはいなかった。

一方のハミルトンはフェルスタッペンの4周後(28周目)にタイヤ交換のためにピットへ入った。彼も新品のミディアム・タイヤに換えてレースに復帰し、フェルスタッペンを追った。メルセデス・チームの計算ではこのまま追いかけるとゴール前に追いつけるはずだった。しかし、ハミルトンとチームにはもうひとつの選択肢があった。彼らは新品のミディアム・タイヤをもう1セット残しており(レッドブルは練習で使い込んでおり、新品のタイヤは残っていなかった)、それを使用した方が速いラップタイムを刻むことが出来、より確実にフェルスタッペンを捉えられるはずという答を出したのだ。レッドブルの1回タイヤ交換作戦に対してメルセデスがとったのは2回交換作戦である。

ハミルトンはその2回目のタイヤ交換のピットインを迷ったが、結局チームのアドバイスを聞いて42周目に2度目のピットインを行った。そして、レースに復帰したときには、フェルスタッペンはハミルトンの24秒先を走っていたが、彼のタイヤはすでに18周も走破しており、性能が低下しつつあることは明らかだった。それに対してハミルトンのタイヤは新品。ラップタイムは明らかにハミルトンの方が速く、2人の差は急激に縮まり、レースが6周を残した60周目にハミルトンは軽々とフェルスタッペンを捉えたのだ。途中、チームメイトのボッタスを抜くのに半周ほど手間取ったが、結果的に何の問題もなかった。

それにしてもハミルトンとメルセデスの決断は、両者がお互いの力を信じてこそ下せたものといえた。1周で1秒ずつ追い上げろと言われてそれができる者がいまのF1ドライバーの中に何人いるか考えてほしい。ハミルトン以外に見つけるのは困難だ。ハミルトンに勝利を託すチームと、チームの願いを受けて完璧に仕事をこなすハミルトン。この相互信頼こそ98勝目という大記録の裏に潜んだコロラリー、必然の結果の基礎だ。

2位に転落したフェルスタッペンはハミルトンに抜かれると直ぐにソフトタイヤに交換して最速ラップ・タイム獲得に動いた。この成果は選手権ポイント1点。この1点が最終的な選手権順位にどう影響を及ぼすかわからない。ハミルトンとフェルスタッペン。2人の頂上対決が続く今年のF1グランプリの勝敗の決着は、恐らく最終戦まで縺れ込みそうだ。

PROFILE
赤井 邦彦(あかい・くにひこ)

1951年9月12日生まれ、自動車雑誌編集部勤務のあと渡英。ヨーロッパ中心に自動車文化、モータースポーツの取材を続ける。帰国後はフリーランスとして『週刊朝日』『週刊SPA!』の特約記者としてF1中心に取材、執筆活動。F1を初めとするモータースポーツ関連の書籍を多数出版。1990年に事務所設立、他にも国内外の自動車メーカーのPR活動、広告コピーなどを手がける。2016年からMotorsport.com日本版の編集長。現在、単行本を執筆中。お楽しみに。

文・赤井邦彦

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