ポルシェのSUV「カイエン」の派生モデル、「カイエン クーペ」に今尾直樹が試乗した。フツーのカイエンとの違いは?
チャームポイントはおしり第一印象は、「ちょっと乗り心地が硬い」ということだった。スポーティ、ということなのでしょう。タイヤが大きい。フロントは275/45ZR20、リアは305/40ZR20もある。スーパーカー・サイズである。240km/h超に対応するZR規格で銘柄はピレリPゼロ。ZR20の後ろに、空気圧と負荷能力を通常規格より高く設定したXL(Extra Load=エキストラ・ロード)なる記号が付いている。
SUVのスポーツカー、ポルシェ「カイエン」はスクウェアすぎる。もうちょっとスポーティで、ダイナミックなデザインはないの? という需要に応えるアスレジャー仕様が、2019年春に発表された「カイエン クーペ」である。チャームポイントはおしりだ。
Sho Tamura第3世代の現行カイエンよりフロント・ガラスとAピラーの角度がちょっと浅くなっていて、つまり心持ち寝ていて、そこからつながるルーフはカイエンより20mmほど低い地点で頂点を迎え、「911」を思わせるカーブを描いて下がっていき、カイエン・クーペ標準装備のアダプティブ・リア・スポイラーへとつながる。
可動式リア・スポイラーは90km/h以上になると自動的に後方にせり上がって、メカ好きを喜ばせる。135mm、シルエットが伸び、いわば変形するわけである。しかも、固定式のルーフ・スポイラーとの相乗効果でもって、リア・アクスルへのダウンフォースを増すという機能を備えている。
全長×全幅×全高=4931×1983×1676mmというボディ・サイズはカイエンとほとんどおなじだ。カタログ数値では、19mm低くて、2mm狭くて、11mm長い。2895mmのホイールベースは同一で、しかし同じ寸法で、よくこれだけ違う後ろ姿を成立させたものである。リアのフェンダーとリアのドアは新デザイン、と広報資料にある。リアのショルダー部分が18mm広がって、全体に筋肉っぽい印象を与えることに貢献している。とポルシェは主張している。Aピラーから前と、フロント・ドアはカイエン用をそのまま使っているわけである。
Sho Tamura興味深いのは、Cピラーのパネルとルーフのラインが異なっていることだ。真横から見ると、911みたいなウィンドウ・グラフィックを描く手前のパネルのラインの向こうに、もうちょっとフラットな実際の屋根が見える。一種の看板建築、といえるかもしれない。
固定式の大型パノラミックグラス・ルーフが標準設定なのは、空が見えるようにして開放感を得るためと、なによりクーペとしての付加価値を高めるためだろう。もともと背の高いSUVだから、2cm屋根が低くなったところで大勢に影響はない。つまり、空が見えなくたって室内はぜんぜん窮屈ではない。ポルシェもそれがわかっていて、よりスポーティに仕立てたい向き用として、カーボン・ルーフがオプションで用意されている。
後席の乗員はカイエンより30mm低く座ることになる。だからといって、これまた、特に窮屈なわけではない。室内空間には余裕がある。
ラゲッジ・スペースは625リッターと、カイエンの770リッターより、若干狭くなっている。クーペでセダンとおなじ荷室容量があるはずがない。むしろ、よくこれだけの容量を確保できたものだと感心する。デザインのマジックである。リア・ゲートを開けて見た感じではかなり広い。これもまたでっかいクルマだからできたことだろう。
ちなみにこのジャンルの開祖というべき BMW「X6」のトランク容量は580リッター、現行ゴルフ「ヴァリアント」は605リッターである。十分な広さがある、と考えてよいのではあるまいか。それで狭いという方はカイエン(もしくはX5)を選んでください、ということである。
文化的爛熟期を迎えたポルシェSUVSho Tamura乗り心地は、直接比較していないけれど、おそらくカイエンより、ちょっぴり硬い。少なくともタイヤ&ホイールのサイズが1インチでっかいのである。
カイエン クーペは可変ダンパーのPASM(Porsche Active Suspension Management)を標準装備しており、ノーマル・モードにすると、首都高速の目地段差を越えたとき等に、場合によっては心持ち揺れが残る。そういうときに、いわゆるバネ下の重さを意識する。スポーツ・モードにするとフラットにはなるけれど、筆者の好みとしては全体にちょっと硬い。ただ、ヨーロッパの石畳みたいな路面は得意で、なんなくこなす。前後マルチリンクのアルミニウム製サスペンションがよく動いている感がある。ボディの剛性感は、もちろん“ポルシェ”だ。スムーズな路面では驚くほどスムーズで、駆動系の精密さは、やっぱり「いいですねぇ~」と、思わずにはいられない。
試乗車はオプションで44万円ちょっとの「スポーツ エグゾースト システム」を装備しているけれど、ノーマル・モードではシステムがオフになっている。ノーマルだと、8速ATは2000rpmもまわると、すぐに上のギアにシフトアップしていく。街中でも2000rpmを超えない。100km/h巡航は8速トップで1500rpm弱だから、高速巡航もたいへん静かである。
スポーツ・モードに切り替えると、「スポーツ エグゾースト」がONとなり、高回転までまわるようになる。2000rpmを超えるとクオーンという快音を発し、3000以上になると、グオオオオオオッという咆哮をあげる。ポルシェはエンジン・サウンドについて熱心に研究をしているメーカーのひとつである。3.0リッターの水冷V型6気筒ガソリンターボを源とする太くて乾いたサウンドは、空冷時代のフラット6にもちょっぴり似た雰囲気がある、と私は思う。
カイエン クーペは、ノーマル、スポーツにくわえてスポーツ・プラスが加わる「スポーツ クロノ パッケージ」がスタンダード装備になる。
箱根の山道をスポーツ・プラスにして走ってみる。なんせ巨体である。SUVでもある。重心が高い。ロールは電子制御のサスペンションが抑えてくれるから、コーナリングは安定している。「リア アクスル ステアリング」はこの個体は装備していない。34万円ちょっとのオプションである。ぜひ装着したいところである。
でも、この巨体を操ることがドライビングの楽しみでもあるわけである。おなじシュトゥットガルト牧場で育てられてはいるものの、人馬一体ならざる、この牛のようにでっかい馬を、人馬一体目指して操るところに面白みが生まれる。911や718とはまた別種の妙味がある。
合理的に考えれば、カイエンとカイエン クーペで、クーペを選ぶのは愚である。カイエン クーペは、20インチとグラス ルーフを標準装備したりしているので、カイエンより車重がカタログ上で45kg重い。なので、カタログ上の性能もちょっと遅い上に、室内空間も荷室もちょっと狭い。しかも100万円ほど高価である。でも、美意識とか好きとかいう感情は理屈を超えたところにある。“好き”と、思ったら、そっちを選ぶのが正解、というか、そっちを選んでしまうのが人間というものである。
カイエン クーペは3.0リッターV型6気筒シングル・ターボの340psで、車両価格1135万6481円。カイエンよりスペシャル度が増していて、十分スポーティで、たぶん「いい買い物をしたなぁ」と、満足できると思うけれど、足りないひとには、440psのカイエンSとか、550psのターボ、さらに680psのターボS E-Hybrid、2420万円なんて、カイエンと同様のラインナップがクーペにもある。迷える子羊は幸せである。いまやカイエンがフォーマルで、カイエン クーペという、よりカジュアルなスタイルが登場した。ポルシェSUVは文化的爛熟期を迎えている。
文・今尾直樹 写真・田村翔
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