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タクシー業界に「ベトナム旋風」は巻き起こるか? 「外国人は地理が弱い」「接客マナーが合わない」は時代遅れ? 10年で運転手4割減の現実を考える

掲載 更新 58
タクシー業界に「ベトナム旋風」は巻き起こるか? 「外国人は地理が弱い」「接客マナーが合わない」は時代遅れ? 10年で運転手4割減の現実を考える

深刻なタクシードライバー不足

 日本全国でタクシードライバーの不足が深刻化している。インバウンドや高齢者の利用が増え、都市部ではタクシーの需要が高まる一方で、ドライバーの数は減少の一途をたどる。

【画像】こんなに減ってるの!? タクシードライバーの「法人数」を見る!(計9枚)

 国土交通省の統計によれば、法人タクシー運転者数は2004(平成16)年をピークに減少し、2022年には21万4972人まで落ち込んだ。過去10年間で約4割減少しており、このままのペースが続けば、業界の存続自体が危ぶまれる可能性がある。

 こうした状況を受け、政府は2024年3月、労働力不足を補うために外国人労働者向けの在留資格「特定技能1号」に運送業のドライバーを追加した。さらに、2024年末には

・トラック
・バス
・タクシー

のドライバーとして外国人が働ける特定技能制度を開始。これにより、タクシー業界で外国人が活躍する道が開かれた。しかし、

・偏見や差別
・文化の違い

といった課題は依然として残る。

 本稿では、タクシードライバー不足の解決策として、外国人労働者の積極採用が業界の活路となり得るのかを検証する。

ベトナム人採用拡大の動き

 日本政府による外国人労働者の受け入れ拡大を受け、ベトナム人ドライバーの採用を支援する動きが広がっている。

・広沢自動車学校(徳島県徳島市)
・羽生モータースクール(埼玉県羽生市)

は、ベトナム全土で教習所を展開するヴァンタイングループと戦略基本協定を締結した。今夏から日本で働くベトナム人ドライバーの育成を開始し、年間300人の送り出しを目指す。

 タクシードライバーとして日本で就労を希望するベトナム人は、現地で日本語能力試験(N4レベル)に合格し、教習所での講習を修了した後に来日する。日本では、第二種運転免許の取得や運転技術の研修を経て、各地のタクシー会社に就職する計画だ。

 ベトナムでは、グラブなどのライドシェアサービスが普及し、旅客サービスを伴う運転経験を持つ人材が多い。こうした人材が日本のタクシー業界で活躍できる道が開かれつつある。

AIと教育で打開策

 外国人ドライバーの採用が広がる一方で、依然として払拭されないのが社会に根を張る偏見の存在である。言語や習慣の違い以上に、「異質な他者」に対する漠然とした不信が、制度の運用を実質的に鈍らせている。乗客の一部には、

「外国人は日本の地理に疎い」
「言葉が通じにくい」
「接客マナーが感覚的に合わない」

といった先入観が存在し、それが現場での誤解やトラブルの温床となっている。

 だが、こうした認識の多くは、業務の中身を観察することで容易に修正可能である。まず、地理的知識については、アプリによるナビゲーション技術の精度が年々高まっており、もはや「地理に詳しいか否か」は職能の本質ではなくなりつつある。タクシー配車アプリや翻訳端末の導入によって、言語の障壁も技術的にほぼ解消可能なフェーズに入っている。むしろ、日本語に熟達しきったドライバーであっても、目的地の聞き間違いや案内ミスは発生する。要するに、

「日本人だから安心」
「外国人だから不安」

という直感的な評価自体が、サービスの質を担保する指標としてすでに機能していない。

 接客態度についても同様である。文化の違いがトラブルを生むとされがちだが、それは翻って、何を「適切な接客」とみなすかの基準が曖昧であることの裏返しにほかならない。日本のタクシー業界では、

・乗客との適度な距離感
・無言の気遣い
・丁寧すぎる物腰

といった様式がしばしば重視される。しかし、その様式は、国内ですら地域差があり、ましてや多様な来訪者を迎える都市部においては、もはや画一的に再現されるべきマニュアルではない。利用者の価値観が多様化するなかで、サービスの評価軸をどこに置くべきか。そこに目を向けない限り、誰が運転席に座るかによって生まれる摩擦は繰り返されるだろう。

 さらに、運転技術に対する懸念は、日本の都市交通が求める運転の“質”を過剰に理想化することで生じている。ベトナムの都市部では、圧倒的な交通密度のなかを縫うように走る技術が日常であり、判断力・注意力・反射力において、日本のドライバーと比較して劣るどころか、むしろ異なる技能体系を備えているとさえいえる。重要なのは、それをどのように日本の交通法規と制度に適合させるかのプロセスであって、出自によって一律にリスクを評価することではない。日本の交通行政においては、この点で制度設計と運用現場との認識の乖離が温存されており、研修制度の透明化や評価基準の明文化が急がれる。

 人手不足の現場では、「誰がやるか」よりも

「どうすれば機能するか」

が問われている。社会に求められているのは、文化的に“違う”ものを“馴染ませる”ことではなく、交通インフラの一部として“働ける形に整える”ことに尽きる。その試行錯誤こそが、今後の交通サービスに求められる応答である。

ベトナム人の気質は誠実な人柄

 ベトナム人は一般に勤勉で誠実な性格とされる。家族を大切にする文化が根付いており、仕事にも真剣に向き合う。温厚で親しみやすい人が多く、協力や調和を重んじる傾向がある。

 筆者(成家千春、自動車経済ライター)がベトナムを訪れた際、ライドシェアやタクシーを頻繁に利用したが、ほとんどのドライバーは丁寧な接客態度で安全運転を心がけていた。利用前は乱暴な運転や素っ気ない対応を想定していたが、実際は交通ルールを守り、観光スポットを親切に教えてくれるドライバーもいた。全体的に紳士的な対応が多かった印象だ。

 日本でタクシードライバーとして働くベトナム人の多くは、母国の家族を養うために来日する。仕事に真剣に向き合う姿勢は自然と強まるはずだ。彼らを単なる労働力としてではなく、日本社会に貢献する意欲を持った人材として捉える視点が求められる。

外国人ドライバーが担う未来

 国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2070年の日本の総人口は

「8700万人」(2023年と比べて約30%減)

まで減少し、その1割を外国人が占める見通しだ。2024年末の在留外国人は約377万人で、1年間で約36万人増加している。これは想定の2倍以上のペースであり、特に地方では労働力不足を補うために外国人労働者への依存が加速している。

 タクシー業界における外国人採用の拡大は、大きな変革をもたらす可能性がある。ドライバー不足の解消に加え、多様な文化的背景を持つ人材が増えることで、インバウンドや在留外国人にとって利用しやすい交通インフラの整備が期待される。

 さらに、外国人ドライバーの活躍が増えれば、社会全体で偏見が薄れ、共生意識が広がる可能性もある。外国人労働者の受け入れは、単なる労働力の確保にとどまらず、日本社会の多様性を高める重要なステップとなる。

カギを握る外国人ドライバー

 異なる文化を持つ人々が共に暮らす社会は、人口減少が続く日本にとって避けられない現実だ。

 タクシー業界が外国人ドライバーを受け入れることで、人手不足を解決できるかどうかは業界全体の取り組みにかかっている。

 日本社会は今後、外国人労働者とどのように共生し、発展していくのか。その在り方が、タクシー業界に限らず問われている。(成家千春(自動車経済ライター))

文:Merkmal 成家千春(自動車経済ライター)

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みんなのコメント

58件
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    人口減少だから何でも外国人に頼む?
    この考えが可笑しいですね?また自民党の愚策ですね!
  • vue********
    いやだからさ…日本の氷河期世代に有能な人達が沢山いる。待遇を改善して、彼等の雇用を促進して欲しい。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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