5000個突破の社食発カレー
スズキと、静岡県浜松市に本社を構えるブライダル・レストラン事業者の鳥善は、レトルトカレーを共同開発し、2025年6月25日に発売を開始した。ラインナップは、大根サンバル、トマトレンズダール、茶ひよこ豆マサラ、青菜ムングダールの4種類。販売価格は税込918円となる。
【画像】「えぇぇぇ?」 これがスズキが発売した「レトルトカレー4種」です! 画像で見る(計6枚)
毎日新聞の報道によれば、発売直後から売れ行きは好調で、6月27日に開かれたスズキの株主総会では、すでに累計販売数が5000個を超えたことが明らかにされた。スズキの鈴木俊宏社長は、
「社員食堂で提供しているカレーは13、14種類ある。シリーズでおふくろの味をもっと再現していきたい」
と語った。
今回のレトルトカレーは、2024年1月から鳥善がスズキ本社の社員食堂に提供している本格インドベジタリアン料理の食キットをベースとしている。インド出身のスズキ社員が「母親の味」として親しんできたメニューをもとに、鳥善がレトルト用のレシピを開発。スズキ社内での試食会を重ねながら商品化に至った。
本稿では、なぜスズキが本業とは異なる食品分野に取り組むのか、その背景と意図を掘り下げる。レトルトカレーを通じた取り組みは、単なる福利厚生にとどまらず、企業文化やグローバル人材戦略との接点を持つ可能性をはらんでいる。
インド市場の売上高4割占有
インドはスズキのグローバル戦略における中核市場だ。売上高の約4割を占め、販売台数では世界全体316万台のうち過半数がインド市場に集中している。
スズキはインド国内に四輪・二輪あわせて三つの生産拠点を持ち、従業員数は約2万3000人にのぼる。これは、国内単体の従業員数(約1万7000人)を大きく上回る規模であり、グローバル従業員数の約4割をインドが占める構図となっている。こうした数字が示すように、インドはスズキの海外事業にとって極めて重要な拠点である。
スズキは今後、日本の技術部門を中心に、インドを含む高度人材の外国人従業員を拡充する方針だ。外国籍社員が能力を発揮しやすい職場環境の整備は急務である。その一環として、社員食堂における食環境の改善にも取り組んでいる。
従業員の満足度を高めるこうした施策は、モチベーションや生産性の向上に直結する。加えて、企業ブランドの価値を高める要因ともなり、グローバル展開を進めるうえで不可欠な経営課題となりつつある。
食環境改善が生む組織力向上
スズキが2024年から社員食堂にインドベジタリアン料理の食キットを導入した背景には、労働環境の即時的改善だけでなく、外国籍人材の長期定着と能力発揮を前提とした職場形成の戦略的意図があるだろう。企業の成長は製品性能や価格競争力に依存するものではない。継続的なイノベーションを可能にする人的基盤の質が決め手となる。文化的背景が異なる従業員が能力を最大限に発揮できる環境構築は、経営資源の有効活用という観点からも急務だ。
今回の商品化されたレトルトカレーは、こうした組織課題への具体的な応答と位置づけられる。自動車開発の検証サイクルを食事領域に応用し、段階的なフィードバックを導入した珍しい事例である。試食会を通じて集められた評価や意見が開発工程に反映され、現場の声を経営判断につなげる仕組みが機能した。
外国人従業員の不満や不安は、待遇や報酬だけに起因しない。生活上の不便や異文化への適応負荷も業務パフォーマンスに深く関わる。食環境の改善はその一部に過ぎないが、日常の安定をもたらすことで組織への定着を支援する役割を果たす。特に宗教的制約や嗜好の差異が顕著な食事分野は、企業の文化的感度を測る指標として注目されやすい。
また、この施策は経営管理上の副次効果も生む。多様な従業員が自律的に関わることで、横断的な意見交換や知見共有の機会を増やし、組織の学習能力向上に寄与する可能性を秘めている。文化受容の姿勢は職場の信頼関係を育み、ミスやトラブルの兆候を表面化させやすくするため、潜在リスクの早期察知にもつながる。
「母親の味」という言葉に象徴されるように、食事は感情や記憶を媒介する。今回の取り組みは個人の帰属意識や安心感を高める効果も見逃せない。制度面の整備だけでなく、日常の接点で信頼形成を図る姿勢こそが、今後の人材確保・維持の鍵となる。
スズキはこの取り組みを文化的な一過性の対応とせず、経営の持続可能性を支える要素として明確に組み込もうとしている。社内での文化配慮の実践は対外的にも企業姿勢として可視化され、雇用ブランドや採用競争力の強化につながる。国際展開を進める企業にとって、これは経済指標に直結する重要課題であり、人的投資の費用対効果の再評価を促すものだ。
食を通じたこうした対応が普遍的モデルとなるかは、今後の成果蓄積と評価次第である。しかし現時点でも、労務リスク低減、職場秩序安定、文化摩擦緩和の面で一定の効果を示している。国籍・宗教・言語・嗜好といった多様性を前提とする職場づくりが求められる中、この取り組みは貴重な事例として注視されるべきである。
人気車イラストのブランド効果
4種類のレトルトカレーは、スズキのECサイトで販売されている。社員食堂で提供されるメニューをベースにしているが、一般販売の狙いはどこにあるのか。
パッケージには、ジムニーやハヤブサなどスズキの人気車種のイラストが描かれている。これは社内外の幅広い顧客層を意識し、スズキファンの拡大を狙ったものだ。また、開発を担当した鳥善が静岡県浜松市に本社を置くことから、地域経済の活性化も期待される。
イラストはデフォルメされた親しみやすいデザインで、子どもにも受け入れられやすい点が特徴だ。こうしたデザインからは、ブランディング効果やマーケティング戦略がうかがえる。
自動車メーカーが食品事業に取り組む例は少なくない。日産、ホンダ、三菱もレトルトカレーやルーを販売してきた。トヨタ博物館でもレトルトカレーが扱われ、2025年4月には30周年記念商品として新たに3種が発売された。
海外ではフォルクスワーゲン(VW)が1973年に社員食堂のシェフが考案したカレーソーセージで知られる。このソーセージに合わせ、1996年に特製ケチャップが開発された。昨年、米国で販売された際には部品番号「00010 ZDK-259-101」が付与され、即完売となった。
また、GM傘下のシボレーは米国南カリフォルニアで有機食品を展開するエレウォン社と協業し、2024年「エクイノックスEV エレクトリック・ジュース」を限定販売した。
食から始まる企業価値改革
すでに他社が先行していたなか、スズキがレトルトカレーの販売に踏み切ったのは、話題性を狙ったプロモーションの一環と考えられる。しかし、その本質は多様性を重視する社風の対外的なアピールにある。結果として、企業価値や経営合理性の向上につながる可能性が高い。今回のレトルトカレー販売は、長期的なブランド強化策としても評価できる。
グローバル企業であるスズキには、多様な従業員の価値観を理解し尊重することが求められる。この取り組みは、その重要性を改めて問いかけるものであり、他社が模倣すべき新たな経営モデルの可能性を秘めている。今後の販売動向に注目したい。
「自動車メーカーがカレーを売る」
という話は、一見すると話題性に頼った余技のように映るかもしれない。だが本質は、従業員の多様性を理解し、生活の細部にまで目を配ることが、結果的に経営効率や企業価値の向上に寄与するという教訓にある。
経済合理性は単なる「コスト削減」や「効率化」だけに還元されるものではない。むしろ、一見遠回りに見える対応の中にこそ、長期的な競争優位やブランド信頼の構築の鍵がある。スズキの事例は、多国籍企業が直面する共通課題に対するひとつの実践解といえるだろう。
今後、外国人材の受け入れがさらに進展する中で、製造業やサービス業でもスズキのような「食から始まる経営戦略」が模倣・発展することが期待される。(成家千春(自動車経済ライター))
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みんなのコメント
今更ながら驚かんよ
日本光学(ニコン)も羊羹を売っているしね(笑)