大のバイク好きとして有名なハリウッド俳優、キアヌ・リーブス氏。バイクへの情熱は留まることをしらず、なんと自身が理想とするバイクを開発し、アメリカで販売するまでに至ってしまった!
そのブランドの名は「ARCH MOTORCYCLES」(アーチ・モーターサイクルズ)。キアヌ・リーブス本人と共同経営者のガード・ホリンジャーに、ブランドの立ち上げから、市販モデル「KRGT-1」誕生までのストーリーを聞いた。
インタビュアー●アダム・チャイルド(イギリス人バイクジャーナリスト)
写真●アレッシオ・バーバンティ/アルナード・ピュイグ/ARCH MOTORCYCLES
【画像ギャラリー12点】キアヌが欲しいバイクを具現化、KRGT-1の精巧な仕上げを見る
2007年、ハーレーの改造車から計画はスタート
アダム:KRGT-1誕生の経緯は?
ガード:きっかけは、キアヌと理想のバイクについて話していて、彼が言ったんですよ、ほかとは違う、個性的なアメリカンクルーザーが欲しいって。
キアヌ:そう、振り回せるやつが欲しいってね!
ガード:それでプロトタイプをハーレーベースで造り始めたんですが、かなりカタチになってきたところでキアヌが「コレ量産しようよ!」って言うんです。最初は断ったんですが、ついにバイクが完成して、ふたりで代わる代わる乗ってみたら、これまで乗ってきたバイクとはまったく感じが違うと。そこから本気で検討しあって、ARCH(アーチ)を立ち上げました。
キアヌ:「KRGT-1」は最初に造ったバイクです。お客さんからのフィードバックと、社内のぼくらによるフィードバックをもとに改良を続けてきました。この1年でうちのバイクは相当進化してますが、ここにきて課題がふたつ出てきました。
ひとつは設計上の、スイングアームの改良を含めた理想の追求。もうひとつは懸案だったユーロ4(*)への対応ですが、これにはいろいろ苦労しました。ぼくらとしては、どうしても欧州で公認を取りたかったんです。そのためにはたとえば、リヤタイヤの覆いを拡大しなければならない。また、インナーフェンダーとタイヤの間隔を広げる必要もありましたが、これを逆に、リヤフェンダーを設計しなおすチャンスと捉えたわけです。
ユーロ4対応に向けての技術的な課題もありましたけど、これはデザインを見なおす絶好の機会じゃないか、クリエイティブになるチャンスだろうと。このバイクの随所にその成果が表れています。いわば、ユーロ4に対応させつつ改良を加えたわけです。
*ヨーロッパで現在適応されている環境規制。日本を始め同様の基準を取り入れる国も少なくない。そのため、世界統一基準とも言える。
アダム:どのような改良でしょうか?
キアヌ:最新の2020年型にはクールな装備をこれでもかと詰め込みました。ABSもそのひとつですが、そのためにはリザーバーとブレーキも同時に変える必要がありました。ダッシュボードはもっと情報量の多いものに刷新したかったので、それを実現するためにカウル本体やウインカーの配線も新しくしました。フロントエンド、シャシーの位置、スイングアームも換えました。従来型の進化版ですね。以前よりもハンドリングがクイックになってます。
アダム:ハンドリング、パフォーマンス、スタイリングのうち、改良にあたって重視するのはどれですか?
ガード:全部重視するしかないでしょうね。それを実現させるにあたってはキアヌとの共同作業が功を奏してます。当初の狙いはスタイリングの再検討でしたが、どうせなら自重とバネ下重量も少し削りたかったですし。
それからユーロ4ですね。キアヌの言うように、ユーロ4対応をデザイン上のチャンスととらえました。会社が小さいので、ぼくらの好きに変えられるんです。マーケティングとか、ロジスティクスとか、法務といった部門があるわけでもないですし。基本、ふたりでモーターサイクルをこしらえているだけなので。
キアヌ:実際、自分たちオリジナルのパーツを200点以上製造していて、開発上の試行錯誤なんていくらでもできますから、柔軟に対応できるんです。
アダム:このバイクと、2007年にキアヌがあなたのショップに持ち込んだ改造ベースのバイクを較べてみると、どうですか?
キアヌ:ハーレーのダイナでしたね。素晴らしいモーターサイクルなんですが、ぼくはもうちょっと振り回せるものが欲しくて。大きなVツインと太いリヤタイヤの付いたクルーザーの姿形は好きなんだけど、曲がるのにいちいちステップで道路を削ったり、フロントをコーナーに押し込むようにして曲がるのは嫌で。
欲しかったのはハンドリングの優れたバイクです。それと、長距離も走りたかったんですけど、途中で道が山道とかワインディングに変わっても平気なやつですね。そんな当初の理想に、だいぶ近づけました。まさにこういうのが欲しかったんです。
キアヌ・リーブス自身がテストライダーだった
アダム:パーツの開発、たとえばスイングアームを開発するときなど、実験台となるテストベッド専用マシンに組み込んで走ったりするんですか? テストはどのように行われるのでしょう?
ガード:試しにパーツを取り付けて走ったりするためのバイクは常時何台か置いてあります。今回チャドさんが乗ってる新型でも、3000マイル(約4800km)以上は走ってます。あのバイクでもパーツをテストしました。
キアヌ:試乗してもらったあの青いバイクで、ぼくも2500マイル(約4000km)近く走りました。あの赤いバイクでも走りましたね、距離はそれよりちょっと少ないですけど。ぼくにはもう1台、別のバイクがあって、そっちにはもう2万8000マイル(約4万5000km)乗ってます。
ガード:テスト走行は10万 マイル(約16万km)以上やってるんじゃないかな。キアヌはもうずっと走りっぱなしですから、2014年以来。ひとりで5万マイル近く、少なくとも4万以上はやったでしょう。公道テストで一番走ってるのがキアヌです。いろんな意味で、うちのテストライダーなんです。
キアヌ:ハハハ、だよね、テストライダーは大抵の場合、ぼくだね、ある意味。
ガード:キアヌはほかの誰にもマネできないことをやってのけるんですよ。モノをぶっ壊す天才なんです。
キアヌ:なにかが初期の段階で壊れたりする場合、それが電気関係なら必ず、ぼくのときなんです。わざとじゃないですよ、ぼくが持ってる天賦の才能なんです。
ぼくにとっての、これの醍醐味と楽しみのひとつは、とにかく疑問を投げかけられること。なんでそうしなきゃいけないんだろう、ほかに方法はないのかな、とか。その段階を経てからテスト走行に行くと。たとえば、うちのタイヤ選択のプロセスでも、ありとあらゆるタイヤの中から最適なものを見極めたいわけです。
あるメーカーから提携の打診があったりもしたんですが、このタイヤほど素晴らしくはなくて。いつもガードがバイクにタイヤを履かして、どっちが好きか教えろと言ってくるんです。
アダム:つまり、判断基準は「適性」であって、商業的な利益ではないと?
ガード:うちのバイクにベストなものを追求してます。といって、エキゾーストを例にとれば、片っ端から試したりはしません。これまでの経験で、ヨシムラなら必ずこのバイクに最適なエキゾーストを造ってくれるとわかってますから。
ふだんなら受注規模を重視するはずの企業が何社も、うちのバイクに興味を持って、サポートしてくれて、ビスポークパーツを製作してくれています。たとえばオーリンズもそうです。フォークはアーチ専用ですし、ハンドルスイッチひとつにしても専用品です。
──こうして開発されたアーチモーターサイクルズの「KRGT-1」は8万5000ドル(約940万円)で販売される。インタビューにもあったように、小さなパーツひとつひとつにこだわり抜いて作られることもあり受注生産となる。組み立てはロサンゼルスの工場で行われ、完成には最大90日かかるという。
アーチモーターサイクルズKRGT-1諸元
[エンジン・性能]
種類:空冷4サイクルV型2気筒OHV2バルブ ボア・ストローク:104.8mm×117.5mm 最大トルク:164Nm<16.7kgm> 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
ホイールベース:1727 シート高:706(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR19 R240/40ZR19 車両重量:244kg(乾燥) 燃料タンク容量:19L
[価格]
8万5000ドル(約940万円)
翻訳●横須賀 零 編集●上野茂岐
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みんなのコメント
買えないけど、めちゃ欲しい〜
キアヌのファンだけど、キアヌの人柄の良さを踏まえても丁寧に真剣に作ったバイクだと思うな。
この事業は成功しそうだし、大手に化けそう。
激しく応援
そのお金で車とバイク数台買えちゃうと思う自分は一生買わないのだろうな