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ウィリアムズの伝説は復活するか?──【連載】F1グランプリを読む

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ウィリアムズの伝説は復活するか?──【連載】F1グランプリを読む

ウィリアムズF1のヘリテージを守るために、ウィリアムズ家は大きな決断を下した。

価値はたった200億円?

「“脱”自動車会社」宣言! ロールス・ロイスのブランドロゴが変わった!

F1 Grand Prix of Great Britain - PracticeCharles Coates新型コロナウイルスの収束が見通せない中で、F1グランプリは半年遅れで開幕し、これまでに経験したことのない過密スケジュールでレースを重ねている。今週末8月30日決勝のベルギーGPを数えれば、7月~8月の2カ月で開幕戦オーストリアGPから7戦が消化されることになる。6戦までが終了している現在、ルイス・ハミルトンが4勝、バルテリ・ボッタスとマックス・フェルスタッペンがそれぞれ1勝を記録、早くもハミルトンの独走態勢が整いつつある。

こうした厳しい状況下でもレース・カレンダーは急ぎ足で消化されているが、コース上の戦いとは違う戦いもあちこちで行われており、勝者もいれば敗者もいる。ウィリアムズ・グランプリ・エンジニアリングはそのどちらになるのだろう? 8月21日、ウィリアムズはF1チームのウィリアムズ・レーシングをニューヨークに本社を置く米国の投資会社ドリルトン・キャピタルに売却した。売却価格は150万ポンド。邦貨に換算して約200億円。40年の伝統ある歴史が僅か200億円の価値しかなかった。しかし、立場によって捉え方は異なる。チームの創設者フランク・ウィリアムズの娘で副代表として実質的にチーム運営を担ってきたクレア・ウィリアムズは、「重要なのはウィリアムズのヘリテージを守ること。ドリルトンはそれを約束してくれた」と語る。

「彼らはウィリアムズというチーム名、所在地、レーシング活動、すべてを現状のまま残すことに同意してくれた。このことは、彼らがウィリアムズのF1における価値を理解してくれている証だ」とも。チームのオーナーシップは手放したが、ウィリアムズという名門の名前はこれからもF1グランプリの世界で存在し続ける。フォース・インディア、レーシング・ポイントと名前まで変わってしまったかつてのジョーダン・グランプリとはそこが違う。

ウィリアムズの身売りの話は以前から出ていた。そして今年5月、ウィリアムズはチームの一部、あるいはすべての売却に向けて話し合いをしていることを認めた。その時には売却先の名前を公表することはなかったが、その後も交渉はスムーズに運び、今回の売却締結に繋がった。ウィリアムズの取締役会でドリントルへの売却が議題に上ったとき、創業者のフランク・ウィリアムズを含めて満場一致で議決されたという。「将来、長期的にウィリアムズF1チームの成功を実現する最良の道」というのがその理由だった。

ウィリアムズの好調と低迷

ウィリアムズは1966年にフランク・ウィリアムズがレーシングチームを創業したことに端を発する。69年にはF1グランプリへの参戦を開始した。1977年になるとパトリック・ヘッドと共にウィリアムズ・グランプリ・エンジニアリングを設立、高性能マシンの開発が可能になり、成績は向上した。1980年、アラン・ジョーンズと共に初のチャンピオン・タイトル(コンストラクター、ドライバー)を獲得した。80年代半ばにはホンダ・エンジンを搭載して快進撃を見せ、86年、87年とコンストラクターズ・タイトルを獲得、87年にはネルソン・ピケがドライバーズ・タイトルも獲得したことは、日本人なら誰もが知るところだ。86年にフランク・ウィリアムズが交通事故に遭い車椅子生活になってからも好調の波は続き、92年、93年、94年、96年、97年とコンストラクターズ・チャンピオンに輝き、その間、ナイジェル・マンセル(92年)、アラン・プロスト(93年)、デイモン・ヒル(96年)、ジャック・ビルヌーブ(97年)がドライバーズ・チャンピオンの座に着いた。これまでコンストラクター、ドライバー合わせて16のチャンピオン・タイトルを獲得している。ところが、この好調な波も2000年代の半ばから崩れ始め、2018年、19年の2年間はコンストラクターズ順位で最下位の10位と低迷した。

Frank Williams, Patrick Head, Grand Prix Of CanadaPaul-Henri CahierF1チームが低迷すると悲惨だ。成績が下がるとスポンサーやFOM(フォーミュラワン・マネージメント)からの収入が減少し、開発資金に窮する。その結果、高性能なクルマの開発ができず、成績はさらに下落。するとさらなるスポンサー離れが追い打ちをかけ、財政状況はさらに悪化する。そこでスポンサー資金持ち込みのドライバーを採用するが、そういうドライバーは大方が才能に乏しい。彼らではレースの成績向上は望めない。これがウィリアムズが陥ったフランスのスパイラルだ。かつて栄光に輝いたチームといえども、レースの世界の厳しい現実からは逃げおおせなかった。もはやチーム存続のための残された道は、身売りしかなかったというわけだ。

F1の生臭い面

チーム消滅寸前でのドリルトン・キャピタルによる買収はまさに奇跡のタイミングと思われたが、これには確たる理由があった。実は数日前、2021年から先の新しいコンコルド協定にF1全10チームが署名、協定が発効することになった。そして、その協定にはチームの活動費に関して2021年は上限145万ドル(邦貨で約150億円)というコストキャップが設定された項目が含まれていた。コストキャップ設定の最重要目的は、クルマの開発費に制限を設けて、性能の似かよったクルマを登場させることにある。その結果、レースは激戦を取り戻す。これは、ウィリアムズのような中堅以下のチームにとれば、非常に大きな助けになる。少なくともウィリアムズのクルマもメルセデスに近づく。つまり、中団以下のチームにも光明が見えてきたということだ。ここ2年赤字を垂れ流し、最低辺で藻掻いていたウィリアムズにとれば最高の贈り物である。と同時に、ドリルトン・キャピタルにとっても、この先予想される投資の効率的削減に寄与するはずである。両者の思惑は、コンコルド協定を軸に一致したのだ。

F1 Grand Prix of Azerbaijan - PracticeDan Istiteneウィリアムズの身売り話は、はからずもF1グランプリの生臭い面を露呈したが、そもそも個人商店として始まったF1チームは近代化によってその形態が急速に変化した。ほとんどのチームが自動車メーカーの巨額の資金を受け入れて宣伝材料に成り下がってしまい、かつて個人商店を開いたパイオニア達の夢は潰えてしまったと言えるのかもしれない。クーパー、ロータス、ティレルといったチームは消滅し、ただひとつ残ったウィリアムズも創業家の手を離れた。伝統の名前が残っただけでも良しとすべきなのかもしれない。

Formula One Grand Prix Driver Nigel MansellBryn ColtonNelson Piquet, Patrick Head, Grand Prix Of AustriaPaul-Henri CahierPROFILE
赤井 邦彦(あかい・くにひこ)

1951年9月12日生まれ、自動車雑誌編集部勤務のあと渡英。ヨーロッパ中心に自動車文化、モータースポーツの取材を続ける。帰国後はフリーランスとして『週刊朝日』『週刊SPA!』の特約記者としてF1中心に取材、執筆活動。F1を初めとするモータースポーツ関連の書籍を多数出版。1990年に事務所設立、他にも国内外の自動車メーカーのPR活動、広告コピーなどを手がける。2016年からMotorsport.com日本版の編集長。現在、単行本を執筆中。お楽しみに。

文・赤井邦彦

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