新型コロナウイルス感染拡大に伴い、経済の先行きも不透明になりつつある。投機目的で購入されたスーパーカーは、今、どうなっているのか?
市況は様子見か新型コロナウイルス感染拡大による世界的なパニックが、人々の生活に出口の見えない不安と混乱を巻き起こしている。多くの活動が制限または禁止されるなか、株価は底なし沼に落ちてしまったかのような下落をみせた。
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そこで思い出すのが2008年9月に起こったリーマンショックだ。世界経済の落ち込みから日本の株価も急落し、日経平均は一時、ショック前のほぼ半値になる6000円台まで落ち込んだ。そのとき、投資目的で購入されていた高価なスーパーカーやクラシックカーの相場も急落し、投げ売りするユーザーも多く見られたのだった。
果たして、今、日本はふたたびおなじような状況にあるのだろうか? スーパーカーやヴィンテージカーの流通に詳しい人物数名に匿名条件でインタビューを試みた結果、面白い事実が浮かび上がってきた。
現時点(3月21日)で言えることをまとめると、「確かに安くなってはいるし、売りたい人も増えているが、買いたい人も少なからずいて、市況は様子見の様相」とのこと。つまり、どっちに転ぶか分からないという状況なのだ。リーマン時と異なり、様子見になっている状況にはさまざまな要因が考えられる。
ひとつは新型コロナ問題にかかわらず、相場は下がっていたという説だ。実は近年高騰した車種の多く、たとえばフェラーリ「ディーノ」やナローポルシェ、トヨタ「2000GT」は2017年あたりを境にして既に下がりつつあった。クラシックカーバブルは徐々にしぼみつつあったのだ。なかには4割近く相場が下落していたモデルもあって、世界的に見ると一握りの貴重なモデル(ヴィンテージ フェラーリの人気車など)を除き軟調となっている。
事実、コロナ騒ぎが世界規模で本格化する直前の1月中旬、アメリカで開催された著名なオークション(RMサザビーズやグディングCo.など)では、成約率こそ高かったのが、よくよく調べてみると多くのモデルが以前に比べて安い価格帯でハンマープライスとなっていた。このあたり、アメリカや中国の株式事情も昨秋あたりから先行き不安となっていた(=コロナがなくても下がっていた)から、そういう意味では見事に“経済連動”していると言っていい。
引き合いの多いモデルも存在また、とあるブローカーは「確かに売り物は多いけれど、それほど安くなっているとは思わないし、なにより季節要因も売り物が増えた理由としては大きいのでは?」と、話す。
なるほど例年2~3月は、決算と保有者に掛かる自動車税の期限などが重なるため、BtoBのオークションでは2、3割程度売り物の台数が増える時期なのだ。
「高額なスーパーカーを販売している店でもパニックにはなっていない。けれども、4月に入っても売り物が増えていく状況になると慌て出すと思う」ということらしい。4月になれば反動でがくんと売り物が減るが、そうならなければいよいよ状況は深刻というわけだ。
これだけ株価も下がり、営業や操業が停止に追い込まれている事業もあるから、資金繰りに苦しんでいる人もいるはず。とあるショップオーナーによると、「飲食や貴金属、トレーニングジムやデイケアサービスなど、影響をもろに受けたコレクターが手持ち資金に不安を感じてコレクションを放出するというケースはありますが、反面、株やFXで儲けたという人もいるので、どちらとも言えませんね」らしい。
ほかにも大物クラシックカーを売りたいという話をいくつか聞いたが、いずれの所有者も、人の動きが停まって不安を感じる業種だった。とはいえそもそも値崩れを起こすほど数のあるクルマではない。
「むしろ一部のクラシックカーやスーパーカーでは引き合いも多い」というネットディーラーの証言もあった。とくに国産旧車や比較的安い価格帯のマニアックなモデル(1000万円以下)、フェラーリの買いやすいモデル(360モデナから458あたりまで)には問合せも多く、以前と変わらず売れているという。
また、少し前に販売されたフェラーリの限定車(F430スクーデリアや458スペチアーレなど)や特定の最新人気モデルには強気な価格で販売されているモデルもあって、ほかにもメルセデス・ベンツ「G350d」などはプレミアム価格で取引される場合も多いらしい。リーマン時もそうだったが、フェラーリはやはり強いのだ。
リーマンショックのとき、最新モデルを投機的に買った人がパニックになって投げ売りする状況もあった。けれども、あの時はリーマンブラザーズの破綻という金融機関自体がパニックの直下型震源であり、今回の疫病パニック(少なくとも現時点までの)とはいささか状況が異なる。なんといっても日経平均が下がったとはいえ、まだしもリーマン前より高い水準だ。たとえ投機的に高額車両を買っていたとしても様子を見ようという意識のほうが今は強いのだと思う。
“厳しい”販売戦略も投げ売りが起こらない原因かもうひとつ以前と決定的に違うのが、投資の対象となるような限定モデルにメーカーが付す購入条件がかなり厳しくなっていることも挙げていい。投機目的での購入を避けるため、アノ手この手でカスタマーを篩にかけており、実際、その手のモデルを実際に購入できた人たちをみても以前に比べて“真のマニア”が多くなっている。フェラーリの限定車などは、すでに限定車を持っていて、それを所有したままで、公式イベントなどに積極的に参加する人に優先的に割当てられるようになったという。
そうして貴重な限定車を手に入れたロイヤルカスタマーも、もちろんリセールバリューを気にはしているが、慌てて売ってしまうと次の限定車が回って来ない=付き合いが断たれるというリスクもある。「我慢できるうちは我慢しよう、好きなブランドのクルマだから」という意識が働いたとしても不思議ではない。このあたり、長い目でみてブランド価値やモデル価値を守るためにメーカーが取り組んだ“厳しい”販売戦略が功を奏したと言っていい。
とはいえ、それもこれも新型コロナウイルスでただパニックになっている間だけの話であって、もし仮に実体経済への悪影響が数字となって顕著に出てしまったあと(3月末)では金融機関への悪影響も本格的に出て世界経済が本当に冷えきってしまうという事態は避けられない。そうなると高額車の相場下落、投げ売りという状況も十分にありうる。
世界的に新型コロナウイルスが感染拡大した3月に、アメリカで開催された著名オークションでは、強いはずのクラシックフェラーリにもさすがにかげりがみえ始めており、「365GTB4デイトナ」や「512BB」といった人気モデルがはっきりと安い価格で落とされていた(もっともこの手のクラシックモデルの場合、その個体の程度やヒストリーによって価格の上下幅がかなりできるので一概には言えない)。
一方、ホンダ「NSX」(初代)など大きく値を上げたモデルもあって、やはり状況は未だ混沌としていると言ってよさそうだ。
現時点では多くのユーザーが様子見をしている段階と言ってよく、状況が変わるとすれば4月に入ってからではないか? と、予測する。前述したBtoBオークション出品台数の増加などはその目安になることだろう。
個人的にはマクラーレンやランボルギーニの限定モデルが安値で取引きされたときに高級車相場が崩れはじめ、やがてフェラーリの限定車にもその影響があらわれると面倒なことになると思う。
人気モデルの相場下落は狙っている人にはチャンスかもしれないが、そういうときには誰しも買えない状況になっているもの。この予想が当たらないことを祈りつつ、推移を見守りたい。
文・西川淳
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