現在位置: carview! > ニュース > スポーツ > 角田裕毅とエンジニアの齟齬とピットタイミング。海外で戦う若き日本人F1候補生【中野信治のF1分析/第13戦&第14戦】

ここから本文です

角田裕毅とエンジニアの齟齬とピットタイミング。海外で戦う若き日本人F1候補生【中野信治のF1分析/第13戦&第14戦】

掲載 更新
角田裕毅とエンジニアの齟齬とピットタイミング。海外で戦う若き日本人F1候補生【中野信治のF1分析/第13戦&第14戦】

 サマーブレイク前の2連戦は、いずれもマクラーレンが他を圧倒。一方のレッドブルはチーム代表交代に始まり、角田裕毅とエンジニアのコミュニケーションミスに加え、マックス・フェルスタッペンですら苦戦する厳しい状況が続きました。

 今回は、ローラン・メキースのレッドブル代表就任とその影響、ドライバーとエンジニアの相性、ハンガリーGPで好走見せたアストンマーティン勢、そして海外で戦う若手日本人ドライバーについて、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。

F1の2025年第2四半期は収益が大幅増加。前年同時期と比較し35%アップ、映画『F1/エフワン』の効果も

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 ベルギーGPは、クリスチャン・ホーナーに代わってメキースがレッドブルのチーム代表に就任して迎えた最初のグランプリとなりました。チーム代表の交代理由が定かではないこともあり、メキース代表に代わってどのようにチームが変わっていくのかはまだわかりません。

 メキースはエンジニア出身ということもあり、ドライバーからすれば仕事がやりやすくなるかもしれませんね。とはいえ、仕事がやりやすい=結果に繋がると言えるほど、F1はシンプルで簡単なものではありません。苦戦が続くレッドブルにとって、メキースの代表就任は変化のきっかけとなるとは思いますが、結果を含めた本当の意味での変化にはすごく時間がかかるだろうと見ています。

 私がF1に参戦していたころのチーム代表は、チームオーナーが兼務していることが少なくなく、チームの仕事であれば細かいひとつひとつを指導する監督的な存在でした。現在のチーム代表の仕事は、財政面を含めF1チームを会社としてマネジメントすることです。エンジニア出身で、チーム代表としてのキャリアは2024年のレーシングブルズからと短いメキースが、飲料メーカーのレッドブルというオーナーのもとでレッドブル・レーシングという会社をどのように導くのか。そして、メキースが苦境を脱するために、チームの何を変化させたいのかは、注視しています。

 そんなレッドブルの苦戦ぶりは厳しく、ハンガリーGPではあのフェルスタッペンですら予選8番手に終わる状況となりました。走りを見るに、全体的にグリップ感がなく、アンダーステアやオーバーステアなどという前にタイヤが路面を捉えることができていない深刻な状況でした。ハンガロリンクは例年レッドブルにとって相性の悪くないコースでしたが「どうしてこんなに悪くなるのかな」と、正直驚きました。

 ただ、裕毅にとってポジティブだったのは、ハンガリーGPの予選Q1でフェルスタッペンに0.163秒差まで迫ったことです。予選16番手でQ1敗退、決勝は17位というリザルトだけを見てしまうとネガティブな印象を抱かれてしまいそうですが、レースウイークの中身を見てみるとベルギーGPはフロアを変更した後は、その分のタイムを上げていますし、続くハンガリーGPもライバル勢とそこまで大きなタイム差があったわけではありません。

 一発のタイムアタックでフェルスタッペンとの差が大きくないということが見れたのはポジティブでした。つまり、クルマのポテンシャルが上がった際にフェルスタッペンとのタイム差を0.1秒台でキープできれば、トップ5に入れることを意味します。そのため、現状の裕毅に対しては「やれることをやっているな」という印象を抱いています。

 とはいえ、ベルギーGPでは裕毅とエンジニアのコミュニケーションの齟齬から最適なピットタイミングを逃しています。続くハンガリーGPでも1回目のピットタイミングについて誤解が生じ、ポジションを失った裕毅はハンガリーGPのレース後に『エンジニア陣とのコミュニケーションであまり息が合っていないので、それが最大の課題です』という内容のコメントをしていました。

 ドライバーとエンジニアには相性があります。ドライバーにとってエンジニアはもっとも近い存在で、1言えば10理解してほしい、阿吽の呼吸で物事を進めることができる関係を構築したいと考えます。無線を聞く限り、エンジニアとのコミュニケーションはチグハグな感じです。

 ただ、ベルギーとハンガリーで問題となったシチュエーションは、エンジニアにとって判断がものすごく難しい、レースの展開を大きく左右するような場面でした。また、国際映像などで無線音声は、F1の映像スタッフが内容を聞いた上で放送に載せるか否かを判断することもあり、必ずしも映像と同じタイミングではありませんので、そこは留意する必要があります。

 レッドブルは、もともと戦略面で強く、ミスが少ないことがチームの強みでした。そのレッドブルが戦略や物事への対処の仕方で他チームに劣るのかという点には疑問を抱いています。なぜ裕毅との無線で齟齬が出てしまうのか。これは全部の無線を、いつどこを走っているところで発せられた言葉なのかをすべて理解した上でないと、原因はわかりません。そして、それに対する分析は、おそらくレッドブルのなかで進められているでしょう。状況を好転させるためには、裕毅とエンジニア陣がお互いに歩み寄り、改善し続けるしかありません。


■アロンソの好走を支えたハンガロリンクの中速レイアウト

 ベルギーGPでは予選で揃って最後列となり、決勝はノーポイントに終わったアストンマーティンが、ハンガリーGPでは揃って予選Q3に進出し、決勝はフェルナンド・アロンソが5位、ランス・ストロールが7位でダブル入賞。さらに言えば、アロンソは腰の痛みからフリー走行1回目(FP1)を欠場しながらも、ベスト・オブ・ザ・レストの走りを見せました。

 レッドブルとは真逆で「どうしてこんなに良くなったのかな」と、なりました(笑)。FP2からは2台とも常にトップ10以内をキープしていたこともあり、持ち込みのセットアップやエアロパッケージの一番おいしいところが、ハンガロリンクの速度域にハマったとも考えられますね。

 また、ハンガロリンクは高速コーナーがないため『独特な速度域でスロットルコントロールしながら、中速域で高速コーナーを走る』ようなドライビングが求められます。そして、アロンソの走りが特に光ったのは、高速コーナーがないため加齢による目などへの影響が出にくく、コントロールしやすかったからではないかと感じています。


■海外で戦う若手日本人のコース外での取り組み

 さて、先日2度フランスに行き、フォーミュラ・リージョナル・ヨーロッパ(FRECA)に参戦する加藤大翔、フランスF4に参戦する佐藤凛太郎という、ホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト(HFDP/ホンダの若手ドライバー育成プログラム)ドライバーの戦いを見てきました。  ヨーロッパ2年目の大翔は、びっくりするくらいチームに溶け込んでおり、チームメンバーに『大翔のために頑張ろう』と思ってもらえるような空気作りができていました。大翔は走りも悪くないですが、それ以上にクルマを降りてからのチームとの関わり方をすごくうまくやれていると感じました。これは世界で戦う上ですごく大切なことです。自分を中心に物事を進めることができている姿は、見ていて頼もしいなと感じましたね。

 そして今年からフランスF4を戦う凛太郎は、本当に真面目で、一生懸命すぎるくらい一生懸命なタイプです。ホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)在籍時から変わらず、周りのライバルよりも一番データやオンボード映像を見ることに時間を使い、自分の走りを改善することにフォーカスしていました。

 FFSA(フランス・モータースポーツ連盟)アカデミー主催のフランスF4はチーム戦ではなく、ドライバー4人をエンジニア1人が担当するようなスタイルです。凛太郎はライバルに速いクルマがいれば、そのクルマの担当エンジニアが自分の担当ではなくてもセットアップについて話を聞きに行ったりします。そういう行動がいつでもできるよう、気軽に話を聞けるネットワークを構築するなど、貪欲に戦っている姿が印象的でした。

 ふたりともコース内での走りだけではなく、コース外で周りを味方につける取り組みがしっかりとやれていたので、その成長ぶりには逆に感心させられるくらいでした。彼らの今後の成長が楽しみです。

 さて、F1はサマーブレイクを迎えました。ここまでの14戦、マクラーレンの強さが際立ち、マクラーレン一強の構図はサマーブレイク明けも変わらないでしょう。ただ、サーキットの特性次第ではフェラーリ、メルセデスが対抗馬になることもあるでしょうし、今後どのレースでマクラーレンを下せるかは見どころです。また、サマーブレイク前にポテンシャルを上げたキック・ザウバーなどの中団勢が、その調子を維持できるか。そしてレッドブルが苦境を脱することができるかということも、注視していきたいと思います。


【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。

・公式HP:https://www.c-shinji.com/
・公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

[オートスポーツweb 2025年08月12日]

文:AUTOSPORT web
【キャンペーン】8月の毎週金・土・日はガソリン・軽油7円/L引き!(要マイカー登録&特定情報の入力)

こんな記事も読まれています

大波乱のチャンピオン争い! 14位に終わったウェーレインが戴冠。バーナードが最年少優勝|フォーミュラE最終戦ロンドン
大波乱のチャンピオン争い! 14位に終わったウェーレインが戴冠。バーナードが最年少優勝|フォーミュラE最終戦ロンドン
motorsport.com 日本版
ネタ画像が現実に!? ワゴンボディでニュル24時間を戦う! しかも5位に輝いた「M3ツーリング」の裏話
ネタ画像が現実に!? ワゴンボディでニュル24時間を戦う! しかも5位に輝いた「M3ツーリング」の裏話
ベストカーWeb
生ハム添えれば気分はイタリアン!? “辛ラーメン”をアラビアータ風に キャンプツーリングの簡単アレンジ飯
生ハム添えれば気分はイタリアン!? “辛ラーメン”をアラビアータ風に キャンプツーリングの簡単アレンジ飯
バイクのニュース
大戦を生き抜いた「第百二号哨戒艇」に米軍が驚愕したワケ なぜ敵艦を米本土まで持ち帰ったのか?
大戦を生き抜いた「第百二号哨戒艇」に米軍が驚愕したワケ なぜ敵艦を米本土まで持ち帰ったのか?
乗りものニュース
ボルボの新型フラッグシップSUV「EX90」 輸入車ブランドオーナーからも関心高まる 販売店での反響は?
ボルボの新型フラッグシップSUV「EX90」 輸入車ブランドオーナーからも関心高まる 販売店での反響は?
くるまのニュース
世界限定750台のみの“ファクトリーカスタム” トライアンフ新型「スピードツイン1200TFC」日本登場 希少なモダンクラシックに対するネットでの反響をまとめてみた
世界限定750台のみの“ファクトリーカスタム” トライアンフ新型「スピードツイン1200TFC」日本登場 希少なモダンクラシックに対するネットでの反響をまとめてみた
VAGUE
トラックを着ける場所を見れば中身が想像できる!? 物流倉庫の「フォーム」「バース」ってなに?
トラックを着ける場所を見れば中身が想像できる!? 物流倉庫の「フォーム」「バース」ってなに?
WEB CARTOP
高いタイヤと安いタイヤの違いとは?値段が異なる理由と用途別おすすめのタイヤを紹介
高いタイヤと安いタイヤの違いとは?値段が異なる理由と用途別おすすめのタイヤを紹介
グーネット
オーバーヒートを防ぐための重要な目安! 冷却水の状態を確認できる「水温計」とは?
オーバーヒートを防ぐための重要な目安! 冷却水の状態を確認できる「水温計」とは?
バイクのニュース
「乗車券まで一緒ならラクですね」 107施設をつなぐ「ぐるっとパス」、なぜ東京の“移動”が変わり始めたのか?
「乗車券まで一緒ならラクですね」 107施設をつなぐ「ぐるっとパス」、なぜ東京の“移動”が変わり始めたのか?
Merkmal
「次は37インチタイヤ」東京のど真ん中でオフロードを貫くランクル250
「次は37インチタイヤ」東京のど真ん中でオフロードを貫くランクル250
Auto Messe Web
フェルスタッペン、後半戦の”優先事項”は「週末の途中でパフォーマンスが落ちてしまう問題を解決する必要がある」
フェルスタッペン、後半戦の”優先事項”は「週末の途中でパフォーマンスが落ちてしまう問題を解決する必要がある」
motorsport.com 日本版
すごいカクカクな新型ホンダ! 往年のカクカク系バイク“ぜんぶMIX”な一台、装備も遊び心満載! 日本でも買える
すごいカクカクな新型ホンダ! 往年のカクカク系バイク“ぜんぶMIX”な一台、装備も遊び心満載! 日本でも買える
乗りものニュース
アウディ新型「A6アバント」に試乗 2リッター直4ターボ搭載の4WDステーションワゴンに注目
アウディ新型「A6アバント」に試乗 2リッター直4ターボ搭載の4WDステーションワゴンに注目
くるまのニュース
ボルトレト、今後数年アウディで活躍か「条項とかないし、長期プロジェクトだからね」2年目も成長実感中
ボルトレト、今後数年アウディで活躍か「条項とかないし、長期プロジェクトだからね」2年目も成長実感中
motorsport.com 日本版
あれ、遠回りなのに早いぞ… 高速ICすぐ 群馬の知る人ぞ知る「東西横断“農道”」が使える件 心底寒そうな名前!?
あれ、遠回りなのに早いぞ… 高速ICすぐ 群馬の知る人ぞ知る「東西横断“農道”」が使える件 心底寒そうな名前!?
乗りものニュース
トヨタ「カローラスポーツ」60周年記念車登場 販売店に寄せられた反響は?
トヨタ「カローラスポーツ」60周年記念車登場 販売店に寄せられた反響は?
くるまのニュース
玩具感覚でスクエアパーツを組む。3プランから選べるクールの無骨ジムニー
玩具感覚でスクエアパーツを組む。3プランから選べるクールの無骨ジムニー
Auto Messe Web

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村